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48 HoursIF2: 台湾海峡 2026 ――日米安保破棄・自衛隊解体ルート――  作者: 八咫 日本


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第29話 霞が関の遅滞戦術

【東シナ海・中国軍前線指揮所】

南西諸島への上陸を阻まれた中国海警局および海上民兵船団からの報告を受け、指揮を執る中国軍の将官は苛立ちのあまり通信機を叩きつけた。

「民間人の『工事』と『訓練』に阻まれて上陸できないだと? ふざけるな! 実力で排除しろ!」

しかし、副官が青ざめた顔で首を振った。

「不可能です、閣下。上空にはすでに米軍の無人偵察機グローバルホークが複数飛来し、こちらの映像をワシントンへリアルタイムで送信しています。相手は『武器を持たない民間人』と『故障中の非武装船』です。これに機関砲を撃ち込めば、明確な民間人虐殺となり、米軍が軍事介入する完璧な大義名分を与えてしまいます」

中国の戦略は、「日本政府の合意の下で、平和裏に拠点を接収する」という建前の上に成り立っていた。相手が正規軍として撃ってくれば反撃できる。しかし、相手が「ただそこに座り込んでいるだけの民間人と公務員」である以上、引き金を引くことは致命的な外交的敗北を意味した。

「……ええい、忌々しい! 東京の腰抜け政府に圧力をかけろ! 直ちにあの目障りな壁と船団をどかせと伝えろ!」

【東京・首相官邸 総理執務室】

「なぜ指示通りに動かないんだ! 彼らは国を滅ぼす気か!」

北京からの激しい抗議と脅しを受けた総理大臣は、執務室に呼びつけた各省庁の事務次官たちに向かって金切り声を上げた。

「警察庁! 現場で盾を持っている機動隊を即刻撤収させ、道を塞ぐ民間業者を公務執行妨害で逮捕しろ! 国土交通省! 海上保安庁の長官を更迭し、巡視船と漁船団を直ちに強制移動させろ!」

官邸の意向に逆らう現場を力ずくで押さえつけようとする総理。

しかし、並び立った事務次官たちは、誰一人として表情を変えることなく、ただ深く一礼した。

「承知いたしました、総理。直ちに『法令に基づき』、厳正に対処いたします」

警察庁長官と国土交通事務次官は、極めて事務的な、抑揚のない声でそう答えた。

総理と官房長官は、ようやく官僚たちが動くことに安堵の息を漏らした。しかし、彼らは日本の巨大な官僚機構が本気で「抵抗」を始めた時の恐ろしさを、全く理解していなかった。

【東京・霞が関 各省庁内部】

官邸から戻った事務次官たちは、自らの省庁の執務室に戻るなり、極秘の指示を各局長へと下した。

それは「暴動」でも「反乱」でもない。日本の官僚組織が持つ最大の武器、すなわち「完璧な合法による行政の遅滞」であった。

国土交通省の内部では、海保への更迭人事と強制移動命令に対し、おびただしい数の「確認手続き」が開始された。

「海上保安庁長官の更迭には、人事院規則に基づく詳細な審査が必要です。審査委員会の立ち上げには通常3週間を要します」

「漁船団の強制排除に関してですが、彼らは適法な漁業権を行使中であり、これを制限するには水産庁および地元自治体との『三者協議』が法的に義務付けられています。まずは来月、協議の場を設けるための日程調整から始めます」

一方の警察庁でも、機動隊の撤収と民間業者の逮捕命令が完全に「スタック」していた。

「現場の建設業者は、県から正規に受注した『防災工事』を遂行中であり、公務執行妨害の構成要件を満たしません。逮捕状を請求するためには、まずこの工事契約そのものの法的瑕疵を証明する必要があり、裁判所の見解を仰ぐため法務省へ照会をかけます。回答待ちです」

「通信システムのセキュリティアップデートに伴い、現在、全国の警察本部と官邸を繋ぐ専用回線に『原因不明の深刻なラグ』が発生しております。命令の伝達には数日を要する見込みです」

紙とハンコ、そして無限に続く法解釈と手続きの壁。

誰も「総理の命令に従わない」とは言わない。誰もが「全力で手続きを進めている」と言う。しかし、現実は1ミリも動かない。

永田町の政治家が自国の防衛力を解体し、国を売り渡そうとしたその時、霞が関の官僚たちはその極めて優秀な頭脳と「縦割り行政の弊害」をフル活用し、国を売るための手続きそのものを完全に麻痺させたのだった。

【ハワイ・真珠湾 アメリカ太平洋艦隊司令部】

その頃、米太平洋艦隊の作戦室では、南西諸島で起きている奇妙な事態が、衛星映像と通信傍受によって克明に分析されていた。

「日本政府は完全に中国に屈服しました。しかし……日本の現場は、一発の銃弾も撃たずに中国軍の上陸を完全にストップさせています」

情報将校が信じられないといった表情でスクリーンを指差した。

映像には、漁船の壁、コンクリートの砦、そして動かない行政機構という、日本人が無意識に連携して作り上げた「見えない要塞」が映し出されていた。

艦隊司令長官は腕を組み、低く笑い声を漏らした。

「オーケー、理解した。東京の政治家どもが腰抜けでも、日本の国民と現場の連中は、まだ自分たちの国を諦めていないということだ」

長官はモニターから目を離し、ずらりと並ぶ将官たちを見渡した。

「彼らが見えない壁で稼ぎ出した時間は、24時間。我々にとってはそれで十分すぎる」

長官の目に、猛禽類のような鋭い光が宿る。

「これより、第7艦隊および空母打撃群に出撃を命じる。目標は東シナ海。日本人が命懸けで稼いだこの『時間』を、無駄にはさせないぞ」

非武装という縛りの中で、日本人が見せた「静かなる徹底抗戦」は、同盟国アメリカの巨大な軍事力をついに動かす、最大のトリガーとなったのである。

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