第6話:規格外
果たして、それから1週間。
誠は毎日ダンジョンに潜り、探索を続けた。
「おじさんの実力なら余裕で深層行けるよ!」と姪に何度も言われている誠ではあるが、油断大敵がモットーな彼はその言葉を鵜呑みにしなかった。
理由はいくつかある。
まず第一に、魔王討伐後3年以上も小さな村でスローライフをおくっていたから単純に体がなまっている。その上、年もとってしまった。若い頃のように動くには、まだ練習が必要がだと思ったのだ。
そういうわけで誠はいまだに初心者向けとされている〝表層〟部分に留まっていた。撮れ高的には恐らくもっと深くまで潜るべきなのだろうが、これに関しては命の方を優先させてもらわずを得ない。
ただ陽菜からのお願いを全く聞いてないわけではない。
――お願いだから魔法はやめて!
土下座せんばかりの勢いで懇願されたので、これだけは聞いてやることにした。
なんでも誠が魔法を使うと、そのあまりにも突飛な威力と、しかも無詠唱という部分がフェイク認定に引っかかるらしく、どうしてもアンチを呼ぶらしい。
(まあ、剣の練習と思えばいいか)
なんていうことを呑気に思った誠は、それで表層の雑魚敵たちを文字通り細切れにしていった。
手は抜かない。
気も抜かない。
しかし力はセーブする。
なんていうことを目標に、日々、鍛錬に明け暮れる誠。
しかし、どうやらそれをもってしても彼の剣は疾走すぎるようだった。
『ねえ、おじさん、せめてあとワンフレーム遅くできない? おじさん動きが速すぎてカメラが追い付けないんだよね』
「これでも、かなりスローモーにしてるつもりなんだけどなあ……」
『じゃあ、その100倍遅くして』
誠の背後を浮遊するドローンカメラ越しに、ここ数日間、誠と陽菜は同じようなやり取りを繰り返していた。
ちなみに、現在活動している「いせおじ☆ちゃんねる」の登録者数は現在のところ47人。
「学校のクラスよりも多いじゃないか」と前向きな姿勢を見せる誠に対し「まるで駄目! ぜんっぜん駄目! こんなんじゃ収益化なんて夢のまた夢!」と、陽菜は毎日嘆いていた。
毎日投稿している配信動画も再生数は100行くか行かないかというところ。
コメントもひどいものだった。
「フェイク動画を視聴しに参ったw」「どんなAI使ってるんですか、教えてください?」「おじさん自体もCGですか?」「たまに女の子の声入るからたまに見る」etc……
まあ、そりゃ、そんな甘い界隈じゃないよな……
と、誠は現実的になる。
彼が異世界に転移した当時の動画サイトにも、収益のシステムが確かにあった。
が、それは、ほんの小遣い稼ぎや趣味の延長のようなものがほとんどで、ストリーマーなんて概念はそもそも存在しなかったのだ。
姪っ子の夢を応援してやりたい。
その気持ちに嘘や偽りはない。
しかし同時にこうも思っていた。
このまま数字が伸びないなら、どこかで区切りを付けないと、自分も姪も共倒れになる、と。
誠に貯金はなくはない。
亡き両親が遺してくれたものだ。
だが、それだけで一生、食ってはいけない。何か手に職を付けないと……
なんていうことを思っていると、
燐光を放つ目の前の壁がぼこっと盛り上がり始めた。
それにビキビキとヒビが入り、ダンジョンから新たな魔物が生み落とされる。
「ん~?」
一見、それはオークであった。
身長2メートル超、赤褐色の肌をした醜悪な鬼のモンスターだ。
ただ、その頭には金属質な王冠のようなものが乗っている。
「ブフォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
それはダンジョン中に轟くような身の毛のよだつ雄たけびを上げた。
衝撃によってドローンカメラが宙に浮いたままビリビリと震える。
途端、近くの探索者たちが、悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
『まずいよ、おじさん! 今すぐ逃げて!』
「え、なんで?」
『いいから早く! あれはキングオークっていうオークの亜種で、表層に超低確率で湧く強力なボスなの! 数人がかりでなんとか相手できる相手! 流石のおじさんでもアレはまずいよ!』
「しかしね、陽菜ちゃん。おじさんは今、将来について思い悩んでるところなんだ」
『そんなの、あとでもできるでしょ! とにかく逃げて!』
「ブフォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
『まずいっ、来るっ!』
オークは周りに目もくれず、巨大な棍棒を振り上げながら一直線に突進してきた。
対する誠は、どちらかという細身。
あんな攻撃をまともに食らえば一撃で死んでしまいそうだ。
「うるさいな」
が、しかし彼は動じない。
どころか面倒くさそうに、ミスリル製の黒い剣をオークに向けて構えたのだった。
そして、そのままそれを〝斬る〟
何かがドスンと落ちる音がした。
闘気を帯びたその剣は、振り下ろされた棍棒もろとも赤褐色の巨漢の体を一刀両断したのであった。
『………………え?』
ドローンカメラから陽菜の声がする。
両断されたモンスターの死骸は黒煙に変わり、気付いた時には誠の足元には何も残されていなかった。
「手に職っていっても何があるかなぁ? この年でまともな職歴もないと日雇いのバイトぐらいしか……」
誠は顎に手を当てながら、ううむ、と思い悩んでいた。
そんな彼の様子を周りで様子を伺っていた探索者たちが畏怖を込めた目で見つめている。
「だ、誰だ、あれ?」
「新入りか?」
「もしかしてSクラス探索者!?」
「カメラある!? 今の映像残ってるか!?」
そんな声は誠に届かない。
――藤増誠、31才。
彼はいまだに自分の強さが、この世界において規格外なことに、ただひとり気付いていないのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
面白かったら、ブックマーク・評価・いいねなどで応援してもらえると嬉しいです!




