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第73話:いざ、ウソリーへ

 丸1日に及ぶスパルタ訓練の後、誠は仲間たちに2日間の休養を命じた。


 麗亜は直前まで稽古を続けるべきだと主張したが、誠はそれを認めなかった。


「いいか、麗亜。ダンジョンの深奥に挑む時は生半可な覚悟で行くわけにいかない。休む勇気も必要だ。素振りとかするのも絶対駄目。それができないなら君は連れてけない」


 果たして、そこまで言われては麗亜も言い返すことができなかった。


 ダンジョン探索最大の敵はモンスターではない。疲労なのである。そのことを彼は10年に及ぶ冒険の中で身に染みて実感させられていた。


「あの誠さん、休むのはいいんスけど、2日間アレはお休みッスよね?」


「もちろんだ」


「でもお師様、アレをしてもらえるとモチベが上がります」


「それでも駄目。アレはアレで色々消耗するからね」


 朝香と小鈴はしょぼくれた。

 一方、麗亜は余裕をにじませている。


「たった2日間のお預けじゃない。わたしは全然耐えれるわ」


「今、耐えれるって言ったッスね」


「そ、それは、その、言葉のあやよ」


「麗亜さんも病みつきになっているのですね」


「なってない! 断じてなっていないわ、わたしは!」


 麗亜は馬の尾をピンと立て、腕を組みながらそう言った。


 ちなみに彼女たちの言う「アレ」とは、手と手を握り合うことで成立する魔力交換マナトレードのことである。


 最初にその話を聞かされた時、麗亜は「ハレンチだわ!」と言って顔を赤らめていた。しかし今では考えが変わり、修行後のご褒美のようになっているらしい。


「あーしは別にいらないじゃんね。だってデートの時、手を繋いでくれるから」


 挑発的な発言に朝香と小鈴は青筋を立てる。


「で、デート?」と戸惑う麗亜。話がややこしくなりそうだったので「とにかく今日はここまで!」と言って誠は訓練を終わらせたのだった。


 さて、その後……

 充電期間を終えた一行は、剛田とともに夜使市よつかいしから遠く離れた場所にある青森県の恐山おそれざんに向かった。ウソリーダンジョンの入口は、その山の岩肌にある。


 時間も遅くなったのでホテルで一泊し、次の日の朝にダンジョン入りする運びとなった。ちなみに交通費や宿泊費もろもろは剛田持ちである。自分の分と合わせると馬鹿にならない費用になるが、義娘むすめ救出のためならば安いものだと思ったのだろう。


 当日、ダンジョン入口まで剛田は付いてきた。


 彼は陽菜を含む6人に深々頭を下げてくる。


「夢芽を頼む」


「顔上げろって。そんなことする仲じゃないだろう?」


「いいや、もう少し下げさせてくれ。もしも見つけて無事じゃなかったら、せめてあいつの遺品の一部でもいいから、なんとか回収してきてほしい」


「食料は余分に持たせてあるんだろ? きっと遭難しただけさ。深奥に行けば会えるはずだ」


「だと、いいが……」


「そうに決まってる。ついでに他の遭難者たちも生きてたらいっしょに救出するよ」


 誠は剛田の肩をぽんぽん叩いた。


 本当はいっしょに行きたいだろうに、足手まといになるのがわかっているから、彼はこうやって頭を下げて誠に頼み込んでいるのだ。


「とりあえず、わたしはいつも通り、配信者兼オペレーターとしてみんなをサポートしていくね」


 ノートパソコンを持つ陽菜が言う。

 魔素回線を介したドローン操縦に距離的な制約はないため、自宅からでもサポートは行える。しかし通信障害が発生した際に現地の管理施設と直接連携できるよう、陽菜も同行することになった。


 こうして一行は二手に分かれた。


 誠たちはダンジョンの方向へ、陽菜と剛田はその近くにあるダンジョンの管理施設へと。


 ウソリーダンジョンの入口は、山肌を縦に切り裂いたような亀裂の奥にあった。


  洞窟というより大地そのものが無理やり割れた跡に近い。左右の岩壁は切り立ち、人が数人並んで歩ける程度の隙間が、暗がりの奥へ続いている。


  足元には黒い火山岩が転がり、岩の隙間からは白い蒸気が細く噴き出していた。風が吹くたび、硫黄に似た鼻を刺す臭いが漂ってくる。


「ひどい場所ですね」


 鼻のいい小鈴は顔をしかめて言った。麗亜も同じ感想を抱いているらしく、口に出すことこそしなかったものの時々げほげほむせていた。


 入口から15~20分歩いたところに青白く光り輝く縮地点ポータルがあった。変性型のダンジョンにありがちな二重構造の入口だ。


 絵麻はドローンを抱えると、そのまま誠の手を取った。


「いつも通り、せーの、で上に乗るし?」


「そうだね。念のためみんなで手を繋ごう」


 そう言い誠は空いた方の手で隣にいた麗亜の手を握る。


 一行は手を数珠繋じゅずつなぎにしてポータルの上に足を踏み入れた。


 直後、一瞬の浮遊感――世界がぐるりと反転し、土の地面に落ちる感覚がある。


 転移した場所は夜の森だった。

 森といっても木々は枯れ、葉を付けたものは1本もなく、頭上には赤い満月が怪しく光り輝いている。


 不気味な場所とは聞いていた。

 噂以上だと誠は思った。


『無事、転移できたみたいだね。ここから配信始めるよ』


 絵麻の手からドローンがフィィィィンと上がり、一行の頭上で停止する。

 ちなみに配信の件については剛田に了承を得ていた。むしろ彼からは安全確認のためにも、ぜひやってくれと頼まれている。


 と、ふいに目の前の土からぼこりと腕が飛び出した。


『おやおや、さっそく、お客さんだねぇ』


 陽菜は冗談交じりに言った。

 這い出て来たのは〝生ける屍(リビングデッド)〟であった。


 しかも1体や2体ではない。

 土の中からぼこぼことそいつらは大量に湧いて来る。


 一行はすぐさま武器を構えた。


 こうしてトゥルートーマスのウソリー探索が幕を開けた。

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