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天翔雲流  作者: NOISE
不死鳥の如く
1826/1865

涙と血

 戦況は、北が、圧倒的優位。

 この混乱に、東に位置する、元ヨーシュア地方は、中立を宣言。南スターリー、ヨーレスは、ルビアが、元ヨーシュア出身である事から、その立場を、よく理解し、静観を許した。

 対する、ヨセフも、この行為を、黙認する事と成った。

 今、元ヨーシュアまで、敵に回せば、南スターリーは、滅びてしまう。

 それに、理解しているのだろう。元ヨーシュアに、牙をむけば、この戦争に、俺が、介入してくる。

 ヨセフとしては、それだけは、何としても、避けたい筈だ。

 問題と成るのは、スターリーの首都の、お膝元に在る、ソドムの事だ。

 ラグーン殿は、この反乱の首謀者達と、俺を通じて、親しくしていた。

 ヨーレスの脱出後、北スターリー建国により、ラグーン殿は、共謀の可能性を考えられ、領主の座から、追われたと言う……。

 まあ、そちらの方も……。

「ジャショウ国王陛下!フリュクベリ商会の、ヨハネス様が、急ぎ、面会したいと!」

「うむ。直ぐに通せ!」

 俺は、謁見の間で、玉座に座る。

 もう、全て、手を回しているのだよ。

 ヨハネスが、セバスと共に、客人を連れて、帰って来た様だ。

 満面の笑みの、ヨハネス達。

 その後ろには、

「ジャショウ様!ヨハネス殿達のお陰で、すんでのところで、家族共々、命を救われました!この方達の話では、ジャショウ様の、手引きだと!最早、感謝の言葉が、見つかりません!誠に!誠に、ありがとうございました!」

「うむ!ラグーン殿が無事で、誠に良かった!ヨハネス殿!危険な任務を、よく!やり遂げてくれた!誠に、感謝する!」

「いえ!ジャショウ様の指示が、早かったお陰で、それ程の危険は、ありませんでした。エネスの諜報部は、正確で、早い情報を、集めているようですね?それに、ベヘムさん達、子羊の嘶き亭の、精鋭を、護衛に付けて頂いたので、拍子抜けするほど、簡単に、北スターリーに、辿り着く事が出来ましたよ。その後は、ロンベル様や、ヨルブン大公が、ギリセアの国境まで、護衛して下さりました。ジャショウ様には、くれぐれも、よろしく言っておいてくれと」

「そうか……。ヨルブン殿達には、出来る限りの物資と共に、謝礼の手紙を、送る事としよう。何にしても、ヨハネス殿達には、苦労を掛けた!褒美の方は、アルサが、用意している。少ないと思うが、貰ってくれ」

「ははは!ジャショウ様の少ないは、私達の、度肝を抜きます!期待させて頂きますよ?」

「ははは!期待に応えられるよう、努力するよ」

 ヨハネス達は、笑いながら、謁見の間を、後にした。

 さてと……。

 これで、心配の種は、一つ、減った……。

 このまま、しばらくは、静観だな……。



 北スターリー、南スターリー共に、エネスに対して、人質の引き渡しを、要求する。

 人質と言うのは、エネスに対してでは無く、北は、ルビアとセナを。南は、ラグーンとエローラ。そしてメアリーとエルを。俺は、真っ向から、その要求を、突っぱねる。

 静かに、怒気をはらませ、

「そんなに、俺に、この愚かな内乱に、介入してもらいたいのか?どれだけ、親しい仲で在ろうと、惨たらしく、殺してやるぞ……?」

 ヨセフは勿論、ヨーレスも震撼した。

 多くの血が、流れるであろう……。

 それでも、俺は、セナ達を守る!

