第53話:デート・ア・エルフ①(ヒロイン視点)
(わたしは何をしてるんだろうか?)
夜使市駅の駅前広場。
その隅っこにたたずむ陽菜は目の前の光景を見てそう思った。
待ち合わせ場所としてよく使われる背の高い広場時計の下には、30代前半ぐらいのおじさんが立っている。
他ならぬ彼女の叔父、藤増誠である。
ジーパンに黒いシャツというラフな服装をしている彼は、特に目立つような外見でもないので周囲の風景に完全に溶け込んでいる。
問題なのは茂みの中に身をひそめている小鈴と朝香である。
彼女たち、服装は普通であるが、顔はサングラスとマスクによって完全に隠してしまっていた。いや、その方が怪しいだろ、と思わずツッコみたくなるが、本人たちはいたって真面目だ。どうやら完璧な変装をしていると信じて疑わないらしい。
(恋は盲目っていうけどさ、ここまで来るとビョーキだねぇ)
ひとり外野にいる陽菜を小鈴たちは呼び付ける。
「ほら、陽菜さんも伏せてください。尾行がバレてしまいます」
「嫌だよ、虫とか付きそうだし」
「そんなの些細なことッスよ。さあ伏せるッス」
そう言われ、しょうがなく陽菜は少女たちの間にしゃがみ込む。
時刻は現在9:50。
待ち合わせは10時かららしい。
「誠さんを待たせるなんていい度胸してるッスよ、あの女」
「その通りです。お師様と待ち合わせるならば、せめて1時間前に来るべきです」
いや早すぎるでしょ、流石にそれは……
と口にしたくなる陽菜だったが、今の彼女たちに何を言ったとしても無駄であることは明らかだった。
代わりに彼女はこんな提案をした。
「暇だから絵麻さんが、どんな服装で来るか賭けない?」
「お、いいッスね。面白そうッス」
「わたしは、おへそ丸出しのいかにもアダルトな服装で来ると思います」
「あー、それはすごく絵が浮かぶ。パンクな服装好きそうだもんね」
「肩とかも露出させてるに違いないッス」
「子供服でそんなやつあるの?」
「あるッスよ。今では小学生が化粧をするのも、そんな珍しいことではないッスから」
陽菜は「へえっ」と気のない返事。
普段の服装からもわかるように、陽菜は同年代の少女と比べておしゃれへの関心があまり高くない。
と、駅から小柄な人影が出て来る。
「来たッスね」
「来やがったです」
「さてさて、どんな服を着てるやら……。ん、あれは……ん? ううん?」
陽菜を含めた一行は尾行対象を観察し、その服装に驚いた。
◆◆◆
「ごめんね、マコト。待った?」
「いいや、待ってないよ。俺も今来たとこだからさ」
誠がそんなふうに答えると「そ、よかった」と返す絵麻。
彼女は軽めにポーズを取って自身の服装を見せ付ける。
「えっと……何?」
「ねえ、誠。学校で習わなかった? 女の子とデートする時は、まず相手の服を褒めるのがマナーだし」
「い、いや、それはそうかもだけど……それ、似合ってるって言っていいの?」
「似合うでしょ?」
「ぶっちゃけて言うと、超似合う」
「余計な気遣いは不要だし。あーしの意思で着てきたんだから」
そう言って絵麻が見せ付けたのは、淡いピンクのジップパーカーに黄色のTシャツ、水色のプリーツスカートという、いかにも〝らしい〟服装だった。
そう、それは……一言でいうと女児の私服。
成人女性がデートに着てくる服とは、到底思えぬものだった。
誠はしばらく考えた後「……もしかしてそれ、俺のため?」なんて聞いて来る。
「そ、当たり。この服だったら隣にいても親子連れだって思われるでしょ」
「気を遣うことなかったのに」
「じゃあ、お巡りさんに通報されたい?」
「それは俺も流石に勘弁かなぁ」
そう言い、誠は苦笑した。
だが実を言うと今のは嘘だ。
(本当はめっちゃ迷ったじゃんね。ま、知らなくてもいいけどさ)
そう、絵麻は、大人っぽい服装を持ってないことはないのである。
そもそも絵麻が成人男性とデートをするのは、実を言うとこれが初めてではない。
キスや、それ以上の行為におよんだ経験はないが、この外見を好む趣味のものは世に意外なほど多くいる。
適当に相手に合わせ、食事を奢らせ、深入りされる前に離れる。そんな経験を彼女は繰り返していた。
その時はこんなに迷わなかった。
だが現れてしまったのだ。
生まれて初めて、本気で自分のものにしたいと思える理想の男性が。
絵麻にとって今回の服装は明確に〝逃げ〟だった。
もし大人っぽい格好で行けば、恐らく誠はやさしいので「似合っている」と言ってくれたはずだ。だが、その際に嘘をつかせるのが嫌だった。だから子供服に逃げたのだ。敢えて自分の服装に本気で言及させないために。
と、誠、ここで絵麻の表情を読み、鋭いことを言ってくる。
「もしかしてだけど、緊張してる?」
「は? そんなわけないじゃんか。あーし、これでもモテるんだから。デートとかもめっちゃ経験あるし」
半分で嘘で半分本当だ。
デートを重ねた数は多い。だが本命とのデートというのは今日が生まれて初めてだった。
「ね、誠、手ぇ繋いでいい?」
だから話を誤魔化すために無理やりそんなことを言う。
誠は「いいよ」と即答してきた。
だが、しかし絵麻は手を差し出さない。
「どうしたの?」
「ちょっと意地悪な質問していい?」
「いいけど、何?」
「もしなんだけど、誠はあーしの外見が年相応のものだったら、今とおんなじ答えを言ってた?」
言ってから絵麻は後悔する。
本当に意地悪な質問だからだ。
誠は少し考えた後、無言で首を横に振った。
「正直に言うと、外見補正はある。まだ付き合ってもない人と初デートでいきなり手繋ぎするのは心理的ハードルが高かったと思う」
誠は「けれど」と付け加えた。
「俺は、絵麻って見た目も含めて絵麻だってふうに思っているから。絵麻だからこそ手を繋ぐ。この答え方はズルいかな?」
そんな答えを聞いた絵麻は思わず胸を押さえた。
いや、ズルい……ズルすぎる。この男はなぜ、こうも簡単にクリティカルヒットを打ってくるのだろう?
「合格もらえた?」
「きゅ、及第点だしっ」
「厳しいなぁ」
「女心は複雑なの」
そう言うと絵麻は手を出した。
それを握った誠は手を握り返し、そのまま2人は駅近くにあるショッピングモールへと向かったのだった。




