第72話:再び修業編
「とりゃあああああああッス!」
コニュードダンジョン表層にある大広間と呼ばれる、だだっ広い空間。
そこで朝香はがむしゃらに自らの剣を振るっていた。
彼女が相手するモンスター。
それはエルダーリッチという、この階層にまず現れない高位のアンデッドモンスターだった。その外見を簡潔に説明するなら、黒いローブを纏った動くミイラといったところ。
エルダーリッチは障壁を張って朝香の攻撃を防いでいた。
「代わるわ、朝香! いったん下がって!」
そう言い麗亜が双剣を使い、消耗の激しい朝香を援護する。
この階層に、なぜこのようなモンスターがいるのか? それは戦場から少し離れた場所に佇む男のためだった。
(そろそろ反撃させるかな)
そう、それは――誠であった。
彼は今、先端にドクロの飾りが付いた悪趣味な杖を握っている。
これは召喚アイテムだ。
かつて異世界で魔王軍四天王の1人「土のスタルミネストローネ」を倒した時に入手した強力な武器の1つである。
このアイテムは魔力と引き換えに、高位アンデッドを召喚し、完全に使役することができる。
誠はこのアイテムを使いエルダーリッチを操っていた。
ちなみに、なぜこのように便利なアイテムを普段から使わないかといえば、それは誠が正規の召喚職ではないからだ。
このアイテムの最大の弱点――それは使役中、術者が動けなくなること。
もしベテランの召喚職であれば召喚中に自分が動いたり、複数のアンデッドを同時に呼び出し、使役することもできたろう。しかし誠にはそれができない。ゆえに訓練以外では扱いづらい武器なのだった。
エルダーリッチに攻撃を指示し広範囲魔法を撃たせている間、誠はこのような訓練をするに至った経緯を回想する。
剛田からの依頼を受けた次の日、誠はパーティメンバーを集め、皆に依頼の経緯を語った。
これは協会案件ではない。
仲間たちに付き合う義理はない。
そこで誠は彼女たちに正直に事情を話したのだった。
「俺は1人でも行くつもりだ。あくまでも、これはエゴだから」
「なーに、言ってんスか、誠さん? そんな人情話を聞かされて、付いて行かない理由ないッスよ」
「わたしも同じ意見です」
「あーしも」
「夢芽さんはわたしの姉弟子よ。だから絶対に助けるわ」
などという、やりとりが交わされたことで、トゥルートーマスはフルメンバーでこの依頼を受けることになったのだ。ちなみに陽菜は自宅からドローンで模擬戦を撮影し、各人の動きを記録している。
聞けばウソリーダンジョンはアンデッドだらけの場所らしい。
これまでは比較的、簡単なダンジョンとして世間に認知されてきたが、連日のハイランカー失踪事件によって、今挑む人は少ないそうだ。
もしかすると深奥に強力なアンデッドのボスが出現したのかもしれない。
よって誠はアンデッドを召喚することで、仲間たちに模擬的な戦闘を行わせることにしたのである。
「あーもうっ、あーし、こういうの苦手! だって毒矢が効かないし!」
「聖属性の魔法を撃ちます。絵麻さん、援護をお願いします」
「了解!」と絵麻は言い、小鈴は普段あまり使わない属性の魔法を撃とうとする。
だが明らかに詠唱が長い。これは致命的な隙になる。
そう思い、誠はエルダーリッチに炎魔法を撃たせることにした。対象はもちろん小鈴である。この攻撃を防げないようでは、とても前線で戦えない。
「そうはさせないッス!」
叫んだ朝香が自らの体を盾にし小鈴に対する攻撃を防ぐ。だが代償は小さくなかった。くっと膝を突き、動けなくなる朝香をエルダーリッチは追撃する。
「させないわっ!」
すると、その前に麗亜が立ち塞がって双剣で敵を牽制した。聖魔法の詠唱を途中で破棄した小鈴は、急いで朝香のもとへ行き、彼女の傷に治癒魔法をかける。
いい判断だ、と誠は思った。
基本、無防備な後衛にとって前衛は生命線である。場合にもよるが基本的には負傷は放置しない方がいい。
だが実を言うと誠、これが全力ではない。
彼の膨大な魔力を持ってすれば、より強力な呪文を無詠唱で連打させることも可能だった。
とはいえ、これはあくまで訓練。
彼女たちの意志をくじくためのものではない。
そこで誠は的確に、どうすればチームの連携を高められるかを計算しながらエルダーリッチを動かした。
時に後衛を狙ったり、後衛を狙うと見せかけて前衛に魔法を放ったり、とにかく色々なパターンを試してみる。
(付け焼刃だけど、ないよりはいい)
そう思いながら誠はエルダーリッチを動かし続けた。
それから10分ほど戦わせたところで、潮時だなと思った誠はあえてリッチに隙を作る。
「今よ!」
麗亜のとどめの一撃によりエルダーリッチは倒された。それを見たパーティメンバーは皆、ほっと胸を撫でおろす。
「ざまぁないわね」
「そうッス! これが連携の力ッス!」
麗亜と朝香は握手をしていた。
前衛同士はその役割上、互いをカバーしながら戦うため仲間の絆が芽生えやすい。
「よくやった。完敗だ」
誠は両腕を上げながら降参というポーズで出て来た。
しかし喜ぶ者はいない。恐らく、誠がエルダーリッチの操作に全力を出していなかったことを皆は察しているのだろう。
「まあ、とりあえず休憩にしようか。お昼食べたら午後からは〝エルダースパルトイ〟との模擬戦やるよ」
「なっ……まだやるの!?」
答える代わりに誠は、とびきりの笑みを麗亜たちに向けた。
皆はげんなりと肩を落とすが、付いて来ると言った以上、いざという時に役に立ってもらわなくては困る。
ようするに愛の鞭だった。
誠は今回の探索で誰ひとりとして死なせたくなかったのだ。




