第60話:新歓パーティ、サイゼにて(陽菜視点)
「――と、いうような経緯があって、麗亜がパーティに入ることになった」
そう言い誠は正面に座る少女を皆に紹介する。
ああ、またこういうパターンかぁ~、と陽菜は自分の叔父のスケコマシっぷりに肩をすくめる。
場所はすっかりお馴染みの、なんちゃってイタリアン専門店サイゼリヤ。
6人掛けのテーブルには、陽菜を含めたトゥルートーマスの面々と、そして新顔の姿があった。
千堂麗亜。
数日前にベルディアダンジョンで誠が助けた、獣人種変異者の少女である。
ちなみに誠はソファに掛けており、小鈴と朝香がその両サイドにぴったりくっついている。その警戒した顔からは、うちのお師様は渡しません的な空気が露骨に垂れ流されている。
「さあ、麗亜。みんなに挨拶を」
「わたしの名前は千堂麗亜です。ジョブは戦士職で、双剣を武器にしています。皆さん、よろしくお願いします」
少女はぺこりとお辞儀した。
それは、いかにも育ちが良さげなお嬢様らしい所作だった。
一同は軽い拍手を送る。
しかし拍手をしながらも、ふしゃあ、と猫耳を逆立てて、どす黒いオーラを放つものがいる。
「異議ありです」
小鈴である。
彼女はずびしと麗亜を指差して、新メンバーは不要だと語った。
「だって考えてもみてください。すでに、このパーティの前衛はお師様と朝香さんがいます。これ以上、剣士を増やしてどうするのですか?」
「別に困ることはないだろう? そりゃ収益の分配とかは話し合わなくちゃ駄目だけど、目の敵にすることはないんじゃないか?」
「いいえ、あります」
「その心は?」
「一人称わたし、ケモ耳、ですます口調、実家がそこそこお金持ち……完全にキャラが被ってます! 弟子は2人だけで十分です!」
小鈴は悪びれもせずにそう言い切った。
ああ、完全に私怨だねぇ……と陽菜は状況を楽しみながらも、同時に呆れた気持ちになる。
問題はもう1人の弟子である朝香が、どうも小鈴寄りっぽいことだ。絵麻の時はまだよかったが、弟子という立場の人間が増えることに危機感を覚えているのだろう。
流石に気分を害したのか、麗亜は柳眉を吊り上げる。
「じゃあ、どう話せばいいんですか? 姉弟子さん? もっと乱暴な口調で話せと?」
「語尾にナリとかヤンスとか付けてください」
「それ完全に不審者じゃないの!」
「イロモノ枠です」
「あんたの方がイロモノよっ!」
思わず麗亜は突っ込んでいた。
こりゃ苦労人ポジになりそうだねぇ、と陽菜は心中で新入りを案じる。
「姉弟子として敬わなくていいっていうなら、わたしも普通に話すわよ」
「まあ、その方がやりやすいッス」
「それならギリギリ許しましょう」
何が基準かはよくわからないが、とにかく彼女は許されたようだった。
と、微妙な空気を仕切り直すように誠がゴホンと咳払いする。
「とりあえず、戦略の話をしよう。朝香はタフネスを活かして後衛を守るタンク的な役割が今の運用だよね。麗亜はどちらかというとスピード重視だ。手数を活かした前衛や回避タンクを任せたい。俺は司令塔として中衛に回る。ただし本当に危ない時は俺が前衛に回るから、その時はサポートをお願いしていいかな?」
「わかったわ」
麗亜は頷いた。
しばらくお喋りしていると、配膳ロボがやって来て、次々、料理が運ばれて来る。
そんな中、誠は「ごめん」と言って急に席を立った。
「先食べてて。俺、ちょっとトイレに行ってくる」
そう言うと彼はソファを立って、しばらくの間、その場を離れた。
陽菜を含めた4人の視線が、じいっと麗亜に注がれる。
「な、なによ?」
「いやねぇ、どういうスタンスなのかと」
「なんの話をしてるのよ?」
「ぶっちゃけ聞くね。叔父さんのこと好きなの、麗亜ちゃん? みんなはそれが気になってるの」
陽菜がクスクスと笑いながら聞くと「ちょ……はあっ!?」と麗亜は赤くなる。
「いきなり、なんて質問するのよ!」
「いや、わたし以外のこのパーティのみんなって、おじさんガチ勢ばっかりだからさ、もしかして麗亜ちゃんもそうなのかなって」
そう聞くと、麗亜は皆を見回して「もちろん好きよ」と宣言した。彼女は「ただし」と付け加える。
「あくまでも、それはライクの好き。最初は卑怯な手を使う嫌な大人だって思っていたけど、実戦で助けられた時、その考えが変わったの」
「ラブではないってことッスか?」
「そう言ってるじゃないの」
「本当ですか? 怪しいですね」
ジトッとした目で麗亜を見る姉弟子2人。
一方、陽菜はひそひそと隣の絵麻に話しかけた。
「大人の女としてのご意見は?」
「尊敬7に恋愛3、今んとこそんな割合と思うし」
「ほぅ、では今後くつがえるかもと?」
「マコトは天然ジゴロだから、どうせクリティカル出すに決まってるし」
それはひそひそ話であったが、耳のいい麗亜には聞こえたようだ。
「リスペクトだけよ! 恋愛じゃないわ!」
「まあ、いずれって感じかなぁ~」
動揺を隠したかったのか「わたしもトイレ行ってくる!」と、麗亜はガタンと席を立つ。
と、入れ替わりに誠が戻ってきた。
どうやら彼は、彼女が赤面していたことに気付いたらしい。
「あれ、どうしたの? なんかあった?」
「何でもないッス」
「ええ、そうです。ちょっとテストをしただけです」
誠は「?」という顔で弟子たち2人の顔を見た。
罪な男だね、おじさんは、と姪である陽菜は鈍感な叔父に再び肩をすくめてみせた。




