第52話:緊急会議(陽菜視点)
小森陽菜は、いたって普通の少女だ。
年は今月で16才。
おかっぱ風の前下がりボブに地味な眼鏡、だぼだぼっとしたパーカーを着る、どこにでもいる女の子。強いて言うなら、ちょっとオタクっぽい、そんな雰囲気の少女である。
一方、彼女の前に座るのは、どう見ても〝普通の少女たち〟ではなかった。
陽菜から見て左に掛けるのは、生まれついての青髪に同色の猫耳をぴょこんと突き出した獣人種変異者の小柄な美少女、露木島小鈴。
そして右側に掛けるのは【変色魔法】を使って真っ赤に染め上げた髪をポニーテールに纏めている、ボンキュッボンな美少女、照谷朝香である。
場所は老若男女の集い場にして、庶民の味方サイゼリヤ。
そのテーブル席で3人の少女たちが重苦しい雰囲気で話をしていた。
「正直、どうすればいいかわからないッス……」
「わたしもです。まさか、お師様があんな簡単にあの偽子供の誘いに乗るなんて……」
椅子側に座る少女たちは、まるでこの世界の終焉でも聞かされたみたいに、ずーんと肩を落としている。
どう言ったものか、陽菜は迷った。
ていうか、そもそもどうして自分はこのような場所にいるのだろう?
(始まりはLINEだったんだよね)
陽菜はスマホを取り出し、眺めた。
そこには陽菜と2人の少女。
小鈴と朝香で結成されたガールズグループの会話が表示されている。
〝緊急事態発生ッス! 今すぐサイゼに来てくださいッス!〟
〝お金はわたしたちが出します。ですので、どうかお時間を〟
まあ、ただ飯を食えるのならば、どうせ暇だし問題ないかと陽菜は誘いに乗った。
するとテーブルには、このテンションの2人がすでに着席していたのである。
なんでも聞くところによれば、絵麻が抜け駆けをしたらしい。
見た目は子供、頭脳は大人な長命種変異者のその少女(?)は、なんと誠をデートに誘い、それが快諾されたらしい。
ひと月前のアーシオダンジョンの中でも、そんな約束は交わされていた。
確か、その時も誠は「いいよ」とその要求を飲んでいた。その様子は陽菜もカメラで見ていたから知っている。
だが、まさか本当にそれを実行に移すとは2人は思いもしなかったらしい。
「成人設定ズルいッス!」と、朝香は机をばんばん叩く。
「迷惑になるからやめなさい」と、実は一番年下の陽菜がそんな彼女をたしなめる。
「そうですよ、朝香さん。騒いでも仕方ありません。冷静に対策を練りましょう」
「そ、そうッスね。その通りッス。とりあえず飯を食らうッス」
そう言って朝香は、配膳ロボが運んできたディアボラ風チキンや、エスカルゴ、ほうれん草のソテーなどをむしゃむしゃがつがつ食べ始める。
一方、少食な小鈴は、熱々のミラノ風ドリアを小さな口でふーふーしながら猫耳をぴょこぴょこ動かし、食べていた。
あら、かわいい、と思った陽菜は思わず写真を1枚撮る。
「なぜ撮るのですか?」
「激カワだから」
「くぅ~、そうッスよね! そうッスよね! 小鈴ちゃんも絵麻も〝かわいい〟ッス! 誠さん、そういう子が好みなんスかねぇ~!」
そう言い、大きな双丘を無意識のうちにたゆんと揺らす朝香。
いや、おじさんは、むしろ大きい方が……と、フォローしかける陽菜だったが、叔父の名誉に関わることだ。おっぱい星人という不名誉なあだ名は内言にとどめることにした。
「で、いつ行くの?」
「明日ッス! 駅前の広場で待ち合わせるみたいッス!」
「駄目なの?」
「いいわけありません。パーティ内の恋愛は士気や連携に関わります」
「でも、おじさんに誘われたら行くでしょ、デート?」
「行くに決まってるじゃないですか」
「一行で矛盾しちゃったねぇ」
