第44話:魔王レプリカ第二形態
魔王ディアブロシア・レプリカの〝変身〟を、誠は距離を置き、見守った。
本家の魔王もそうだった。
人型の第一形態は、あくまでも仮の姿に過ぎない。それを倒した後に出る巨大なモンスター形態が彼女本来の姿なのだ。
本家魔王の変身は、硬い鱗と牙、爪を持つドラゴンだった。
だが今回は明らかに以前と違う。
人間の骨を思わせる不気味な柱に、人間の肉を思わせるぶにぶにとした赤い壁、玉座、カーペット、蒼炎を灯す松明までも、彼女はすべて飲み込んだ。ようするに玉座の間そのものと、そいつは融合したのである。
ディアブロシア・レプリカ第二形態。
それは上半身だけを上部に残し、20メートルを超える巨大な肉塊から、まるで植物の根のように無数の触手を生やした「異形」としか呼べないものだった。
変身プロセスが完了すると、魔王はすぐに襲って来た。肉塊から生える無数の触手が誠に迫って来たのである。
「させるかよっ!」
しかし誠はそう叫び、触手を斬ってはジャンプして、それらの攻撃を回避する。
だが攻撃はそれだけではない。
触手の先がくぱっと開き、闇属性のビーム攻撃が弾幕のように彼を追い詰めたのだ。
際避け、際避け、かすり避け!
もはや神業と言っていいほどの超人的な動体視力、何より運動神経で、誠は魔王の攻撃をすんでのところで回避する。
彼は避けながら隙を見て触手を切断していった。
しかしダンジョンそのものから力を吸収しているのか、斬った側からその触手はすぐに再生し始めてしまう。
このままでは埒が明かないな……
そう考えた誠は大ジャンプ。
肉塊の上部から生える太い触手の上に乗り、恐らく急所と思われるディアブロシア・レプリカの上半身まで一直線に走って行った。
「うおおおおおおおおおっ!」
途中、他の触手からの妨害をくらい、何度も振り落とされかけるが、誠はそれらを斬り落とし強引に上半身に接近した。
「食らえ、魔王っ!」
そう叫びながら、誠は再び相手の腹に魔剣、白金を突き立てた。
だが予想外の事態が起こる。
ディアブロシアの腹部にめり込んだそれは彼女を出血させなかった。どころか、ずぶりと音を立てながら女魔王の上半身は剣を〝吸収〟し始めたのである。
「ククク……ぬかったな勇者マコト。先ほど貴様、この剣を、我が本体の血を吸ったがために黒くなったとほざいたな。ならば返してもらおうか。この剣はもはや我のものだ」
魔王の言葉に呼応するように白金は腹部にどんどんめり込む。
引き抜くことはできなかった。
このままでは腕ごと持っていかれる!
そう考えた誠はついに柄から手を離す。
すると完全に白金は魔王の体内に取り込まれた。
「フハハハハ! 馴染む! 馴染むぞ、勇者よ! 我が本体の力を感じる! 敵に塩を送るとは愚かなり!」
直後、触手の1本が横薙ぎに誠を突き飛ばした。
彼は「ぐはぁ!」と叫びながら、ディアブロシアの上部から叩き落とされる。
この高さから落下すれば流石の誠も無事ではすまない。
そこで彼は〝非常用闘気〟を使用した。本来はダンジョン崩落の際に身を守るための技術である。
しかし、それでもダメージを完全に消すことはできなかった。
弾力のある闘気によって彼は地面をバウンドするが、そのたびに全身の骨が軋み、内臓を掻き回されるような感覚があった。
それでも休んでいられない。
ディアブロシアは健在であり、攻撃を続けてくるからだ。
自分の主力武器を取られた!
この世界では戦士職に分類される近接タイプの誠にとって、それは致命的なものだった。
「ランディ! 力を貸してくれっ!」
そこで誠はかつての仲間、戦士ランディの名を叫びながらストレージから新たな武器を出した。それは大きな戦斧だった――剛斧グランガルド――彼が仲間から受け継いだ大事な形見の1つである。
誠は戦斧を振り回した。
この斧は彼の白金と同じく、この世で最も硬い金属として知られるミスリルでできている。
とはいえ、それでも危機は危機。
白金を体内に取り込んだ魔王は明らかにパワーを上げていた。
先ほどとは比較できない速さで、より多くの触手が伸びて来る。
闇魔法のビームも健在だ。
誠はそれをかわしたり、グランガルドで受け止めたりした。彼は仲間に感謝する。もし、これが並の武器ならば強力なビーム攻撃を受け止めることはできなかったろう。
誠は戦斧を振り回し、襲い来る触手をなるだけたくさん切断しようと試みた。
だが、その行為は徒労に終わった。
斬っても斬っても、その側から触手はすごいスピードで元通りに再生してしまうのである。
ところが彼は、その中で一瞬、奇妙な光景を見た。
触手を切断し、それが治る瞬間、明らかに触手とは違う竜の翼や爪などが生え、傷口の中に呑まれていったのだ。
誠はそのことに違和感を覚えた。
なぜ、そんなものが生えるのか?
そもそも再生速度が異常だ。
これは、かつて仲間たちとともに討った本物の魔王のそれすら超えている。
だが、そんなことがありえるだろうか?
模造品にすぎないはずの目の前の敵が本家の能力を超えるなど……
その時、誠の頭の中に、ある考えが浮かんできた。
この魔王は白金を取り込んだことで自分が強化されたと思い込んでいる。
というか、実際そうである。触手の動きも再生速度も、剣を取り込む前に比べ格段に上昇しているからだ。
が、逆に言えば、そのことは、こいつの真核がこのダンジョンではなく、白金に移ったということではなかろうか?
そう考えると、勝機はあった。
誠は戦斧をストレージにしまうと、そこから、あるものを取り出した。
それは剣でも斧でもない。
というか、もはや武器ですらない。
「アリオス、お前の力を借りるっ! お前の力が必要だっ!」
そう言って彼が取り出したのは、白銀と淡い金を基調にした、神官が使う〝錫杖〟だった。