 それでも、北は、退く事が出来ない。

 息子を殺されたローバが、使者として、訪れる。

 厳しい、謁見と成るか……。

 陰鬱とした俺に、エローラが、

「私も、父に言うべき事が有ります!この謁見に、参加させて下さい!」

「良いのか……?」

「私も……。私も!ジャショウ君と、同じ気持ちです!」

「そうか……」

 エローラは、強い女性だ。

 俺は、背を押される様に、謁見の間へと向かう。

 ここからでも、感じられる、ローバの気焔。

 大切な者を奪われた、ローバの心……。

 その心中を、はかり知る事は出来ない。

 俺は、エローラを従え、玉座に座る。

「待たせてしまったな。ローバ殿……」

「いえ!ジャショウ国王陛下におきましては、ご壮健の様で何よりです!」

 ローバは、深く、深く、首を垂れる。

 ローバは、キッと、俺を睨み、

「ラグーン殿を救い、多くの援助を頂き、誠に、感謝致します!しかし!まだ、大事なモノを、我等が、北スターリーに、お渡ししておりません!早急に……」

「ローバよ……。私に、北スターリーを、滅ぼしてもらいたいのか……?」

 俺もまた、気焔を立ち昇らせ、ローバを睨む。

 人の身では、余りに重い、重圧……。

 ローバは、肩で、息をする。

 俺は、静かに、怒気をはらませ、

「何度も言わせるな……!北にも南にも、これ以上、加担するつもりは無い!北には、ルビア達を、渡すつもりは無いし。南には、エローラ達を、渡すつもりは無い!この者達は、私の家族だ!家族を奪うと言うなら、スターリーそのものを、滅ぼしてしまうぞ……?」

「わ、私は、その家族を、あの男に、奪われたのです!私とて、退く事は、出来ませぬ!どうか、ルビア様と、セナ様を、北スターリーに、お渡しください!そうすれば、多くの血が、流れずに済みます!」

「この、愚か者が!!」

 俺は、激昂し、俺の怒りが、謁見の間を、支配する!!

 俺は、玉座から立ち上がり、

「貴様等が、始めた戦だろう?貴様等の血で、洗い清めろ!!罪の無い、セナ達に、その役目を、押し付けるんじゃねえ!!俺は、セナ達も、エローラ達も、両方守る!!その為に、スターリーが、邪魔だと言うなら、滅ぼしてくれるわ!!スターリーの血が流れる者は、エネスの民以外、全て、殺してくれる!!」

 ローバは、ついに、俺の狂気に当てられ、恐怖で震え、膝をつく。

 北も南も、滅ぼしてやるか?

 そんな、俺の怒りを、鎮めたのは、

「ジャショウ王!落ち着いて下さい!ローバ様……。いえ!父上!貴方は、兄の死を、無駄にするのですか……?」

 エローラが、ローバの前に立つ。

 ローバが、エローラを見上げ、

「ローフの死……?」

「そうです。ローフ。我が兄の死です!兄は、スターリーを愛し、本気で、スターリーを、守ろうとしていました!セナ様の成長を喜び、ルビア様に、忠誠を誓っておりました!兄は、スターリーの為に、ヨセフと言う男に、命を懸けて、諫言したのです!兄が愛した、スターリーを、分裂させ。その上、兄が、希望を見出した、セナ様達に、危害を、加えようと言うのですか?恥を知りなさい!兄は!ローフは!復讐に囚われた、今の父上を見て、どう思われるでしょう?」

「私は……」

 ローバは、肩を落とし、項垂れる。

 そして、震える声で、

「ジャショウ国王陛下……。セナ様達と、エローラ達の事を、よろしく頼みます……。我等の戦に、若い者達を、巻き込むなど、愚かな行為……。我が娘の言葉で、目が覚めました……。スターリーの内乱に、エネスを巻き込もうとした事、誠に、申し訳ありませんでした」

「うむ……。ローバ殿、貴方の気持ちが、分かるとは言わない。しかし、私達にも、守るべきモノが有るのだ。ヨーレス王には、力になれなくて、申し訳ないと、伝えて下さい。謁見は、以上とする」

 俺は、優しく笑い、何時もの自分に戻る。

 項垂れる、ローバの横に立ち、

「ローバ殿……。心中お察しするとは、到底、言えませんが……。スターリーを、必死に守り、スターリーに、裏切られた……。その事だけは、私にも、理解出来ます。どうか、今だけに囚われず、先の世も。先の世に生きる子供達の事も、考えてあげて下さい!貴方の息子は、その為に、死んでいったのですから……」

「う、うう……。私は、ローフの思いを、蔑ろにしていたのか……。私は、復讐に囚われ、多くを、見失っていた……」

 俺は、優しく、ローバを抱きしめる。

 多くの人の涙が、あの黄昏のスターリーを、押し流す……。

 ヨセフよ……。

 お前は、やはり、王の器では、無かったと言う事か……。


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