Tragic ending story
「ラルフー! エヴァン! 元気だった? 会いたかったわ!」
今ではすっかりロックスターの仲間入りをしたデスメタルバンドDELUGEのボーカル、バネッサはラルフとエヴァンに交互にハグした。
エヴァンはラルフに絶対来てよ、と言われた。そこがどんな魔境でも愛しい姫に命令されたら騎士は行かねばならない。たとえ自称小説家、ゲイのフリーター、セックス依存症で弁護士のひもの騎士であっても。そのために日頃はショートスリーパーのエヴァンが10時間寝て体力をつけた。
どこからでも来やがれ、悪魔。
「ハーイ、バネッサ。大活躍だね。今回は休暇?」
とエヴァン。ああ、なんてオトナな僕。
「そう! レコーディングが終わったから。ギタリストのポールのお姉さんの結婚式があるのよ。そこで歌うの、エヴァンたちも来てね。ところでこちらのセクシーな男の子の紹介はまだよ」
「アタシたちの友人のアーロン、Y大学の学生よ。ワケあって今ここで暮らしてるの」
「アーロン・ハイリネンです。まさかここでデスメタルのクイーンに会えるなんて思わなかったよ。会えて光栄です」
こいつ、相手によって態度を変えるカメレオン野郎だなとエヴァンは心の中で毒づいた。
「あなたすごく綺麗ね。まるで妖精だわ。一緒に写メ撮ってもらっていいかしら?」
「もちろんです。でもあなたの美しさの前では僕なんて朝の霧みたいなもんです」
「まあ! アーロンは詩人ね。私たち友人になれるわね」
邪悪な者たちが悪魔契約を交わした瞬間にエヴァンは立ち会ってしまった。
でもうれしそうなラルフの顔を見ると、やっぱりエヴァンも幸せな気分になった。ラルフが腕を振るった料理にお酒もトークも進んだ。アーロンも口の傷がいくぶん回復したのかよく食べるようになった。ラルフの献身的なケアのおかげでショッピングモールの駐車場で拾った頃と比べたら若干、低体重も改善されたようにも見えた。
バネッサとアーロンはまるで年の近い姉弟のように仲良しになった。そのうちふたりとも酔ってソファーで寄り添って眠ってしまった。その光景はあまりにも美しくエヴァンでさえちょっと感動した。
エヴァンはラルフにウィンクして寝室に誘った。禁欲生活の限界はとっくに超えていた。オスのカブトムシと化したエヴァンが恋人を激しく攻略している頃。
ソファーに寄り添って眠っていたはずの美しい悪魔たちは覚醒し、こみあげる笑いを必死にこらえていた。
バネッサはアーロンがすっかり気に入ったらしく今回の休暇中、DELUGEのメンバーと会う時も彼を連れ回した。アーロンもバネッサには従順で素の自分をさらけ出しているようだった。
「やっぱりバネッサとアーロンは気が合うと思ったわ」
ラルフも安心して仕事に行けるので大歓迎だった。
バネッサは土曜日に行われるギタリストのポールの姉の結婚式での演奏の打ち合わせにアーロンを連れ出した。待ち合わせ時間にはちょっと早かった。
「ねえアーロン、あなたも何か変わった?」
突然バネッサがたずねた。
「え? 変わったって?」
「ラルフとエヴァンと関わると何かが変わるの。おせっかいでお人好しで。特にエヴァンはこっちが振り回しているつもりでも、いつか彼のペースにハマっちゃってるの。ラルフはマッチョな聖母マリアだし」
「そうかもしれない」
とアーロンは笑った。
「居心地いいでしょ? 彼らと絡んでいる暮らしは。だからいるんでしょ?」
「確かにそうだね、どんどん毒気が抜かれていくよ。以前の生活に戻りたくなくなってきてるのは事実」
「以前の生活って学生のこと? あ、言いたくなかったらいいのよ」
「いや、全然平気。大学休学してストリートで体売ってた。最悪なS野郎の客にマジで殺されそうになって棄てられた時エヴァンに助けてもらった」
「ドラマチックね、で惚れちゃった?」
「うん、でも僕とやるくらいなら大地に射精したほうがマシだってさ」
「あはは、すごいふられ方ね。でもエヴァンはラルフにベタ惚れだから落とすのは無理ね」
「わかってるよ、残念だけどね」
アーロンはかわいく肩をすくめてみせた。
「ドキっとするわね、あなたのそんなリアクション。エヴァン以外なら100%落ちるのに。そんなに魅力的なのにストリートで売りなんてもったいないわ。アルビノを恥じてるわけ?」
「キツい直球だね。でもみんな見て見ないフリをするんだ。僕は僕なのに。それが耐えられなかった。まだ子供の頃みたいにアルビノをからかわれていた方がマシだよ」
「それで男娼になったの?」
「そうだね、こっちの世界ではアルビノが武器になる。でもそれをラルフに言ったら怒って泣かれたよ」
「当たり前じゃない、私だって殴りたくなるわ。最低のクズね、まったく」
アーロンは黙り込んでしまった。さすがにちょっと言いすぎたかしら? とバネッサは焦った。
「お話聞いてくれるかな?」
アーロンは語りだした。
「ひとりごとのお話です。あるところに普通の、ごく平凡な一家がいました。上の女の子はそれはそれはかわいい娘でした。下の男の子は色素の欠損の病気を持って生まれました。それでも両親は分け隔てなくふたりの子供を惜しみない愛情を持って育てました」
「多少のいじめも、思春期の悩みも、家族の愛情によって乗り越えました。男の子はとても勉強が好きでした。法律を学びたいと考えていました。もちろん世の中からいかなる差別もなくすためです。男の子は必死に勉強しました」
「男の子のいちばんの理解者はお姉さんでした。子供の頃、男の子の病気をからかうクソガキをグーで殴ってくれました。あとで両親が相手のクソガキの家に謝りに行きました。そんなお姉さんを男の子は大好きでした」
「かわいい女の子だったお姉さんもいつしか美しい女性に成長しました。そして王子様と出会い恋に落ちました。王子様はお姉さんにプロポーズしたくなりました」
「ところが恋人には色素の欠損の病気を持つ弟がいました。それを知った王子様は将来自分たちの子供にも同じ病気が遺伝するかもしれないと恐れてお姉さんの元を去りました。後で知ったことですがそれは王子様の両親の強い意思でもありました」
「お姉さんは悲しみましたが親や男の子を責めたりは決してしませんでした。誰の責任でもないとわかっていたからです」
「もういいよ、やめて」
涙ぐんだバネッサが言った。
「そして男の子は家を出ましたとさ。おしまい。ハッピーエンディングではありません」
バネッサは完全に泣いてしまった。
「泣かすつもりはなかった、ごめん」
とアーロンがつぶやいた。




