第61話:連携訓練
麗亜がパーティに加入した翌日、一行はさっそく彼女を連れてダンジョンに潜ることにした。
探索するのは最寄りのコニュードダンジョン……ではなく、先日、剛田の弟子たちを救出したベルディアダンジョンだった。
というのも、朝香がゴールドメタルスライムをどうしても諦めきれないと主張したためだ。確かに、それは一理ある。誠としても、あのダンジョンはまだまだ未知の場所であり、救出イベントのせいで探索が中途半端に終わった感が否めなかったからである。
そういうわけで現地へ行くと、噂が徐々に落ち着いてきたのか列は短くなっていた。それでも、いまだに人気なことは確かだ。誠は良心が痛んだものの、再び〝あれ〟を使うことにした。ダンジョン協会に渡された特級ライセンスである。
列をスキップし、直接ダンジョンへ招かれるという異例の待遇を目にした麗亜は「師匠の影響ってすごいのね」と、案内される途中で言う。
「そうッス、ウチらはすごいんス」
「いや、明らかに師匠がすごすぎるだけでしょ」
「確かにそれはもちろんですが、このライセンスを手に入れられたのは我々の活躍もあってこそです」
弟子たち2人は胸を張った。
そうすると麗亜は呆れた顔で「虎の威を借る狐ね」と身も蓋もないことを言う。
「きぃー! なんてかわいくない妹弟子ッスか!」
「お師様、やっぱこいつクビにしましょう」
「しょっぱなから喧嘩するんじゃないし」
「そうだよ。みんな仲良くしよう」
誠がその場をいさめると、ツンとそっぽを向く弟子たち。
これは当分、難儀しそうだな、と誠は溜息をついた。
「大丈夫、マコト。あーしがいるし」
と、表情を読んだ絵麻が話しかけてくる。
最初は一番の問題児に思えたが、やはりメンタルが大人なためか今ではすっかり常識人だ。
ただ、さりげなく隙を見て絵麻は誠の手を握ってくる。
「む、この偽子供、またお師様を独占しようとしています」
「えー、なんのこと~? エマ、わかんな~い」
「猫を被るじゃありません!」
「いや猫はあんたの方じゃんね」
2人は軽い口論を始める。
そんな、やり取りを繰り広げる2人を呆れた顔で麗亜は見ていた。
「いっつも、こんな感じなの?」
「まあ、大体」
「苦労してるわね」
「わかってもらえる?」
誠が肩をすくめて言うと、絵麻がふふんと鼻で笑う。
「あんたもいずれこっち側に来るし」
「行かないわよ」
「あんた気付いてないの? マコトと話をする時にちょっと頬、赤くなってるし」
麗亜は「嘘!?」と赤面した。
「冗談だし」と絵麻が言うと、彼女は「~~~ッ!」という表情で褐色エルフをにらみつける。
これも交流の一環か、と誠は苦笑する。
そんな会話を繰り広げながら一行はダンジョンに到達した。
ここから先は真剣だ。
コントしている場合じゃない。
誠は、ごほん、と咳払いすると、前日に皆に話した陣形。
すなわち朝香と麗亜が前衛。
誠が中衛。そして小鈴と絵麻が後衛というフォーメーションを作り出した。
「とりあえず、これでやってみよう」
そう言い、探索が開始される。
最初に現れたのはゴブリンだった――緑色をした醜い小鬼――今さら説明するまでもない表層お馴染みの雑魚敵だ。
「とりゃああああああッス!」
朝香がそれに斬りかかる。
だが、その前に素早い麗亜が彼女の前に割り込んで、敵を細切れにしてしまう。
「あ、ちょっと! 今のはウチの獲物だったッス!」
「別に誰が倒したっていっしょでしょ?」
「そんなに、有能アピールしたいんスか?」
「そんなつもりでしてないわよ!」
喧嘩とまでは言わないが若干空気がピリついた。見かねた誠が間に入り、にらみ合う2人を仲裁する。
「朝香、今のはわざとじゃない。麗亜は普通に倒そうとしただけだよ。ただし麗亜、今のゴブリンは朝香の近くにいたから彼女が倒す方が効率的だった」
誠は2人の肩を叩きながら言った。
そして同時にこう思う。
なるほど。前衛が増えるとこういう問題が起きるのか、と。
彼はかつてを思い出す。
そういえば昔、異世界で〝勇者〟をやり始めた頃、前衛の戦士ランディと似たようなことで揉めたことがあったな、と。
だが、このような問題は時間が解決してくれる。
仲間同士に信頼が芽生え、相手の考えが読めるようになってくると、自然と自分が何をするべきか理解できてくるものなのだ。
実戦経験がまだ浅い麗亜には、それがわからなかったのだろう。
しかし誠はそのことを叱ったりなどはしなかった。現場判断に明確な正解はなく、その場、その場の判断を積み重ねていくものだからだ。
「朝香、麗亜。しばらくはモンスターが出るたびに、どっちが何をするのかを、その都度俺が指示してく。最初はやりにくいと思うけど、慣れればすぐに連携は取れるよ」
言うと、2人は頷いた。
ついでに握手もさせておく。
「……ごめんッス。ちょっと言い方がキツかったッスね」
「わたしの方こそごめんなさい。確かに、あなたの言う通り、認められたいって欲求が出すぎちゃったかもしれないわ」
2人は素直に謝り合った。
いい兆候だと誠は思う。
異世界にはこんな格言があった
仲違いした達人パーティよりも、仲の良い初心者パーティの方が生き残れる、と。
と、ふいに「お師様」と小鈴が前を指差した。
見ると前方の壁がぼこりと盛り上がり、中から何かが這い出て来る。
ビキッとそれが割れた時、生み出されたのはハイオークだった。平時なら表層で出ることはない中層以降の強力なモンスターだ。
「グルォォォォォォォォォォォォォォォ!」
そいつは凶暴な雄叫びを上げた。
誠であればワンパンできる。
だが彼は、敢えてそれをしないことにした。
「みんな聞いて。俺は今回の戦闘に非常時以外は関わらない。力を合わせて倒すんだ。朝香と麗亜は横から挟み撃ち。小鈴と絵麻は後ろから2人のサポートお願い」
言うと、メンバーは頷き合った。
こうして新生トゥルートーマスの初の連携プレイが始まった。




