第66話:それの名は……
「実はもう聞いてるかもしれないッスけど、誠さんは異世界から帰還した勇者なんス」
「聞いてるわ。そこで魔王ディブロシアを倒して、正真正銘の勇者になったんでしょ?」
「信じたんスか?」
「あの実力を見せつけられて信じない方が不自然よ」
「ああ、我々と同じ感想ですね」
表層で待つ4人は雑談していた。
他にすることもなかったからだ。
無言の時間に耐えられなかったというのもある。
唯一、絵麻だけが3人から少し距離を置き、余裕げにポケット水煙草を吸っている。
「ったく、遅いし、マコトのやつ。レディを待たせるなんて男の風上にも置けないし」
「絵麻さんは心配じゃないのですか?」
「言ったでしょ。マコトはマコトよ。殺そうとしても死ぬヤツじゃないし」
「その割に水煙草吸いまくってません?」
「いいでしょ! 大人のたしなみだし!」
絵麻は貧乏揺すりをしていた。
口では余裕そうなことを言っているものの、彼女の不安は明らかだった。
と、ふいにフィィィィンという音。
それは陽菜の操縦するドローンカメラが近付いてくる音だった。
『みんな戻ったよ~』
「マコトは!?」
「そうです、お師様はっ!?」
答える代わりにコツコツという足音が中層に続くフロアから反響してきた。やがて現れた者を見て一同は胸を撫でおろす。
「誠さんっ!」
「お師様っ!」
「あっ、こら、ちょっと、一応カメラ回ってるんだから」
「もう二度と離したくないッス!」
「わたしもですっ」
急に抱き着いて来た朝香と小鈴に誠は押し倒されそうになる。
そう、彼は無事に戻って来た。
「怪我はない、マコト?」
「ああ無事だよ」
「ほらね、あーしの言った通りっしょ? マコトは勇者なんだから」
そう言って水煙草の煙をぷはーと吐き出す絵麻。「あとで、あーしにもハグさせろし」と彼女は誠を指差し言った。
「流石、師匠。見事だわ」
「あはは。それほどでも……まあ、あるかな」
「一体、どんな敵でした? どんな攻撃をしてきたのですか?」
密着している小鈴たちの背中をとんとん叩き、誠はその身を離させた。
「簡単に言うと斬れなくて、魔法効かなくて、再生してくる敵だった」
「めっちゃラスボスじゃないッスか!?」
「そ、そんな敵、どうやって倒したの!?」
質問攻めにしてくる少女たちの間にドローンがフィィィィンと割って入る。
『詳細は後でアーカイブ見せたげるからさ。まずは、おじさんを解放したげて』
すると少女たちは口をつぐんだ。
正直、かなりありがたかった。
無傷とはいえこの戦いで、誠は結構消耗していた。
「で、マコト、アレは?」
「なんのこと?」
「とぼけんなんし。売れば一生遊べるっていうレアメタルが手に入ったんでしょ?」
すると誠は困った顔をした。
彼がストレージから取り出したのは、モンスターを倒した時に確定でドロップする魔石と、平面的にデフォルメされた黄金の液体が入ったフラスコの〝エンティティ〟だった。
「レア……《《メタル》》?」
「そうなんだ。それがわからない。明らかに毒っぽい見た目をしてるだろ? 具現化するとまずいかもしれないから、一応、そのままにしてある」
気まずい顔で立ち尽くす誠の前で、一同は、まさか……、という顔をした。
◆◆◆
《《ゴールドポイズンスライム》》。
黒沢のつてを利用して協会にドロップアイテムの解析を依頼したところ、返ってきたのは、そんなモンスターの名前だった。
「ぽ、ポイズン?」
『ええ、そうです。世界でも目撃例が数例しかない超希少種ですよ。研究価値は大いにあります』
誠のアパートでノートパソコン越しに、スーツを着込んだ黒沢が語る。
いわゆるオンラインミーティングというやつだった。朝香は信じられないという顔でPC越しの顔を見る。
「で、でも、あれじゃないッスか? 希少種っていうことはドロップアイテムも相当な値で売れるんじゃ……」
『残念ですが、照谷さん。ゴールドポイズンスライムの毒はあまりに毒性が強すぎるため、一般の方の所持や売買などは法律で禁止されています』
「ということは……っ」
『ええ。危険物として、我々が無償で引き取ります。ああ、でも〝徘徊型〟モンスターの討伐は十分な社会貢献ですので、それには別途報酬を出します。と、いうわけで、私はそろそろ』
などというやり取りが繰り広げられ、朝香は口から魂が抜けたように放心してしまった。それほど期待が大きかったのだろう。もしも彼女が犬系の獣人種変異者だったら、今頃耳をしゅんと下げ、尻尾も垂らしていたに違いない。
「ま、そんなこともあるっしょ、世の中。あーしはマコトが無事でいてくれただけでも十分だって思ってるし」
「そ、そりゃウチだってそうッスよ! そうッスけど……っ!」
朝香の気持ちはもっともに思えた。
ただ金の亡者というわけではない。母親に楽をさせたいという具体的な目標があるからこそ、一攫千金を狙えるチャンスを逃してしまったことに喪失感を覚えるのだろう。
「まあ、朝香。今回の配信はかなり盛り上がったから収益もかなりあるはずだよ。何か美味しいものでもさ、お母さんといっしょに食べにいったらどう?」
誠は朝香をフォローした。
一方、あまり物欲のない小鈴、陽菜、麗亜の3人は、それほど残念がってはいないように見える。
とはいえ、だ。
逃した魚はあまりに大きい。
こういう不満を放置しておくと後にパーティの亀裂が入りやすくなることを、誠は誰より知っていた。
彼は、ごほん、と咳払い。
まだまだ慣れないスマホを操作し、ダンジョン協会公式アプリからあるURLを提示してみせる。
「えっとさ、その。みんなは〝ダンジョンランド・シーカーズ〟って知ってるかな?」
「いや、知らない人、いないよおじさん。ダンジョン協会がバックに付いてる遊園地でしょ? 今や日本の遊園地といえば、ディズニー、ユニバ、DLSだからね」
「そのURLはなんですか?」
「実はダンジョン協会が今回の件の報酬としてお金とは別に、ダンジョンランドの特別優待チケットをくれたんだ。ちょうど6人分用意されてる。興味ある人いたりする?」
誠がチラッとみんなを見ると5人分の手が上がっていた。
「行きます」「行くッス!」「行くよぉ」「あーしも」「ま、まあ、別に行ってもいいかしら」
かくしてトゥルートーマスの遊園地行きが確定した。




