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第21話 一人5個まで、定価で

打ち手は3つ。順番に打った。


一つ目。仕入先を守る。


坑道前で70を提示されている採掘者たちに、俺は新しい条件を出した。卸値は25のまま。ただし四半期ごとに、網全体の利益の1割を、卸量に応じて全員で山分けする。


「70には届かないけど」と俺は正直に言った。「ヴァンガードの70は、買い占めが終わったら消える値だ。うちの25と分配は、来年もある。どっちの客と付き合うかは、あんたが決めてくれ」


3人のうち、二人が残った。一人は70を選んだ。それでいい。二人分の穴は、3つ目の手で埋める。


二つ目。売り場を作る。


スターディア、リーデン、バルガの3都市に、看板を掲げた。


「定価販売所。アカツキ草1束6ゼル。砥石6ゼル。ポーション35ゼル。鉄鉱石32ゼル。——お一人さま、1日5個まで」


相場の3分の1の値段。倉庫の在庫と、契約網から流れてくる品を、実際に使う人間にだけ流す。


一人5個、にしたのには計算がある。


安い店を開けば、二つのことが起きる。一つ、ヴァンガードが買い子を並べて全部吸い上げる。二つ、普通の客が「明日はないかも」と買い溜めして、結局棚が空く。どっちも、安く売った意味がなくなる。安く売るだけなら、転売屋に餌をやるのと同じだ。


講義で習った言葉なら、価格統制の副作用だ。値段を無理に下げると、行列と転売が生まれる。需要に対して品が足りないから、値段の代わりに「並ぶ時間」と「転売の手間」で配られることになる。


だから上限を切る。5個は、一人が1日に本当に使う量だ。ヴァンガードが買い子を並べても、30人で150個。手間ばかりで量が取れない。600人並べれば取れるが、その600人は今日のレイドに出られない。そして普通の客は、5個あれば今日が足りる。明日もある、と分かれば買い溜めしない。


上限は、安売りの副作用を止める栓だった。


初日から、販売所には列ができた。


「じゅ、19ゼルの草が6ゼル……? え、買っていいの?」


「1日5個までな。明日もあるから、買い溜めしなくていい」


「な、なんで6ゼルでやっていけるの? 仕入れだって高騰してるでしょ?」


「うちの仕入れは高騰してないんだ。ずっと前から、値段を固定する契約で買ってるから」


客は半分も分かってない顔で、それでも草を5束抱えて帰っていった。分からなくていい。安心して買える棚がある、それだけ伝われば十分だ。


「明日もある」の一言が、実は値札より効く。人が買い溜めに走るのは、明日を信じられないときだ。明日も同じ値で同じ棚に並ぶと分かれば、今日は必要な分しか買わない。パニック買いが消えれば、需要の総量は実はそんなに多くない。


供給の量は、正直に言えばぎりぎりだった。契約網から入る草が週2000束、鉄が週1000個と離島の400。3都市の棚に薄く広く並べて、一人5個の上限で回転を保つ。買い占め側の何倍もの資金量に、うちは在庫の回転速度で釣り合いを取る。太さで勝てないなら、速さで勝負するしかない。


売り子は雇った。販売所3店で9人。祭りの草摘みで顔なじみになった連中だ。あの革鎧改め鎖帷子の少年は、スターディア店の店番頭になった。時給は相場より1割いい。払いのいい雇い主という評判は、金で買える中で一番安い信用だ。


3日目、ヴァンガードらしき買い子の一団が販売所に並んだ。一人5個の上限どおりに買って、帰っていった。30人並ばせても150個。うちの1日の補充量の2割にもならない。翌日から、来なくなった。並ばせる人件費と転移門代のほうが高くつくと、向こうの帳簿係が気づいたんだろう。


3つ目。新しい水源を掘る。


リーデンの沖に、廃坑のある離島がある。鉄の質は並だが、ヴァンガードの買い付け班は港町の渡し船まで張っていない。転移門は島には通じていないからだ。


下見には俺が自分で行った。渡し船で40分。島には物好きな採掘プレイヤーが5人住みついていて、掘った鉄を「たまに来る行商人」に安く買い叩かれていた。


「毎週、決まった日に船で買いに来る。1個25。相場がいくらでも25」


「……本土の相場、いま70だぜ?」


「その70で、あんたらの鉄は先週何個売れた?」


5人は顔を見合わせた。答えはゼロだ。買い叩き屋は相場が荒れてから島に来なくなった。高値ってのは、売れて初めて金になる。売れない70より、毎週確実な25。島の5人は、その算数が分かる連中だった。


ガロのクランの伝手で船便を定期便に組み込み、週400個。穴は埋まって、お釣りが来た。


10日後、市場は奇妙な均衡になった。


競売所の相場は、まだ高い。だが実際に物が要る人間は、誰も競売所で買っていない。みんな定価販売所に並ぶ。ヴァンガードは高値の在庫を積み上げ続け——その在庫が、売れない。


俺のやったことは、まとめてしまえば一つだけだ。「囲われた市場の外に、もう一つ小さな市場を建てた」。ヴァンガードが囲ったのは競売所と売り板で、つまり「場」だ。でも商いの本体は場じゃない。作る人と使う人だ。作る人と使う人さえ直接つながれば、場は迂回できる。


ゼノヴィスの配信は、この頃から歯切れが悪くなった。『在庫評価額は依然として高水準』——「含み益」という言葉が「評価額」に変わり、「売り抜け予定」が「長期保有戦略」に変わった。言葉が守りに入るときは、数字がもう守れていない。攻城戦の週の俺が「長期投資」と口走ったのと、同じ症状だった。


囲えるものを囲った側と、囲えないものを持ってた側。この勝負は、始まる前に半分決まってた。


『なあ、あんた』


夜、カイエンからウィスパーが来た。


『買っても買っても、市場に定価の品が湧く。……あんた、何がしたいんだ。うちと戦争がしたいのか』


「戦争はしてないよ。商いをしてるだけだ」


『同じことだろう』


「違うよ。戦争は相手が倒れたら終わりだけど、商いは相手が倒れても明日も続く。——なあカイエン、そっちの帳簿、そろそろ怖いことになってないか」


ウィスパーは、切れた。


◇――――――――――

【行商人の帳面 その21】

・値段を無理に下げると、行列と転売が生まれる。これが価格統制の副作用。

・一人5個の上限は、安売りの副作用を止める栓。買い子には割に合わず、普通の客には足りる量。

・「明日もある」が値札より効く。買い溜めは、明日を信じられないときに起きる。

・囲われたのが「場」なら、作る人と使う人を直接つなげば場は迂回できる。

◇――――――――――

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