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Sadistic mayor 1

結婚式が行われる土曜日は素晴らしく晴れた。ガーデンパーティ会場には着飾った大勢のゲストが集まっていた。バネッサのエスコート役にはアーロンが、ラルフにはもちろんエヴァンがついた。


「乾杯に先立ちましてハワード市長からお祝いのスピーチをいただきます」


司会者の明るい声が響いた。

長身でスマートな市長が満面の笑みでマイクを手に登場した時、もとから白いアーロンの顔が蒼白になった。


「どうしたの? 気分でも悪い?」


バネッサが心配そうに声をかけた。


「クソ野郎だ……」


アーロンがつぶやいたのをエヴァンもラルフも聞き逃さなかった。


「あいつにやられたのか?」


と問うエヴァンに小さくうなずいたアーロンの体は震えていた。


乾杯で盛り上がる会場の中でエヴァン、ラルフ、バネッサ、そしてアーロンがいる一角だけが冷えた空気に包まれた。

4人は会場内でもいちばん離れたテーブルに移動した。


「あのクソ野郎が市長だったなんて……」


と苦悶の表情でつぶやくアーロンに


「いったい何があったの?」


とバネッサが聞いた。


「ジムの駐車場でエヴァンにふられた後にあいつに買われた」


アーロンは語りだした。


「目隠しして連れて行かれた部屋か貸しガレージかわからないけど、そこには檻があった。大型犬用よりもっと大きいヤツ、サーカスの猛獣用くらいの。首輪だけつけられてつながれた」


アーロンの告白に誰も言葉を発することはできなくなっていた。バネッサはラルフの胸に顔をうずめて怯えて聞いていた。


「あいつは僕を飼育しようとした。セックスはしなかった、普通のセックスはできないのかもしれない。それくらいならまだ危ないプレイとしてガマンもできた。僕もプロだし前払いでかなりの金ももらってたし」


「あいつはサディストだよ。無抵抗な相手を殴って快楽を得るタイプの。首輪でつながれたまま最初は素手で殴られた。頭をガードしたら次は腹を蹴られた。やつは終始笑っていた」


「その暴行を設置したビデオカメラで撮っていたよ。記念品だね、あとで見て興奮するんだろうね。数日、そんな行為が続いた。出かけて戻ってきては僕を殴った。もう時間の感覚もなくなっていたよ」


「僕はさすがに衰弱した。そしたら元気にしてやるってあいつはやばい薬を打とうとしたんだ。それだけはやめてくれって抵抗してあいつを蹴飛ばした。そしたら逆上してゴルフクラブでめちゃくちゃ殴られた。ああ、殺されるんだって思ったよ」


「早めに失神したからそれ以上執拗に殴られなくて命拾いしたのかも。そしてショッピングモールに遺棄された。さすがに殺すほど真性のサディストじゃなかっただけ幸運だったよ。もちろん自業自得なんだけどね」


とアーロンは話し終えた。


これまでのエヴァンの中でいちばん希薄だった感情は怒りだった。感情的になるようなわずらわしいことはあえて避けてきた。

しかし今、エヴァンの中に制御不能なほどの怒りがこみ上げてきていた。それはラルフにとっても同じだった。


「あのクソ野郎、許せない」


エヴァンが言った。


「許せない! 私は私の方法で制裁を加える」


泣きながらバネッサも言った。

ラルフは何も言わなかったがスーツの下の上腕二頭筋が痙攣していた。その腕でアーロンの肩を力強く抱いた。

エヴァンはじっと考え込んでいた。


「アーロン、ものすごくつらくて危険なことだけど、あの変態市長を失脚させるためにひと芝居うってくれないか?」


エヴァンが言った。


祝辞と乾杯の音頭というハレの役目を終えた市長のハワードは歓談もそこそこにパーティ会場を引き上げようとしていた。待たせてあった公用車に向かっているとき背後から「ハーイ」と声をかけられた。アーロンだった。

市長は一瞬ギョッとした顔をしたがすぐにその目に好色な光が宿った。


「この前はごめんなさい。やっぱり僕はあなたが見抜いた通りのタイプの人間だとわかったよ」


「どういう意味だ?」


「はっきり言うよ。もう一度あなたに飼われたい。あの快感が忘れられない」


「ほう、体が憶えているんだな。キミはそういうタイプだと思った、ちょっと待っていてくれ」


うれしそうにハワードは小走りに公用車に向かい先に帰るように命じ、上機嫌でタクシーを拾いアーロンとともに乗り込んだ。

アーロンはポケットの中でスマホのGPSをONにした。


その頃パーティ会場ではDELUGEの演奏が始まっていた。会場は盛り上がっていた。

無難な、といってもデスメタルバンドの楽曲だけど数曲演奏したあとのMCでバネッサが叫んだ。


「これから未発表の曲やります! ちょい過激だけど楽しんでください!」


♪Sadistic mayor! (市長) Yeah!♪ 


デスボイスがいつもより過激に炸裂した。


♪Sadistic mayorは少年好き 

Sadistic mayorは檻でヒトを飼育する

Sadistic mayorの倒錯した愛情は暴力とドラッグ

Sadistic mayor Howard !  

You must die! ♪


ほとんどバネッサの即興のアカペラだったけど事前にバンドメンバーと両家の家族に簡単に事情は説明して許可をもらっていた。


さすがにFUCK YOU! だけは封印した。



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