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天翔雲流  作者: NOISE
降りかかる火の粉
1820/1865

対極で、同じ存在

「ふふふ……。楽しいお酒♪アンヌさんも、エネスに来て、子を成したと言いますから、私達も、エネス国に、仕官しましょうか?ねえ、アルフォンス?」

「い、いや……。そうしたい気持ちは、強くあるが……。民達を捨てて、スターリーを去る事は、出来ません……。その、済まん」

「ふふふ♪冗談ですよ♪アルフォンスは、真面目過ぎですよ」

「う、うむ……。父上にも、場合によっては、スターリーを去り、エネスを頼れと、言われている……。ヨセフ国王陛下の態度によっては、考えなくも無い……。今は、それしか言えないな……」

 そこまで言い切ると、アルフォンスは、一気に、酒を飲み干す。

 余程、苦労しているのだな……。

 ヨシカは、アルフォンスに同情し、その背中を、優しく摩る。

 すると、アルフォンスは、堰を切ったかのように、

「私とて、尊敬できる王の下で、働きたかった……!」

「だから、俺は、ぼんくらだって……」

「いや!ジャショウ王こそ、誠の王だ!」

 アルフォンスの心からの叫びに、横に居た、ヨルムとフィールも、深々と、ため息をつく。

 二人にも、先程の親書を、見せてあるのだ。

 その時の、二人の顔……。

 ヨルムは、震える声で、

「何度、儂等を、失望させるのじゃ……?」

 皆が、痛々しすぎて、目を背けた。

 ヨルム達は、それ程、嘆いていたのだ。

 あの親書は、破り捨てて、見せるべきでは無かった……。

 万が一、アルフォンス達に、害が及んだ時を考え、見せておいたのだが……。

 俺も、親父達の心を、考えていなかった。

 不肖な息子だ……。

 それにしても、王家の霊廟を守り、忠臣の鏡と呼ばれた、ラセス家が、最悪の場合とは言え、離反を、視野に入れているとは……。

 思った以上に、スターリーは、崩壊しつつあるのかもしれぬ。

 最早、ヨセフの威光は、過去の栄光の様に思える。

 エネスの光に惑わされ、エネスの光に、その身を焼かれる。

 哀れなモノだ……。

 ヨセフよ……。

 何時に成ったら、君は、一人で立つのだ?

 このままでは、本当に、スターリーの国は、分裂してしまうぞ……?



 橋が開通して、多くの者達が、エネス国に、来る様になった。

 マルスさんとアリスさんも、大忙しだ。

 それでも、ギリセア側の関所が、良い仕事をしてくれている。

 今の所、不審者は、侵入していないな。

 それでも、元エネス領の、二十倍以上の国土を持つ。

 海からの侵入も、警戒されたが、それは、俺の力によって出来た、広大な壁と、ネイルの灯の、技術力で、万全の態勢で、監視されている。

 鼠一匹、入り込む余地が無い。

 そもそも、人々は、エネスを聖地だと、認識している。

 スターリーの様に、節操の無い事をすれば、多くの者達の、非難を受ける事と成る。

 そのスターリーは、未だ、エネスを、諦めきれぬと見える。

 何度と無く、エネスの領海ギリギリで、スターリーの船が、確認された。

 何度かは、メイア海兵隊を出動させ、威嚇発砲で、追い払ってもいる。

 ヨセフよ……。

 俺達と、一戦、交えるか……?

 俺は、米神を押え、深々と、ため息をつく。

 そんな、俺の下に、面倒臭い、一報が。

「ジャショウ国王陛下!今、スターリーより、船が参っております!しかも、王旗を掲げる船です!あちらは、エネスへの入港を、求めています。如何致しましょう?」

「ふぅ……。ヨセフ自ら、お出ましか……。至急、ヨシカを呼んでくれ。それと、メイア海兵隊を出動させ、スターリーの船を、丁重に誘導させよ!最後に、アルカ騎士団も出動させ、ヨセフ殿を、王城へと、招いてくれ。護衛と言う名目で、徹底的に、ヨセフ達を、見張る様に伝えてくれ。済まないが、よろしく頼む」