小鈴は「?」という顔をする。
めちゃくちゃなことを言っている自覚がないらしい。
「ウチも誠さんとデートしたいッス」
「ですです」
「んー、そっかぁ。まあ、ようするにジェラシーなわけね?」
「いや、そういうのじゃないスけど……」
朝香は頬を染めながら言った。
いや、完全にそういうのでしょ、と思わず陽菜はツッコみたくなる。
なのでもう、言ってやることにした。
「2人ともおじさんのどこがそんなに好きなの?」
瞬間、空気が凍り付いた。
小鈴はスプーンをからんと落とし、朝香は食べていたものを喉に詰まらせそうになる。
「むぐっ……げほっ! げほっ! ち、違うッス! 違うんスよ! これは師弟の絆であって、そういうやつではないっていうか……っ!」
「ええ、そうです。我々のは、あの偽子供の邪なものとは違い、もっとこう、ピュアなやつなのです」
「本当にぃ~?」
「本当です」
「じゃあ、もしわたしがおじさんとデートするって言いだしたら、2人ともどう思う?」
陽菜は目を細め、そう聞いた。
しかし2人は顔を見合わせて「?」という顔で見つめてくる。
「別に叔父さんと姪っ子が出かけるなんて、よくある話じゃないッスか?」
「うん、まあ、そうだね。たとえが悪かった。じゃあ、そうだな……黒沢さん。おじさんが黒沢さんとデートすることになったら、2人ともどう思う?」
聞くと、2人は言葉を失くしてしまった。
ダンジョン協会、特別調査部に所属するキャリアウーマンの黒沢は、見た目が子供な絵麻とは違い、心身ともに成熟した大人の女だ。年も恐らく誠に近い。もしこの2人が結ばれても眉をひそめる者はいないだろう。
ちょっとだけ、いじめすぎたかな? と、陽菜は2人を見て思う。しかし時には正直に言ってやった方がいい時もある。
「はたから見てて思うんだけど、絵麻さんて今、レースで強いよ。だって好意を隠してないもん。おじさんは見た目より中身を尊重する人だから、余計にね。このままだとおじさんを絵麻さんに取られちゃうかもよ」
「そ、それは……」
「ぶっちゃけさ、師弟関係に逃げてるでしょ? 多分、2人とも仲良しだから今の関係を壊したくないんだよね?」
2人は長く沈黙したあと、ほとんど同時に頷いた。
やっぱりねぇ~、と思った陽菜は、その場で軽く咳払いする。
「あくまでも、これはわたしの意見ね? 成人と未成年のカップルはさ、今の世間じゃ確実にまずい。コンプラ的にもアウトだよ。これは時代的に仕方ない。今はそういう世の中だからさ」
陽菜は「でもね」と言葉を切る。
「じゃあ子供だから大人を好きになるのが駄目かというと、それは別にいいんじゃないかなぁって思うんだよね。まあ、逆側はアウトだけど。だからさ、無理に繕って、隠さなくてもいいんじゃない? おじさんは良識ある人だから、もし、どちらかと結ばれても、それよりも先の行為をするのは大人になるまで待っててくれると思んだ」
「い、いいんスかね? 本当に?」
「この際なのでぶっちゃけます……わたし、お師様ガチラブです」
「こ、小鈴ちゃん!?」
「朝香さん。いい加減、隠すのやめましょう。あなたも同じ気持ちでしょう?」
小鈴が頬を染めながら聞くと、真っ赤になった朝香が小さく頷く。
そうだよねぇ~、と思った陽菜は、面白いので、ついでに朝香の写真も撮った。
「で、どうする気? 邪魔するの?」
「いや、流石にそれは……」
「では、尾行するのはどうでしょう? 不純な行為を行わないか、我々が監視するのです」
小鈴は2人を見て言った。
(あれ、もしかして、これ……わたしも入ってる?)
思った陽菜が逃げようとすると、まるで退路を断つかのごとく小鈴と朝香が立ちはだかった。




