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第47話 行列は信用で選ぶ

【お知らせとお詫び】


いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。


このたび、第二部(第27話以降)の本文を、構成から全面的に作り直しました。

すでに読み進めてくださっていた読者の皆様には、途中で内容が大きく変わる形となってしまい、本当に申し訳ありません。


当初の想定よりもずっと多くの方に読んでいただけていることを受けて、第二部を改めて見直し、より楽しんでいただけるよう構成から作り直した次第です。

第27話以降は、新しい本文に差し替えております。


お手数をおかけしますが、もしよろしければ第二部、27話から改めてお読みいただけると幸いです。


また、改めて、たくさんの方にお読みいただき、本当にありがとうございます。

とても励みになっております。引き続き、よろしくお願いいたします。


朝の発着場に、列ができていた。荷を頼みたい荷主が4人、連動契約に入りたい工房が3軒、荷役の志願が6人。うちの取引網に入りたい人の列だ。


先頭は夜明け前から並んでいたらしい。連動契約の中は物価の波をかぶらない、という話が掲示板で広まってから、こういう朝が増えた。


広げる。ただし、選んで広げる。今日はその面談の日だった。


一次の聞き取りはコウに任せた。聞くことは三つに絞ってある。帳面を見せられるか。納期を破った回数と、破ったときに何をしたか。相場に連動する値決めを呑めるか。


二次は俺が座った。最初の相手は、干し魚の荷主だった。


「シガーと申します。リーデンの浜で干し魚をやっております。荷は、週にざっと——」


「数は帳面で拝見した。週40枠ぶんですね。聞きたいのは一つだけ。先月、卸先への納めが一日遅れてる。何があったんです」


「時化です。船が出ませんでした。遅れると分かった朝のうちに卸先へ使いを出して、翌日着でいいか、先に詫びました」


それが聞きたかった。遅れない商人はいない。遅れ方のきれいな商人と、汚い商人がいるだけだ。時化は防げないが、使いは出せる。先に出す側の人間なら、うちの便に乗せられる。


昼までに、コウが振り分けを持ってきた。


「荷主は3件通します。干し魚のシガーさんは、リーデンからアルテガへ週40枠。運賃は相場連動で承知済みです。帳面も見せてくれました」


「よし、通す」


「1件は保留にしました。……というより、断りたいです。運賃を3か月固定にしろと言っています。固定にしてくれるなら枠代を2割増しで払う、と」


2割増しは、目先だけ見ればうまい話だ。だが3か月固定で運賃を売るのは、石板に売値を彫るのと同じことになる。この物価で3か月先の値段を約束したら、上がった分はうちが黙って被る。


分かっている罠には、入らない。


「断る。ただし、連動でよければ通常の枠代で受けると伝えてくれ。固定が欲しいのは、たぶん転売の仕込みだ。うちの便を安い保険代わりに使う気だろう」


相手は結局、連動を呑まずに帰ったという。それでいい。呑めない理由がある客は、呑めない理由ごとよそへ行ってくれたほうが安い。


コウは断りの記録も帳面につけた。断った相手、理由、代わりに出した条件。次に同じ話が来たとき、同じ答えを同じ言い方で返すためだ。答えのぶれない店は、断っても信用が減らない。


工房は3軒とも通した。テツジンの口利きで、帳面も納期も裏が取れている。これで契約工房は16軒になる。


3軒のうち1軒は、革の工房だった。金物ばかりだったうちの品書きに、革が加わる。蒼海行きの連中は革の消耗が激しいと、テツジンが教えてくれた。取引網の広げ方には、太くする広げ方と、広くする広げ方がある。今回は広くを取った。


荷役は6人のうち4人。ガロの班は12人になった。護衛はユキハが1人だけ通した。


「弓の構えを見れば、練習の量は分かる。嘘の数だけ、構えが軽くなる」


面接の基準としては変わっているが、彼女が通した護衛で外れが出たことは一度もない。現実で引いてきた弓の目利きらしい。それ以上は聞かないことにしている。


荷役の面接では、ガロが妙な試験をやっていた。荷袋を担がせるのかと思えば、担いだ袋を「そこの棚に、音を立てずに置け」と言う。


「重い物を持てる奴は掃いて捨てるほどいる。他人の荷物だと思って扱える奴が、いねえんだ」


うちの発着場で荷崩れの事故が起きない理由を、初めて言葉で聞いた気がする。


落ちた2人には、落ちた理由を紙で渡した。荷札の字が覚束ないこと。前の働き口の話で辻褄が合わなかったこと。理由の付いた不合格は、次に応募するときの種になる。列に並んでくれた人への、うちなりの礼だ。


午後、コウにもう一つ辞令を出した。


「助番頭を1人付ける。一次の面談と壁の朝の書き込みは、今日からそっちの仕事だ。おまえは数字の検算と、俺の代わりに断る仕事をやれ」


「断る仕事、ですか」


「通すのは誰でもできる。断って、それでも相手との縁が切れない言い方を探すのが、番頭の仕事だ」


コウは少し考えて、うなずいた。朝の面談で保留と言い換えたのは、もうその練習だったのだと思う。


夜、増えた分を帳面に入れた。


新しい荷主3件で枠は週120増える。これで定期便の枠は週640。秋のほぼ倍だ。枠代と口銭を足して、週の実入りは1万2000から1万5000になった。


増やした枠が埋まり続けるかは、来週から数える。埋まらない枠が出ても、値下げはしない。便の組み方と荷の集め方を変えて埋める。運賃は相場のまま、空きは工夫で埋めるのが、うちのやり方だ。


列は、うちの信用に並んでいる。金に並ぶ列は金が尽きれば消えるが、信用に並ぶ列は、断り方さえ間違えなければ消えない。だから断る仕事がいちばん大事になる。


発着場の帳場に、面談の三つの基準を書いた紙を貼った。次の列は、この紙を読んでから並んでくれる。


壁の隅には、今日通した名前が増えた。名前が増えるたび、断る仕事も増える。それでいい。断れない店から順に、何でも屋になって沈んでいく。


帰り道、競売所の前を通った。予告板の前で、商人が二人、声を落として何か話していた。来春、市場の北に増設の区画が出るらしい——まだ噂だ。ただ、板の前の足の止まり方が、噂にしては少し長い。


値札板。塩13、串焼き2本で11、宿代62。名目104万。


◇――――――――――

【行商人の帳面 その47】

・行列ができたら、選ぶ基準は金ではなく信用。帳面を見せられる相手、納期の履歴、連動を呑めるか。

・良い取引相手は予測できる相手。予測できる相手だけ入れた取引網は、事故を起こさない。

・断り方は通し方より大事。縁を切らずに断れれば、列は消えない。

◇――――――――――

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