第55話:ゴールドラッシュ
ベルディアダンジョンに幻の変異種現る。
近頃、SNSなどでそんな情報が拡散されていた。
なんでも隣町にあるダンジョンで「ゴールドメタルスライム」なる名前の変異スライムが目撃されたのだそうだ。
それは誠の知らないモンスターだった。
陽菜曰く、それはそんなに強くない、ただ硬いだけのモンスターらしい。しかしドロップアイテムが希少であり、そいつが落とすレアメタルを売却すれば一生遊んで暮らせる額のお金が手に入るとか。
誠はそれを聞いた時、へえ、そうなんだ、としか思わなかった。元より物欲は高くないタイプだ。だが食い付いた者がいた――それは朝香である。
〝これはチャンスッス! 電車でちょっと行けばいい距離に夢とロマンがあるんスよ!?〟
トゥルートーマスのLINEグループで彼女はそんな発言をした。
いや、でもなぁ、と誠は思う。
お金なら2度の協会案件でまとまった額が手に入っている。ダンジョン配信の収益も好調。深層で採れるドロップアイテムも結構な値で売れている。
ようするに食うに困ってないのだ。
だが、そのことをやんわり話すと〝甘いッス!〟と朝香は言い張る。
〝病気、事故、怪我、その他もろもろ。人生は何があるかわからんッス。老後の蓄えのことまで考えるなら、お金はあるにこしたことないッス〟
確かに、もっともな意見ではある。
〝確かに興味はありますね。お金の方ではありません。ゴールドメタルスライムの落とすレアメタルは優れた魔術触媒になることで有名なのです〟
〝あーしは別にどっちでも。マコトが行くなら付いてくし、行かないんなら付いてかない〟
小鈴と絵麻の反応はこんな感じ。
誠は、ううむ、と考え込んだ。
ベルディアダンジョンは夜使市にあるコニュードダンジョンよりも難易度の高いダンジョンとして知られている。
とはいえ、だ。
これまで3回の深層の修羅場をくぐり抜けて来た。日和る理由はないかもしれない。
誠はスマホから目を上げると、目の前の陽菜にこう聞いた。
「どう思う?」
「どうって、何が?」
「ベルディアダンジョンに潜ること。正直、噂に尾ヒレが付いて広がってるだけの気もするんだよね」
誠は肩をすくめて言った。
ちなみに場所は陽菜の部屋。
先日、片付けを手伝ってあげたので散らかった部屋という印象は薄い。だがフュギュア、トレカ、アクリルスタンドなど、置いてあるものがとにかく多い。ゆえに、その部屋はごちゃっとして見えた。
ただ誠自身オタクの気質があるので、自分の好きなアイテムで部屋を飾りたい気持ちはわからなくもない。というか、めちゃくちゃわかる。
「んー、いいじゃない? 行ってくれば?」
「適当だなぁ」
「正直、動画配信者的には、競合が多すぎると思ってる」
「どういう意味?」
「つまりね、おじさん。そういう噂があるってことは、嘘か本当かは別として、金スラ捜索配信みたいなやつをするライバルが多いってこと。まあ固定ファンが付いてるから、おじさんたちがが配信するだけである程度、数字は稼げるかもだけど、コスパ的には微妙じゃね? っていうのが、わたしの忌憚なき意見かな」
陽菜は眼鏡をくいっと上げた。
確かにそれはそうかもしれない。
ネットリテラシー皆無の誠は貴重な意見に感謝する。
「おじさん自身はどうなのさ? このチャンスに乗ってみたいと思う?」
「ううん、それは……ちょっと難しい質問だな。俺1人なら確実に行ってった。配信が伸びる伸びないとか、そういうの全く関係なしに」
「男のロマンみたいな感じ?」
「いや性別は関係ないよ。ゲームとかでも、よくあるだろ? 幻のレアモンスター出現なんて情報聞いたら誰だって行ってみたくなる」
言うと、姪っ子は「じゃあ決まりだね」と、椅子をくるりと回して言う。
「ベルディアダンジョンは変性型じゃない。ルートもほとんど解析済み。で、おじさんのパーティはこれまでに2度も変性型ダンジョンの未知の深層を探索してきた。でもって、死者も出してない。だったら、行かない理由はなくない?」
「そ、そう聞くと、そう思えるけど、でもやっぱ未知の場所だしなぁ……」
「だったら表層だけとかにすれば? ゴルスラの捜索はあくまでスパイス。たまにはおじさん自身がさ、楽しむことも重要だよ」
陽菜はコケティッシュな笑みを浮かべてみせた。
そうだよな。
確かにそうだ。
未知の冒険ににわくわくしてしまっている自分を誠は否定できなくなった。
「よし。じゃあ、行こうと返事する。オペレーターを頼めるかい?」
「もちろん、おじさん。それがわたしの役割だからね」
サムズアップする陽菜を見て、誠は複雑な心境になった。壁に掛けてあるセーラー服がどうしても彼の気を引いてしまう。
「なあ、陽菜ちゃん。やっぱりさ、本業をほっぽり出して作業に打ち込むのまずくない?」
「ああ、それね。わたし、学校をやめようかと思ってる」
「めっちゃシリアスな情報来たな」
「だって、おじさんお金になるもん。利用しない手はないでしょ、普通?」
悪びれもせすに言う陽菜に、誠はかつての自分を重ねる。
「やめてもいい。でも、高卒認定の資格は取れよ?」
「わかってるって。大丈夫、おじさん。わたし逃げたけど、社内的な責任からは逃げないから」
誠は「そっか」と一言答えた。
こうして叔父と姪による作戦会議が始まった。




