第64話:史上最強のスライム
麗亜たち4人を表層へ逃すと、果たして、2秒と経たないうちに「それ」は誠の前に現れた。
黄金色に輝く不定形の原形質――ゴールドメタルスライムに違いない。
奇しくも、そこはボス部屋のような広い空間になっていた。
本来ならば、ここで固有のボスが待ち構えていたのかもしれないが〝徘徊型〟のこいつせいで本来の主は現れなかったのだろう。
誠はごくりと唾を飲む。
不定形であるそいつの大きさを単位で表現するのは難しい。だが大人ひとりを丸呑みにできるほどの大きさといえば、そのスケールが伝わるだろうか?
ちなみに、この世界のスライムには、某有名RPGのスライムのようなコミカルな顔は付いていない。微生物であるアメーバをそのまま巨大にしたようなグロテスクな見た目をしているのだ。
咄嗟に誠は愛剣を使い、それを迎撃する構えを取った。しかし先程、助けた男の言葉が彼の脳裏をよぎった。
『……絶対に奴を〝斬る〟んじゃねぇ……そのせいで、俺の仲間たちは……っ』
誠は白金を地面に突き刺すと、ストレージから弓を取り出した。
「レヴィン、借りるよ。お前の形見」
そう言って取り出されたその弓は、不自然なほど複雑に捻じれていた。節くれ立った木肌の隙間には、夜空の光を閉じ込めたような青白い金属が埋め込まれている。
星弓――アステリオス。
その強力な弓の弦を彼はきりきりと引き絞り、敵に向かって矢を放つ。
「なにっ!?」
すると、どうだろう?
矢が命中した敵の傷口からはしゅうしゅうと煙を上げながら黄金色の体液が漏れ出した。それは異臭を放っていた。具体的にどんな臭いであるかを説明するのは難しいが、本能がこれに近付いてはならないと直感できる類のものだった。
(あの男たちの命を奪ったのはこれか!)
誠はストレージに弓矢をしまう。もし忠告がなかったら、いきなり剣で斬り込んで毒をまともに受けていたかもしれない。
なお悪いのは、その傷口がすぐに塞がったことだった。
――自動回復。
こいつは斬って殺せない上に治癒能力まで備えているのだ。
で、あるならば答えは1つ。
強い魔法でゴリ押しする。
「【煉獄葬送炎熱波】! 【絶対零度大寒波】! 【天壊轟雷神罰槍】!」
誠が無詠唱で連打したのは、大抵の敵ならば塵も残さずに粉砕できる大技だ。
誠はそれらを惜しげもなく撃った。精神力の温存なんて言っている場合ではない。とにかく早急に対処しないと、まずいことになる予感がしていた。
ところが、だ。
「おい、嘘だろ……」
そいつの前にはバリアが生じ、誠の魔法を完全に弾いていた。
そんなのありか、と彼は思う。
斬れない上に魔法が効かない。しかも放っておくと再生する。完全無欠のモンスターだ。
と、一通りの攻撃を食らった敵は、誠のことを脅威ではないとみなしたのか猛スピードで突進してきた。
誠はぎりぎりそれをよける。
体当たり。
言ってしまえばそれだけの技だ。
だがスピードが尋常ではない。
果たして、その馬鹿でかい巨体のどこにそんな推進力を生み出す器官があるのだろうか?
誠にそれはわからなかった。
ただ1つだけわかるのは、その突進をもろに食らえば致命傷になるということだった。
攻撃、防御、再生力、どこを取っても隙がない。こんなモンスターが存在しうるのだろうか?
(考えろ! 考えろ、俺! 倒せないモンスターなんているはずない! 何か弱点があるはずだ!)
2発目の突進攻撃をすんでのところで回避しながら誠は思った。
たとえば魔法のバリアの発動に回数制限があるのでは?
そう考えて再び、魔法を撃つ。
ところが、それは逆効果だった。バリアはいっそう分厚くなり、比例するように敵の素早さはいっそう上がっていったのだ。
敵はボス部屋を縦横無尽に跳ね回り突進攻撃を繰り返してきた。
剣で防げば毒が散る。
それゆえに、かわす以外ない。
いわゆるジリ貧状態だった。
こちら側からは有効打がないのに、敵の方からは致命傷になりうる攻撃が連打されるのだ。
(くそっ! アリオス、お前がいればっ!)
果たして、誠は心中でかつてパーティのブレーン的存在だった神官の名を思ってしまう。だが彼はすぐに首を振った。その男はもういないのだから。
ともあれ仲間を逃がしたことは正解だったと誠は思う。
自分ひとりでもこのザマなのだ。仲間を守りながら戦うなんて不可能だったに違いない。
再び敵の突進攻撃。
なんとか、ぎりぎり回避するが少し前よりも攻撃の精度が上がってきていた。戦いの中で成長しているのだろうか?
(落ち着け、俺! 何か手が! 絶対に何かあるはずだ!)
なんていうことを思った時、ふと視界端にある空中画面に目が行った。
〝金スラTUEEEEEE!〟
〝トーマスお前、こんなところで負けるんか!?〟
〝過去最強の敵だろこいつ! 特に魔力を喰うのがヤバイ!〟
その時、誠の頭の中に、ふとある考えが浮かび上がった。
魔力を喰う――それは誠にはなかった発想だった。
だが現に、それは魔法を撃つたびバリアの分厚さを増していたし、動きも速くなっていた。
もし、その仮説が正しいとすれば……
思った誠はストレージに地面に刺していた白金を放り込んだ。そうして代わりに取り出したのは、この間、麗亜の前で使ってみせた、なんの変哲もない〝木刀〟だった。
「反撃開始といこうじゃないか。お前が毒を使うなら、こっちも毒を使ってみせる」
そう言うと彼は木刀に、闘気ではなく魔力をエンチャントし始めた。




