第69話:サービス回(小鈴視点)
露木島小鈴は幼児体型である。
ようするに、体の起伏が少ない。
ボンキュッボンという言葉が砂時計体型の女性を表すとするなら、小鈴はキュッキュッキュッであった。つまりは、ひどく華奢なのだ。
これまでは別にそのようなことを気にしたことは一度もなかった。化粧っけなんてなかったのである。むしろ後衛の魔法職として、当たり判定が少ない分、小柄なことは有利とさえ思っていた。
そう、あの男と出会うまでは――
「いやっふぅ~! 貸し切り風呂最高ッス~!」
そう言いながら露天風呂にダイブする朝香。
普段のポニーテールをほどき、艶のある赤毛を惜しげもなくさらした彼女は、水浴びにきた大型犬のように見事に羽目を外しまくっていた。
はしたないですよ、と注意をしようとするが、小鈴の視線はその体型に一瞬にして吸い寄せられる。まさしくボンキュッボンである。同い年だなんて信じられない。
小鈴は敬愛する〝お師様〟の目が、それに引き寄せられるのを何度も見てきた。ふいに彼女は目を下ろし、地面が容易に見えてしまう自らの貧相なそれを見る。
(やはりお師様は、大っきい方が好きなのでしょうか……)
そう考えながら顔を上げると、隣の陽菜がおかっぱ風の前下がりボブをシャンプーで洗っているのが見えた。
「んー、どうしたの小鈴ちゃん?」
「あ、いえ、なんでもありません」
小鈴は慌てて、そう繕った。まさか体型のチェックをしていたなんて口が裂けても言うわけにいかない。
(この人もかなり大っきいですよね……)
そう、この人も〝あちら側〟だ。
普段だぼだぼの服を好むため一見すると目立たないのだが、彼女は隠れ巨乳であった。まあ、叔父と姪という関係があるためレースに乗っては来ないのだろうが、同性として脅威であることに変わりはない。
と、後ろから声がする。
「気になるし?」
そう言ってきたのは、偽大人こと、長命種変異者の絵麻だった。
周りより成長が遅いため小学校高学年ぐらいの姿で時が止まっている彼女は、くしくも幼児体型の自分ともっとも近い体型をしていた。
「……。気にならないといえば嘘になります」
「大丈夫大丈夫。ウチらにはウチらの戦い方があるし」
「本当の幼児体型といっしょにしないでください」
「んー、まあ、確かにそうかもねぇ。だってウチには将来性あるし。10代後半のあんたと違ってね」
小鈴はギリッと奥歯を噛み締めた。
確かに、それはそうだった。
彼女の体の貧相さは、言うなれば成長の余地を残したもの。ほぼ成長を止めてしまった自分の体とは全く違う種類のものだ。
「誠さんにとってはどっちも似たようなもんですよ」
「まあでも、どうせ選ぶなら若さが長続きする方がお得じゃない?」
小鈴はまたしても、ぐぬぬ、となった。反論できなかったから。
でも、そんなことはないと信じたい。彼は心を見る人だ。外見なんて関係ない。
なんていうことを思っていると、露天風呂の隅の方で体を丸めている麗亜を「こっちに来るッス」と朝香が呼び止める。
小鈴には、麗亜の気持ちが少しわかった。獣人種変異者はその特性上、外見に大きな変調をきたす。ましてや裸の付き合いだ。自分の体をじろじろ見られることに彼女は嫌がっているのだろう。
「別にいいでしょ、どこにいても?」
「堅苦しいこと言うんじゃないッス。ウチらはもう仲間なんスから」
「仲間……」
「そうッス、仲間ッス。誠さんの弟子になったその瞬間から、ウチらは固い絆で結ばれたッス」
朝香は麗亜を手招きする。
このフレンドリーさは真似できないな、と小鈴は朝香への尊敬を深めた。
だが悲しきかな、同性として小鈴は意識をしてしまう。
彼女はかなりの美少女だった。自覚こそないが小鈴にしてもそのカテゴリーに入るのだが、それにしてもその体型だ。〝めちゃくちゃ大きい〟わけではない。しかし細身なのも相まって、その双丘は強調されていた。モデル体型という言葉がしっくりとくるスタイルだ。
なぜ、よりによって美少女ばかりをうちのお師様は助けるのだろう、と小鈴は自分を差し置いて誠の天運を呪った。
最初の弟子は自分なのだ。
そう思い、小鈴は自分をなだめる。
ややあって髪を洗い終えた小鈴は、他の2人とともに露天風呂の中に入っていった。特別優待パスということで、パーク全体が見渡せるとてもいい位置にある風呂だ。
一同は、はぁ~、と息をついた。まるでおじさんみたいだが「生き返る~」なんて言葉が出そうになる。
「で、ウマ娘はマコトのどこが好きなの?」
と、そんな癒しの時間を破壊するように、絵麻が爆弾発言をかます。
小鈴と朝香は顔を見合わせた。
何もこんなところで修羅場にしなくても……
「べ、別に、好きじゃないわ」
「嫌いなの?」
「それも違う。わたしはあくまで師匠として、あの人を尊敬してるのよ」
「たとえば、どんなところを尊敬してるの?」
「そうねぇ、強いて挙げるなら……優しくて、聞き上手で、女子への配慮ができて、ときどき心に刺さることを言ってきて、伝説級に強いとことかかしら?」
陽菜の質問に麗亜は真面目に答える。
他の4人は顔を見合わせて、ああ、この子すでに……と目配せし合った。
「それを好きっていうじゃんね」
「こらこら絵麻さん、無粋なこと言わない」
「そういう好きじゃないってば!」
「そういうことにしておきましょう」
小鈴たちはうんうん頷き合った。
ただ頬を朱に染めた麗亜だけが「本当に好きじゃないんだからねっ!」とテンプレ的に叫んだのだった。




