第67話:ダンジョンランド・シーカーズ
茨城県南部に建設された設立された〝ダンジョンランド・シーカーズ〟――通称DLSは、現代日本における三大遊園地に数えられる超大型の施設である。
パーク本体の面積はおよそ50ヘクタール、東京ドーム10個分ぐらいあるらしい。
建前としては、ダンジョンという異質な空間を一般の方々にも馴染み深いものにしてほしいというものになっているが、陽菜によるとそれは建前で「ぶっちゃけ子供を洗脳して、将来探索者になりたいって思わせるための施設だよ〜」とのこと。
いや、あまりにもひねくれすぎだろ、と誠は思うが、周知の事実だと彼女は言う。
「ちなみに園内はドローン禁止。でも撮影とか配信は全然オッケーらしいよ。そう黒沢さんからじきじきに言われた」
「それってつまり……」
「宣伝しろってことだろうね」
「それじゃ、みんなの息抜きにならないだろ」
「うん、だからあとでDLS総集編みたいなまとめ動画を1本作るよ。わたしがハンディカム回すから、みんなは適当に遊んでて」
なんてことを言う陽菜だったが、それなら彼女はどうなるのか? そう思いながら見つめると「いいの、おじさん」と彼女はサムズアップする。
「半分、趣味みたいなものだから」
「ワーカーホリックっていうやつだな」
「近いかも。でも、ほんとにね、わたしは見てるだけで十分なんだ」
そう言いながら陽菜はハンディを仲間に向けた。
テンションの上がった大型犬のように大はしゃぎする朝香を始め、その後ろを興味深そうにとことこと付いて行っている小鈴。そしてベンチに掛けながらぷはぁと水煙草を絵麻……
「って、おい!」
誠はベンチに近付いた。
そしてぷかぷかと水煙草をたしなむ絵麻の前にずんと仁王立ちする。
「園内禁煙《NO SMOKING》って文字が見えないのか?」
「タバコじゃないし」
「屁理屈言うな。ただでさえ、絵麻は目立つんだから。いいから、さっさとしまいなさい」
言うと「はいはい」とめんどくさそうに絵麻は水煙草をポッケに入れた。そして、どこかへ行ってしまう。ほんと気まぐれな性格だ。
残るメンバーはあと1人。
誠はぽつんと立つ麗亜に「こういうとこは初めてかい?」と聞いてみる。
「中学の時に修学旅行で一度だけ来たことがあるわ」
「ああ、そっか。今日が初めてじゃないんだ」
「仲間と来るのは初めてよ。でも、わたし、こんなことしてていいのかしら?」
彼女は浮かない顔だった。
まるで稽古をサボっていることを悔いているような表情である。
どこまで言おうか誠は迷った。
剛田が言うところによれば、彼女は中学の頃にいじめを受けて、その影響から鍛錬を怠る自分を許せなくなってしまっているという。
「座ろうか」
そう誠が言うと2人はベンチに腰掛けた。
距離感がバグっている他の弟子とは違い、彼女との間にはまだ距離がある。いや、この方が普通か、とすっかり毒されてしまった自分に誠は心中で苦笑する。
「あのさ、麗亜。ゴード……じゃなくて、剛田から少し話は聞いてるよ。剣を置くのがつらいのかい?」
「そうね。わたしは勢いで行きたいって手を挙げてしまったけど、本当はちょっと後悔してるの。遊ぶ時間を鍛錬に費やせたんじゃないかって」
「まあ、その気持ちは否定しない。そう思うのも仕方ないことだ。ただ、これだけは言っておく。つらいことや、苦しいこと、歯を食いしばること。つまりは我慢することだけが修行じゃない。遊ぶことだって修行だよ。無理に合わせることはない。でも、少しでもみんなと楽しい時間を過ごせたなら、今日ここに来た意味はあるはずだ」
誠はちらりと隣の麗亜を見て、やさしい顔で微笑んだ。
「ま、ようするに、楽しみなよ。今日は楽しむ修行をするんだ。それならサボりじゃないだろう?」
「……スケコマシ」
「え?」
「なんでもないわよ。とにかく、楽しめばいいんでしょ」
麗亜はほんのりと頬を赤らめながら、朝香たちの方に向かって行った。
何か変なこと言っただろうか? はてなと首を傾げていると、水煙草の代わりに棒付きのキャンディを買ってきた絵麻が「難聴系だし」と呟いた。
◆◆◆
テンションを上げた朝香が最初に選んだ乗り物。それは〝ドラゴンライダー〟だった。
文字通り、細長い龍の形をしたゴンドラが、ダンジョンを意識した洞窟を縦横無尽に駆け巡るパークの目玉アトラクションだ。
しかし誠はそれをパス。
言っておいでと皆に言う。
「あれれ、おじさんどうしたの? もしかして、こういうの苦手系?」
「正直にいえば超苦手」
「意外です」
「そうッスよ。深層のボスにもひけを取らない誠さんが、こんな安全な乗り物を怖がるなんて」
誠は、あはは、と苦笑した。
誠が最後に遊園地に行ったのは小学生の頃、20年も前のことなのだ。その時、無理して怖いのに乗って、盛大に胃の中のものをぶちまけた。そのトラウマからどうしても、こういったものに苦手意識があるのだ。
「じゃあ、こういうのはどうでしょう? わたしが隣に座ります。怖かったら手をぎゅってしてください」
「あ、小鈴ちゃん! 抜け駆けはなしッス! ウチが隣に座るッス!」
「普通に年功序列っしょ。マコトの隣にはあーしが座るし」
3人が喧嘩し始めたのを陽菜はハンディカムで撮る。それを、ただひとり呆れた顔で麗亜は距離を置き見守っていた。
「あんたら、いつもこんな感じ?」
「うん。まあ、割と」
「毒されそうだわ」
「毒された方が楽しくなるかもよ?」
「そういうことにはならないから!」
「おやおや、ほっぺが赤いねぇ」
馬耳を立てる麗亜を見て、陽菜はくっくと喉の奥で笑った。
この先が思いやられるな……誠はやれやれと首を振る。
けど、これはこれで思い出だ。
一泊二日の楽しい時間は、まだ始まったばっかりだった。




