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第51話 配当の日

冬の締めの日は、取引網の全員に配分を配って回る日と決めている。


配るのは金だけじゃない。この一年、誰がどう守られて、どう増えたか。それを本人の顔を見て確かめて回る日だ。朝から便に乗って、結び目を順に回った。


最初は発着場のガロの班。


日当は、秋の200から220、240ときて260まで上げた。物価とちょうど同じ上がり幅だ。その上に塩1袋の給付が毎日付く。袋は物価に食われないから、実質では実装前より少し得になっている計算だ。


「よその班の若いのが、うちの面接に並ぶんだ」ガロは荷台を叩いて笑った。「理由聞いたら、飯がうまいって。日当の字面じゃなくて、飯なんだよ、あいつら」


袋は袋だ、と最初に給付を受け取ったときのガロの言い草を思い出す。袋は袋のまま、飯になって、人を連れてくる。


班の新入りが、荷札の書き方をガロに叱られていた。叱ったあとで、ガロは自分の飯の串を半分に折って渡していた。ああいう場面で人が育つ発着場を、日当の額面だけで真似するのは難しい。うちの配当は、ああいう場面の中にも積んである。


スターディアのテツジン。


鋼の仕入れは3割上がったが、加工賃も連動で3割上がる契約にしてある。利幅の割合は、実装前と同じまま保たれた。


「現実の町工場じゃ、こうはいかなかった」テツジンは炉の火を見たまま言った。「固定で受けて、鋼が上がって、潰れかけた。こっちじゃ潰れる気がしねえ。それだけで御の字だ」


配分の袋を渡すと、代わりに短剣を一本くれた。蒼晶入りの新しい鋼の、試作の一号だという。


「切れ味は保証しねえぞ。試作の一号ってのは、二号のためにあるんだ」


「なら二号は買う。定価でな」


「おう。高いぞ。蒼晶入りだからな」


売り物になる前の物の値段の話で笑い合う。工房との配当は、こういう軽口の形もしている。


店に戻って、コウ。


歩合とは別に、冬の賞与を8000付けた。


「……帳面に、自分の名前の行があるの、変な気分です」


「番頭の行だ。来年は助番頭の行も増える。おまえが書く側だぞ」


ミレイユは全員分の配分計算書を仕上げて届けてくれた。数字の増えた分と、それで買える量と、両方が書いてある。彼女が言った。


「全部の行で、数字と買える量の両方が増えたわ。この網では今年が初めてよ」


検算役の一言は、どんな祝辞より効く。


便の締めに、護衛代をユキハに渡した。護衛代も相場連動だから、この冬でちゃんと上がっている。


「現実の弓のほうは、どうなんだ」


「春に大会がある。的までの距離は値上がりしないから、気は楽」


「距離が据え置きなら、いい相場だ」


「ん。だから両方やってる」


向こうの世界に大事なものがある人間は、こっちの世界でも壊れない。うちの護衛が確かな理由の、たぶん半分はそれだ。


夕方の店先で、ムギ。


薬草の直買いを始めてから、彼の売り値は壁の相場と一緒に動くようになった。買う技術は元から持っている。朝に買って、昼に売って、夜に数える。


台の上に積まれた銅貨の塔は、秋に初めて見たときより2段高くなっていた。


「数える分が、増えました」ムギは真顔で言った。「数えるのは、好きなので」


それから少しだけ迷って、付け足した。


「あと、朝の店は、いい匂いがします」


燻製の樽が来てから、朝の棚は確かに匂いがいい。数字に出ない配当も、ちゃんとある。


壁の朝の相場は、いまでは半分ムギの字だ。書き役の手間賃も、壁が守っている側から出してもらう理屈はないから、うちの帳面から出している。


最後に、島。先週、便りと荷が届いていた。


硫黄石の口銭は変わらず入っている。それとは別に、春から飼い始めた豚が育って、初出荷になったという。肉の値段はこの冬の物価で上がっているから、島の実入りは思ったより太い。


荷の中身は燻製肉の樽だった。文が添えてある。定期便の新しい売り物として、うちに独占で卸したい、と。石に値段を作った借りは物で返す、という島らしい理屈も書いてあった。


借りじゃなくて商いだ、と返事はもう出してある。独占の卸は受ける。値は相場連動、壁に毎週書く。


樽は先にひとつ開けて、店で試しに出してみた。夕方には売り切れた。コウが言うには、蒼海へ通う客が保存の利く飯を探しているらしい。島の豚が、海の向こうへ行く財布に売れる。地図のこっち端とあっち端が、うちの棚の上でつながった。


夜、全部を締めた。配って、配って、それでも帳面は増えて、名目124万。


秋の壁と、同じ数字だった。偶然だが、悪くない偶然だ。名目では、あの壁とちょうど同じ高さまで来た。中身の重さが違うことは、俺がいちばんよく知っている。


配る相手が増えるほど、うちの帳面も増える。全員が勝つ取引は続くからだ。片方だけが勝つ取引は、勝った一回で終わる。うちの取引網がこの冬に証明したのは、たぶんそれだ。


締めの頁に、全員の行を写した。荷役の行、工房の行、店の行、島の行、壁の行。どの行にも、増えた数字が入っている。読み上げる相手はいないが、小さく声に出して読んだ。商いの帳面で、これがいちばん景気のいい頁だ。


値札板。塩15、串焼き2本で12、宿代68。名目124万。


◇――――――――――

【行商人の帳面 その51】

・配当の形は金だけではない。連動の契約、物の給付、壁の相場表。どれも「物価に食われない取り分」だ。

・配るほど帳面が増えるのは、配った相手が稼ぐからだ。全員が勝つ取引だけが、来年も続く。

・名目124万。秋の壁と同じ数字に、配りながら届いた。

◇――――――――――

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