第68話:迷宮の国のアトラクション
誠は仲間たちにうながされ……というか半ば強制的に連行されて、ドラゴンライダーの列に並ばされた。
ちなみに隣は麗亜になった。
誰が隣に座るかであれだけ揉めていた3人だったが、係員による事務的な対応でこの2人がペアにされたのだ。
で、肝心の乗り心地であるが……
乗ってみると案外悪くないというのが素直な誠の感想だった。
思えばダンジョンからの落下や、20メートルを超す巨体と化した魔王レプリカから突き落とされたりと、誠はすでに常人が体験しえないような落下を経験しているのだ。
問題はむしろ朝香の方だった。
あれほどアトラクションを楽しみにしていた彼女であったが、いざ乗ってみると真っ青になった。どうやら彼女、絶叫マシンはおろか、そもそも遊園地というものに今まで来たことがなかったらしい。
「き、ききき……聞いてないッスよ、こんなのはっ!」
膝をガクガクと震わせながら小鈴に肩を貸される朝香。
一方、子供らしい見た目とは裏腹に絵麻は平然とした態度を崩していない。
「まあまあの乗り心地だったじゃんね」
「うん、思ってたより怖くなかった。もっぺん、乗ってもいいぐらい」
「勘弁してくれッス、誠さん!」
アトラクションの出口に向かうと、そこには途中で撮影された皆の写真が表示されていた。
お金を出せば買えるあれだ。
せっかくなのでプリントすると、そこには白目を剥き、口を半開きにし、なぜか両手でピースを作った〝|女子が絶対にやってはいけない顔《アヘ顔ダブルピース》〟姿の朝香が映っていた。
「ぷっ! ぷぷぷっ! ぎゃはははははははは!」
と腹をよじって絵麻が笑う。
流石にこれはひどすぎる。
朝香の名誉を守るため皆、一様に黙っていたが、こらえきれずに小鈴と陽菜が噴き出した。ついでに麗亜も笑っていた。ぜひともサムネに使おうと陽菜が提案すると「絶対嫌ッス! 駄目ッス!」といって朝香は写真を奪おうとする。
誠は麗亜の顔を見た。楽しんでくれて幸いだ。しかし視線に気づいたのか、麗亜はこほんと咳払いして、何事もなかったように振る舞おうとする。
「なによ、師匠?」
「いや、そんな顔もできるんだなって」
「わたしって、そんなに固い顔してる?」
「普段は割とね。でも、さっきみたいに笑ってる麗亜の方が、俺は好きだよ」
誠は惜しげもなく言った。
麗亜は馬耳をピクピクさせながら「ふ、ふーん、そう……」と紫色の髪をいじり始める。
「おじさん、昼間から女の子、口説くのやめなよ」
「口説いてない。本当のことを言っただけだ」
「かぁ~、これだから天然ジゴロは! ほんと、あーしらの天敵だし!」
一体、何を言っているのだろう? と誠は思った。笑ってる君の方が好きだよなんて、異世界では挨拶みたいな言葉だった。
「か、かくなる上はリベンジッス!」
「また乗る?」
「い、いや、こういうのじゃなく! ミニゲーム的なやつがしたいッス! あっ、ほらあそこにあるような!」
朝香が指差した先にあったのは、ウェスタンバー風の装飾が目立つ、こぢんまりとしたアトラクションだった。
シカたんの魔法射的場――看板には、そう書かれている。
ちなみにシカたんとは鹿と探索者をかけた、この遊園地のマスコットキャラである。頭に丸っこい鹿角を生やした3等身のその着ぐるみはパーク内のいたるところにいる。
ちなみに、ここのシカたんは射撃場という名前からの連想なのか、カウボーイハットにポンチョというガンマンらしい装いをしていた。
「さあさあ、みんな列に並んでぇ。ここまで来たら寄っていくシカないよ!」
3等身の着ぐるみが裏声っぽい高音でしゃべる。
「ルール説明はとっても簡単だよぉ! まず、この杖を持って指定されたポーズを取るんだ。すると魔法が出るシカけ! お猿さんにだってできちゃうよぉ!」
シカたんは杖を持っていた。
シカたんが「ハイッ!」とポーズを決めるとそこからバチッと火花が散る。
なるほど、おもちゃの魔道具か。
向こうの世界でも、そういうものはあった。おもに貴族の子女用だ。
「あ、そうだ! もし本職の人がいても、くれぐれも魔法は使っちゃ駄目だよ。ゲームがフェアじゃなくなるからネ!」
シカたんが言うとどっと笑いが起きる。
というのも、この世界の普通の人間は、たとえダンジョンで鍛えても、ダンジョン内で覚えた魔法や闘気を外では使えない。
ようするに今のはちょっとしたジョークだ。そんなことできる人など、この世界にいない前提でマスコットはそれを言ったのだった。
幸い人は少なかった。
15分ほど並んだだけで誠たちの番がやって来る。
目の前にはコンベアで移動する、デフォルメされたゴブリンやオークのパネルが回っていた。
まずは朝香と小鈴ペア。
ちなみに1回のチャレンジにつき5回だけ杖を振ることが許される。また、うまいこと火花を拡散させると複数の的を射抜くこともできた。
「とりゃあッス!」
気合の入った声を上げながら大振りの疑似魔法を放つ朝香と、最低限の動きでもって正確に的を射抜いていく小鈴。結果は朝香が1点、小鈴が5点。2人合わせて6点だった。
「やっぱ本職は強いッス!」
「昔持ってたんですよ、こういうおもちゃ。今でも部屋に飾ってあります」
次なるペアは絵麻と麗亜。
やはり射的には慣れているのか、絵麻が6点をたたき出し、麗亜も3点とまずまずのスコアを出した。
「弓だったら10点取れてたし」
「それを言うのはずるいわよ」
続いて誠と陽菜のペア。
2人はそれぞれ杖を振った。けれど、どちらも全然当たらない。
「あれぇ、誠さんたち0点ッスか~?」
「ざぁこざぁこ、マコトのざぁこ」
外野の絵麻たちが煽ってくる。
誠はちょっと、むっとした。
正直、普段の彼ならば苦笑して終わらせる場面である。しかし雑魚などと呼ばれては、現場で4人を導くパーティリーダーとしてあまりに格好がつかない。
そこで誠は一瞬、ぶつぶつと「火の精霊よ」と小声で呟いた。すると火花が拡散し、10体の的、全てを倒す。
「おおっと、これは大番狂わせ! 超絶技巧のおじさんだぁ!」
シカたんが手放しに褒めて来る。
ギャラリーたちもどよめいて誠の偉業を次々たたえた。
誠は手汗をかきながら元あった場所に杖を戻す。
そのまま逃げるようにその場から退散しようとし、
「お師様、ズルをしましたね?」
しかし小鈴に呼び止められた。
「な、なんのこと?」
「とぼけないでください。魔法で杖に細工しましたね? 魔法職のわたしの目は誤魔化せませんよ」
誠はきょろきょろと目をさまよわせた。
そう彼は嘘が苦手なのだ。
なので小鈴の猫耳にこう呟く。
「ミラノ風ドリア、奢るから黙ってて」
「300円で人を買収しようとしないでください」
誠はだらだら冷や汗をかいた。すると、やれやれというように小鈴が助け船を出してくる。
「ティラミス クラシコも付けてください」
「つけるつける!」
「ついでにミルクジェラートも」
誠はこくこく頷いた。
こうして一瞬、地に落ちかけたリーダーとしてのメンツはぎりぎり保たれたのだった。




