第74話:亡者の群れ
ダンジョンで〝生ける屍〟と呼ばれるものは、いわゆる普通のゾンビのことだ。
雑な説明をするならば、ゾンビ映画に出て来るゾンビの姿をそのまま思い浮かべてもらえばいい。
ただし近年のそれとは違い、高速で走ってくることはない。彼らは足を引きずりながらよろよろとこちらに迫って来るオールドタイプのそれなのだ。
また、たとえ噛まれても映画のように自分もゾンビにはなったりはしない。脅威度はゴブリンと大差ない。ただし、それらが湧く時は必ず集団で現れるのである。
強くはないが厄介というのが生ける屍の特徴だった。
「ねぇマコト、あーし怖い。手をぎゅってして」
「別にいいけど、終わったらな」
「ねえ、ちょっとそれは冷たくない? こんなにちっちゃくてかわいい子がヘルプしてるのに、そんなご無体な態度を……痛ぁ!?」
ここぞとばかりに誠に甘えようとする絵麻の頭を、後ろから小鈴が杖で叩いた。
「あにすんだよ、この猫ガキがっ!」
「それはこっちのセリフです。腰をくねらせる余裕があるなら戦闘に参加してください」
「別にあーしらがなんもしなくって、前衛がなんとかするっしょ、あんなの」
「我々がサボっていい理由にはなりません」
「ちっ、めんどくさいなぁ。わかったっての」
叩かれた頭をさすった絵麻は、自慢の弓を取り出すと、きりきり弦を引き絞り、矢を放った。まるで吸い込まれるように、その矢は生ける屍の頭部を射抜きバタリ、バタリと倒してゆく。
「〝おお、慈悲深き、我らが主よ。我に癒しの加護を与えん〟」
一方、小鈴は呪文の詠唱を始める。
彼女が持つ大きな杖の先端に煌々と光る球ができ、
「【慈悲深き散布】」
彼女はそれを敵の群れに撃った。
それは回復魔法である。
本来であれば複数の仲間を同時に回復させるものだ。だが、しかし彼女はそれをゾンビたちに向け敢えて放ったのであった。
モンスターの知識に疎い人ならば敵に塩を送る行為に見えるたかもしれない。しかし相手がアンデッドなら回復魔法は逆にダメージになる。
聖なる光の散布を受けたゾンビ軍団は、さらさらと灰になっていった。こうして生ける屍との戦闘は一瞬にして片が付いた。
「流石ッス、小鈴ちゃん!」
「すごいわ、小鈴」
朝香と麗亜がそれぞれ褒める。
誠もそんな流れに任せ「よくやった」と小鈴を褒めた。
「褒められるほどのことはしていません。やはり本職の僧侶職ではないので精度は高くありません」
「いや、そんなことはない。俺より上手いよ。今回のダンジョン探索は小鈴が切り札になるかもな」
誠に褒められて嬉しかったのか、小鈴は猫耳をぴょこぴょこと動かした。
「あんまり調子に乗るんじゃないし」
「わかってます。絵麻さんのヘッドショットもすごかったです」
「ん、まあね。わかってんのならいいけどさ……」
牽制のための言葉をかわされ、絵麻はがりがりと頭を掻いた。
ちなみにウソリーダンジョンは先のアーシオダンジョンと同じく階層という概念がない。入口から遠くなればなるほど難易度が上がっていく平面的なダンジョンだった。
その後もスケルトンやゾンビドッグなど、普通のダンジョンの表層にもよく現れることのあるモンスターとの戦闘が続いた。
つい最近まで難易度が低いといわれていただけあって、それらは別に強くもなかった。ダンジョンの活性が低いというのも理由の1つかもしれない。
というのも、このダンジョンは謎の失踪事件のために現在封鎖された状態だった。誠たちがここに入れたのは、協会のお墨付きを示す特級ライセンスのためだ。
エアタブを使って出した空中画面には、さっそく配信を観にきた人たちのコメントが並ぶ。
〝ウソリー配信ってマ? 今、閉鎖中やんけ〟
〝トーマスは特級ライセンス持ってるから〟
〝なるほどラインセンス特権か〟
〝にしても、さっきの小鈴ちゃんすごかったよな〟
〝今まで埋もれてたのマジで謎すぎる。実質Aランクぐらいあるんじゃね?〟
などなど。
コメント欄にはウソリーからの配信に驚く声や、小鈴をたたえるコメントが流れていた。
正直、誠は自分が褒められるよりも弟子や仲間が褒められる方がうれしい。
魔力交換の恩恵を一番受けているのは、恐らく小鈴だ。つい数ヶ月前の彼女と今の彼女では、無詠唱魔法の習得も含め、その実力には天と地ほどの差があった。
こうして誠たちは探索を続け、時刻が夕暮れぐらいになるとテントを設営した。
その旅路は逆に不安になるほど順風満帆なものだった。果たして、本当にこのダンジョンでハイランカーが失踪したのか?
そんな疑問を胸に抱きつつ、各々は飯を食い、床に就いた。




