第54話:デート・ア・エルフ②(ヒロイン視点)
(わたしは何をしてるんだろうか?)
場所は市内のショッピングモール。
サングラスとマスクで変装した顔に青筋を立て、どす黒いオーラを放つ2人組を前にしながら、陽菜はまたしてもそう思った。
「なんなんスかねぇ、この気持ち? 映画行ったりゲーセン行ったり、テンプレだけど手堅い場所を選びまくりやがって……これがNTRっていうやつッスかねぇ?」
「いえ、朝香さん。正確には|BSS《ぼくが先に好きだったのに》だと思います。いずれにしても不愉快です」
朝香と小鈴は歯ぎしりしながら、まるで仲のいい親子のように手を繋いでいる2人をねめつけている。
「つか、誠さんも誠さんッス! いくら外見が幼いからって、手繋ぎはライン越えでしょう!」
「ですです!」
「いや、落ち着きなよ、2人とも。ていうか手を繋ぐ行為って、あなたたちだってやってるじゃん?」
「そーゆーのではないのです!」
「そうッスよ! アレはアレで尊い時間ッスけど、あくまで修行の一環なんス! ウチらにも愛がほしいッス!」
朝香と小鈴は息を合わせ、魔力交換ではない本当の〝手繋ぎ〟をする誠と絵麻に遺憾の意を示す。
誠への好意を認めてからというもの、彼女たちの発言には躊躇がなくなった。絵麻への嫉妬や敵愾心をもはや隠そうとしないのである。
「む、見てください、朝香さん! カップルで入るのにちょうどよさげな、いい感じの喫茶店に入っていきますよ!」
「これは緊急事態ッス! ただちに後をつけるッス!」
2人は陽菜の手を引いた。
もはや彼女たちを止めるすべがないことを悟った陽菜は、もうどうにでもなれ~という心持ちで、ぐいぐい引っ張られて行った。
◆◆◆
「でねでね、マコト。そん時あーしらが追い返した初心者探索者の顔が傑作でさ」
ブラックコーヒーをずずっとすすりながら、絵麻はたわいない話を誠に語った。
誠は割と……いや、かなり聞き上手なので、そんな話にも、うんうん、相槌を打ってくれる。
と、誠はメニューを取り出した。
せっかくなので何か甘いものでも食べようと彼は絵麻に提案した。
その中に絵麻の目を引くメニューがあった。メニュー名は「恋するふわふわパンケーキ」。
誠は卓上ベルをチンと鳴らし、近くにいる店員を呼び付ける。
そして絵麻の選んだメニューを頼もうとした。だが店員は申し訳なさそうに「こちらはカップル限定メニューとなっておりまして……」と、注文不可を伝えてくる。
「あ、違うんです、店員さん。彼女は長命種変異者で、だから本当の年齢は……」
誠が釈明しようとすると、割って入るように絵麻が口を出す。
「わたしとパパは仲良しだもん! 恋人みたいなんだから!」
「ですが、店内のルールでは……」
「ねぇ、駄目なの? エマとパパとはこんなに仲良しなのに、エマ、パンケーキ食べられないの?」
絵麻は唐突にアニメの子供のような甲高い声で懇願する。どころか、その目にうるうると涙まで貯めてみせる。
流石に良心が痛んだのか「わ、わかりました。では特別に……」と、店員は注文を了承した。
「女狐だなぁ」
「世渡り上手と呼んでよね」
「でも本当によかったの? あれじゃ、完全に親子だと思われちゃうよ」
「いーのいーの。あーしは別に誰かに見せつけたくて、マコトを誘ったわけじゃないし」
そう言うと絵麻は銀色の髪を手でくるくると巻き始めた。
そして、ちらりと誠を見やる。
彼は「なに?」と聞いてくる。
「ね、マコト。今日は楽しい」
「もちろんだよ」
「お世辞はいいから」
「いや、お世辞じゃなく……」
「あのさマコト、あんた異世界に女がいたでしょ?」
「……っ、それは」
「バレバレだし。いいから全部、吐きなって」
絵麻が試すような口調で聞くと、誠は頬を掻いた後「恋人じゃないよ」と打ち明けた。
「恋人とは呼べなかった。でも大切な人はいた」
「どこまで行ったの」
「別に何も」
「嘘」
「……なぁ、なんで全部わかるんだ?」
聞かれた絵麻はニヤリと笑った。女の勘ももちろんあるが、それはそれとしてこの男、あまりにも顔に出やすいのだ。
「一度きり。本当にたった一度きりだ」
「本当にぃ?」
「本当だ。シルヴィとは身分の差があったからね」
その時、誠の顔に浮かんだものは深い寂寥感だった。
絵麻はそれ以上、追及しない。
ただコーヒーをずずっとすする。
しばらく無言の間が続いていると、やがて注文のスイーツが届いた。
「恋するふわふわパンケーキ」にはハート形のチョコが乗っている。
「ほらマコト、あーんして」
「え、いや、ちょっと、流石にそれは恥ずかしいな」
「だったら、あーしにあーんして」
「あー、うん、そうだね。それならいいか」
すると絵麻たちの後ろの席からガシャンと大きな音がした。彼女は長い溜息をつくと、心底面倒そうに「そこの3人出てくるし」と言う。
陽菜、小鈴、朝香の3人がおずおずと2人の前にやってきた。
「ま、まさか尾行バレてたんスか?」
「あんなの尾行と呼ばないし」
「その感じだと、お師様も?」
「あ、うん、駅前で気付いてた。野暮だと思って言わなかったけど……」
2人はショックを受けていた。
最年少の陽菜がよしよしと彼女たちの頭を撫でている。
「モテる男は大変だね、おじさん」
「茶化すなよ」
「ねぇ誠、提案があるんだけど。近いうちに、そこの2人もどっかに連れてってやってくんない? 陽菜も付き添いで」
「なっ、敵に塩を送る気ですか!?」
「一体、どんな魂胆ッス!?」
小鈴と朝香は身構えた。
ただ陽菜だけが「わたしも~?」と、いつも通りの口調で聞く。
「あーしはね、実年齢ってアドバンテージだけで、あんたらと勝負したくないわけよ。あんたらと勝負した上でマコトの心をかっさらいたいの」
「ぐっ、なんという性格の悪さっ!」
「誠さん、こいつ悪魔ッス! 今すぐ離れた方がいいッス!」
指で十字を切りながら朝香が誠の側に来る。
小鈴も誠を守るように絵麻の前へと立ち塞がった。
「望むところです、偽子供。一泡吹かせてやりますよ」
「そうッス、ウチらは負けません! ウチらは心もピュアなんス!」
バチバチと火花を散らしてくる2人を余裕げな顔であしらう絵麻。
誠は、はぁ、と息をついた。
「おじさん争奪バトルだねぇ」
「だから茶化すなって言ってるだろ」
クスクスと笑う姪っ子の前で誠は再び溜息をついた。




