第62話:金スラ出現情報
さて、その後……
誠を除く4人のメンバーの活躍により、ハイオークは見事倒された。
その連携はすばらしかった。
絵麻が毒矢で弱らせて、小鈴が炎魔法で火傷を負わせ、弱ったところを朝香が足止め。栄えあるとどめは麗亜が刺した。
ただ消耗も大きかった。
特に前線で戦った朝香はぜえぜえと荒い息を上げている。
「か、勝てたッス。なんとか、勝てた……」
「お疲れ様、みんなよく頑張ったね」
「こんなのが表層をうろついてるとは、活性化中のダンジョン恐るべしです」
「毒が効いたからよかったけど、耐性持ってたら詰んでたかもだし」
おのおのが感想を言い合う中、誠はストレージからポーションを取り出し、それを朝香に飲ませてやった。
一方、麗亜は無傷である。
彼女は涼し気な顔をして「余裕だったわ」と強気を見せる。
「なっ……誰のおかげで勝てたと思ってるッスか、このウマ娘は!」
「そうですよ。皆の連携があったから勝てたのです」
「ええ、そうね。わたしはとどめを刺しただけ。MVPはあなたたちよ」
朝香と小鈴は「なっ……」と言う。
てっきり高慢な態度を取るのかと思いきや、存外、謙虚だったからである。
お嬢様っぽい外見や雰囲気、それに口調も相まって、誤解を受けやすい麗亜だったが、根はかなり素直なのである。というか素直すぎるせいで、周りと溝ができがちなのだと誠は剛田から聞いていた。
今の戦いはかなりスリリングだった。
きっと、いいレスポンスが来ているに違いない。
思った誠はエアタブを起動し空中画面を展開する。すると案の定、コメント欄は大盛り上がりを見せていた。
〝俺、今合流したんだけど、何!? なんでまた女の子増えてんの!?〟
〝しかも獣人種変異者じゃん!〟
〝うまぴょい(゜∀゜)o彡゜うまぴょい(゜∀゜)o彡゜〟
〝ちきしょう、しかもまた、とびきりの美少女じゃねぇか!〟
〝仲間ガチャSSRしか引かない男〟
〝うらやましい! マジでいい加減、立場代わってくれトーマス!〟
〝毛根が死滅してる奴には無理定期〟
〝だからハゲちゃうわっ!〟
今に始まったことではないが、コメント欄はカオスである。
中でも、やはり新入りの麗亜が大きな注目を引いているらしい。
『麗亜ちゃん、みんなに挨拶したげて』
ドローンカメラがフィィィンと降りてきて、そこから陽菜の声がする。
すると麗亜、カメラに向かって丁寧に一礼。自身のことを語り出す。
「わたしの名前は千堂麗亜、15才です。ジョブは戦士職で、武器は双剣です」
『いや、フルネームは言わなくていいよ……まあ、もう言っても遅いけど』
そう言うと陽菜は、麗亜の加入の経緯をざっくり説明し始めた。
ベルディアダンジョンの中層で死にかけていたところを誠に助けられたこと。その後、道場を破門となり、代わりに彼の弟子になることになったことなどだ。
すると、
〝まーた、トーマス美少女の脳焼いたのか〟
〝いやでもさ、俺男だけど、正直トーマスに命の危機を救われたらお尻の穴を差し出すと思う〟
〝イキスギィ! ンアーッ(≧Д≦) 〟
〝申し訳ないがガチホモはNG〟
〝今は多様性の時代やぞ〟
〝てことはチビデブハゲのおっさんの俺でも、自認すれば17才の女の子になれるってコト!?〟
などと、コメント欄はいっそうカオスになる。
やっぱ教育によくないな、これ……
そう思った誠は空中画面を視界端に追いやり、麗亜から見えないようにする。
その後、休憩を挟んだのちに誠は先を行くことにした。
と、壁面がボコリと盛り上がり、再びモンスターが生み出された。
「「グルォォォォォォォォォォォォ!」」
ハイオーク、それも2体。
一行の顔に緊張が走った――誠1人を除いては。
「あー、もう、面倒くさいなもう」
うんざりとした口調でそう言った誠は、右手に剣を持ったまま左手に無詠唱で火球を作る。そうして目にも止まらぬ速度で走った。
その剣は前にいたオークの胸を貫通し、放たれた火球は後ろのオークを黒焦げにする。
ハイオークたちは即座に黒煙と化した。出現してから約2秒、あっという間のできごとだった。
当然コメントはお祭り騒ぎだ。
〝トーマスTUEEEEEEE!〟
〝なんだ、このオッサン!?(驚愕)〟
〝え、ちょっと待って。今の普通のオークじゃなかったよな!? 上位種だよな、本当に!?〟
〝普通、詰んでたぞ、今の状況!?〟
〝なろう系キャラか、このおじさん!?〟
などと驚愕の声が巻き起こる。
状況に慣れた他のメンバーは別として、麗亜は呆気に取られていた。
「……ねぇ、師匠って人間なの?」
「それたまに、わたしも思うことがあります」
「さっすが、マコト! あーしのフィアンセ!」
「どぅあれがフィアンセッスか、チビ大人っ! デマ流すんじゃないッスよ!」
きゃいきゃいと騒ぐ仲間を背後に、誠はハイオークのドロップアイテムを作業のように回収していた。ああ、運がいいな。大きめの魔石だな、と彼は自分の成し遂げた偉業を特段誇ることもなく、ただ淡々と作業を進める。
と、その時、彼は地面の上に、まだ新しい血痕があることに気付いた。
誠は「しっ」と仲間を制し、その血痕をたどってゆく。
すると誰かが壁に寄りかかっていた。
誠と同い年ぐらいに見える戦士職らしき男だった。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、なんとか」
「ポーションあります? 分けましょうか?」
「いや、いい。さっき飲んだところだ」
男は苦しげに顔をしかめながら、息も絶え絶えにそう言った。
誠は小鈴に回復を命じる。
「……ありがとな」と小さな声で、男は誠に礼を言った。
「一体、何にやられました? ハイオークですか?」
「いや、違う。俺は中層から逃げてきたところだ。仲間2人を見捨ててな」
男は自嘲ぎみに言う。
緊急救援を呼びますか? と問いかけると「もう呼んだよ」と返す男。
「……あんたらも金スラ目当てかい?」
「ええ、まあ、そうです」
「……やめときな。あれはマジもんの化け物だ」
「そいつと遭遇したんですか?」
「……ああ、したよ……これでもAランカーなんだがな、そんな俺でもこのザマだ。……もしも、この先へ行くのなら……1つ忠告しておくぜ。……絶対に奴を〝斬る〟んじゃねぇ……そのせいで、俺の仲間たちは……っ」
男はごほっと咳込んだ。
誠は仲間たちを見る。
彼は撤退を視野に入れていた。
だが引き返すか皆に問うと、全員がノーと言ってくる。
「お師様がいれば大丈夫です」
「金スラ目撃情報ッスよ! 行かないなんて手はないッスよ!」
小鈴と朝香は力説する。
一体、どんなモンスターだったのか男に問おうとするが、彼は意識を失っていた。
誠は決断を迫られる。
安全を優先するなら引くべきだ。
しかし弟子たちを成長させるには多少、冒険が必要なのではないか?
彼は、ううむ、と頭を掻いた。
そして何秒か迷った後「わかった。行こう」と頷いた。




