↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10、HYDRA CHRYSALIS ―ASCENSION― ―境界を越えた時、世界は神話になる―第5章 原初帰還   作者: Nao9999


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/21

第101話 海が忘れた約束

約束は、人が交わすものだ。


だが——


世界そのものが交わした約束を、人は覚えていられない。

「同じ鼓動になったね。」


子どもの微笑みは、どこか嬉しそうだった。


玲司は一歩踏み出す。


その瞬間。


子どもの姿が波紋のように揺れた。


消える。


違う。


薄くなった。


海そのものへ溶け込んでいく。


「待って!」


玲司が手を伸ばく。


指先は届かない。


代わりに。


胸の蒼い紋様が熱を帯びた。


ドクン。


ドクン。


もう空白はない。


二つの鼓動が、完全に重なっている。



名のない海の空が曇る。


雲ではない。


無数の白い鳥だった。


いや。


鳥に見えた。


近づく。


翼がない。


羽がない。


白い紙。


一枚一枚が空を舞っている。


紙は海へ降りる。


濡れない。


水面へ触れるたび、文字が浮かぶ。


《約束》


《帰還》


《忘却》


そして最後の紙。


玲司の足元へ落ちた。


拾う。


そこには一文だけ。


《海が忘れた約束を返して》


その文字は、玲司が読み終える前に消えた。



ASTRAEA号。


船がゆっくり揺れる。


初めて潮流を感じた。


船が進んでいる。


誰も舵を握っていない。


それでも進路だけは迷わない。


アヤが甲板へ出る。


遠くを見つめる。


「島。」


玲司も視線を向ける。


水平線の先。


小さな影。


近づく。


島ではなかった。


巨大な頭蓋骨だった。


山ほど大きい。


海から半分だけ顔を出している。


眼窩には蒼い光。


眠っている。


玲司は息を呑む。


「あれ、生きてる。」


返事をするように。


頭蓋骨の片目だけが、ゆっくり開いた。



AQUA-7。


EVEは目を閉じていた。


さっき開いた瞳は、再び眠っている。


だが違う。


眠っているのではない。


聞いている。


管理体は気づく。


施設中のマイクが勝手に起動している。


誰も操作していない。


スピーカーから、小さな音が流れる。


波。


風。


子どもの笑い声。


そして。


玲司の鼓動。


「同期してる。」


管理体の声が震える。


EVEは玲司のいる海を聞いている。


距離など存在しないように。



ASTRAEA号の船底から音がした。


コン。


コン。


誰かが内側から叩いている。


アヤが身構える。


玲司は耳を澄ます。


規則的だった。


三回。


止まる。


二回。


また三回。


どこかで聞いた。


違う。


身体が知っている。


玲司は床を叩く。


同じリズムで。


すると。


音が止まった。


長い沈黙。


そのあと。


船底から、小さな声。


「まだ。」


誰の声か分からない。


子どもでもない。


EVEでもない。


榊悠真でもない。


「まだ開けない。」


その一言で船全体が震えた。



頭蓋骨の島が近づく。


海面に無数の泡が浮かぶ。


静かに。


一つずつ。


弾ける。


音はしない。


だが玲司の胸だけが反応する。


泡の一つへ目を向ける。


その中に。


幼い日の自分が映っていた。


笑っている。


その隣に。


誰かがいる。


顔だけが見えない。


その人物が玲司へ手を伸ばす。


そして。


泡が弾けた。


同時に。


頭蓋骨の巨大な口が、ゆっくり開き始める。


海そのものが。


息を吸った。

第101話「海が忘れた約束」を読んでいただき、ありがとうございます。


ここから第5章はクライマックスへ向けて、一気に加速していきます。


今回は「海が忘れた約束」という新たな核となる謎と、ASTRAEA号が向かう“頭蓋骨の島”を描きました。


特に、船底から聞こえた「まだ開けない」という声は、第1話から続く“開いてはいけないもの”へ繋がる重要な伏線です。


【進行報告】

・現在:第5章「原初帰還」第101話

・第110話で第5章完結予定

・第111話から新章「第6章 忘却深層」へ突入予定


次話では、頭蓋骨の島へ上陸し、世界で最も古い“墓標”が姿を現します。


引き続き『HYDRA CHRYSALIS ―REBIRTH―』をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。