「はっ!畏まりました!」

 兵達は、慌ただしく、走り出す。

 さてと……。

 今後の為にも、徹底的に、潰す事としようか……。



 謁見の間……。

 俺とヨセフは、対峙する。

 ヨセフの奴、エネスの独立が、相当堪えた様だ。

 たった数日で、頬はこけ、老け込んでしまった様に思える。

 玉座に座る、俺を見て、ヨセフは、奥歯を噛み締める。

 俺は、冷ややかな目で、ヨセフを見下し、

「ご壮健の様で何よりです。ヨセフ殿。本日は、どの様なご用件で?」

 最早、俺は、ヨセフを、王と呼ばない。

 ヨセフは、俯き震え、

「ジャショウ君……。そろそろ、十分じゃないかい?王様ごっこは、飽きただろう?」

「ははは!何を言うかと思えば!ヨセフ殿より、王様ごっこが、様に成っているだろう?」

「くっ……!」

 ヨセフは、ぎらつく目で、俺を睨む。

 まるで、餌を取られた、野犬の様だ。

 ただただ、残念に思うよ……。

 今のヨセフに、何の価値も、見出せない。

 そんな、俺の考えを、見抜いたのだろう。

 ヨセフは、怒りに震え、

「私は!認めていない!!これは、謀反だ!君が、無法を働くと言うなら、それ相応の、処罰が必要だ!!今までの、功と引き換えに、命は取らないでやる!しかし!即刻、エネスを返上せよ!これは、国王命令だ!!」

「下らぬな……」

 俺は、ヨセフの暴論を聞き、冷ややかに笑う。

「エネスとは何だ?名前か?人か?それとも領土か?名前であれば、返上しよう。人であれば、人の手に委ねよう。領土で在れば、返したであろう?この島は、私が、創造したものだ!スターリーに、何の権利も、有りはしないぞ?ヨセフ・スターリー!お前は、何を望む?」

「全てだ!全て、返せ!全てを返すんだ!!」

「愚かな男だ……。私は、全てを返し、スターリーを去ったのだ。何度も言うが、領土も返した。ガッツ達、人々は、自分の意志で、スターリーを去った。エネスを語る事が、許せぬと言うなら、名を変えよう。君達のモノは、ここには、一つも無いよ……」

「糞!そうやって、正論を!お前は、何時もそうだ!!心の中では、私を見下し。私を、否定する!!だから、私は、お前の言葉を、遠ざけたのだ!!王を建てず!王を敬わぬお前に!どれだけ、怒りを覚えていたか!!お前に、私の気持ちが、分かると言うのか!!お前に!お前に!!」

 これが、あのヨセフか……。

 俺を疎み、嫉んでいたか……。

 哀れな王だ……。

 ヨセフはわめき、髪を振り乱す。

 共に来ていた、ローバとアルブレッドが、必死に宥める。

 ヨセフは、肩で息をし、

「分かっているよ。分かっているさ!!君が正しくて、私が間違っている!私じゃ無くて、君こそが、王に成るべき存在だ!!しかし、私は、決して認めない!!拭えぬほどの、血で汚れた君を、私は!決して、王とは、認めない!!」

「ははは!その事だけは、私も、認めるよ!俺は、拭えぬ、業を背負っている!血で汚れ、その手で、政をしている!王と言うには、穢れ過ぎているな!しかし……!俺を、王と呼ぶ者がいる限り、俺は、その者達の為に、この玉座に、座り続けるよ……。ヨセフ・スターリー!君に、認めてもらう事じゃ無い!」

「はっ……!その、太々しいまでの自信と、人気……。どこまで、私を、惨めにさせるんだ?それでも、よく覚えておくんだな!私の様に、君を嫌う者も多く居る」

「あははは!それこそ、今更だろう?俺は、聖人君主じゃ無いのだ。いや、聖人君主でも、嫌う者がいる!万人に、愛される為に、俺は、王に成った訳では無い!俺は、小さな人間だ。それでも、俺の事を、慕ってくれる者の為に、王に成ったのだ!誰からにも、愛される為に、王に成った訳では無いよ」

「はぁ……。本当、君は、憎たらしい男だ……」

 ヨセフは、それだけ言うと、一瞬、昔の様な笑顔を見せる。

 俺とヨセフは、対極で、同じ人間だ。

 矛盾した存在……。

 ヨセフは、再び、無表情と成り、俺に背を向ける。

 そして、

「ローバ!アルブレッド!戯れは終わりだ!エネスは、もう、どうでも良い!我等は、帰って、スターリーを、立て直すぞ!」

「「は、はっ!!」」

 そこには、間違いなく、王の背中が有った。

 ローバとアルブレッドは、その背中を追い、謁見の間を後にする。

 去り行くヨセフは、振り返りもせず、

「ジャショウ〝王〟!もう少しの間、ルビアとセナの事を頼む!特に、セナには、君の背を追わせた方が、立派な王に、成ると思うしね」

 やれやれ……。

 結局、最後も、ヨセフの我が儘を、押し付けられたか……。

 セナの為に、俺の背を見せろか……。

 御館様の背とは、程遠い、俺の小さな背を……。

 まったく、何時も、無茶な事を言う……。


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