第43話:分断されし戦場②
小鈴、朝香、絵麻の3人は、突如、現れたモンスター、ドラゴベロスに大苦戦を強いられていた。
無理もない。
レベルが違う。
本来ならばこのモンスターは、協会公認のSランカー、あるいはそれに相当する実力を持った誠のような人間が相手するような敵だからだ。
「ちくしょう! あーしの矢、通らないしっ!」
闘気矢を連射する絵麻は、相手のあまりの硬さに絶望し、思わずそう叫んだ。
このモンスターは分厚い鱗による強固な防御力に加え、さらに闘気で身体を強化している。
ゆえに絵麻の放つ闘気矢は、鱗と闘気という二段階の防壁にはばまれ、全く意味をなさなかった。
それでは魔法を撃てばいいか?
そう簡単な話ではない。
小鈴はすでに詠唱込みの超位魔法を放っていた。
が、彼女の渾身の一撃は障壁によってガードされたのだった。そう、この敵は闘気に加え、強固な魔力耐性まで有していた。
唯一、攻撃が通るのは朝香の斬撃のみだった。
ドラゴベロスの中央の首が素早い噛み付き攻撃を行って来る。
すんでのところで、それをかわした朝香は、その首を斬り落とさんと意気込んで全力で剣を振り下ろした。
「おりゃああああああああああああッス!」
師である誠に教わった効率のよい闘気の乗せ方。それを実践し、ものにした彼女の一閃は確かに敵にダメージを与える。
が、それは、ほんの少しのものだ。
鱗に少し切れ込みを入れる程度。
それが彼女の限界だった。
その上、さらに厄介なことに、この敵は自動再生能力まで持っていた。つまりダメージを与える手段が実質的に皆無なのだ。
この世界にはゲームのような明確なレベルシステムはない。
それでも、敢えてたとえるならば、レベル70を超す敵にレベル30ぐらいの3人が挑もうとしているイメージだろうか?
正直言って、詰みである。
しかし唯一、救いだったのは、このモンスターが有する知能がそれほど高くないことだった。
絵麻の放つ矢も小鈴の魔法もダメージは通らない。ゆえに賢いモンスターならば、そんな攻撃は一切無視して、1人1人を確実に始末してきただろう。
だが、たとえそれが効かずとも、攻撃を受けたという実感は、どうもあるらしい。
このモンスターの3つの首は、それぞれ自我を持っていた。ゆえに3方向から攻撃することでヘイトを分散させて、攪乱することが可能だったのだ。
しかし、どうやらしびれを切らして、奥の手を使う気になったらしい。ドラゴベロスは口を開け、何かを吐き出そうとする仕草をする。
間違いない!
魔法のブレスの兆候だ!
「皆さん、わたしの後ろに隠れて! わたしが攻撃をガードします!」
小鈴は2人に呼び掛けた。
絵麻と朝香は彼女の言う通り、彼女の下へと突っ走る。
「【魔法反射】!」
そうして小鈴はそう叫ぶ。
果たして、それは師匠直伝の渾身の防御魔法であった。
◆◆◆
異世界ペルボリアスの魔法使いには、師をひとり選び、弟子入りし、その魔法を極める文化があった。
それには、こちらの世界でいう「流派」のようなものが存在する。
たとえば炎属性の魔法使いを師に選んだなら炎魔法だけを徹底して学び、地属性の師を選んだならば地魔法だけを極めるという具合だ。
ゆえに人間の魔法使いは、基礎的な魔法を除き、1つの属性の魔法のみを習得するという構図があった。
しかし現代ダンジョンにおける魔法職はそうではない。
得意不得意はもちろんある。
しかし多様な状況に即座に対応できるよう、彼らは多様な属性の魔法を学び、広く浅くそれを身に付けるのである。
だから、そう……
誠の放ったその魔法は魔王の意図せぬものだった。
【三指三色超指玉】
それは片手の3本の指から炎、氷、雷属性の魔法を同時に射出する技だ。
寿命の長い魔族ならともかく、それは異世界ペルボリアスの人間が放つ技としてはありえないようなものだった。
そんな魔法をまともに食らった魔王ディアブロシアは、一瞬であるが隙を見せた。
致命傷では、もちろんない。
だが熟練の剣士にとって、コンマ1秒にも満たないような隙は非常に大きな意味を持つ。
事実、怯んだ魔王の腹に誠は剣を突き刺した。
魔王は「がはっ!」と吐血する。
それを乱暴に誠は引き抜く。
もしも相手が人間ならば勝負は決まっていただろう。
だがディアブロシアは魔族であった。
彼女はよろけ、後退するが、決して膝を突くことはない。
「ククク……勇者よ、流石だな。模写態とはいえ、この我にこんな一撃入れるとは」
女魔王は笑みを浮かべて言った。
誠は素早く距離を取る。
一見、すればこの状況は千載一遇のチャンスのはずだ。何しろ敵の腹には大穴が開き、今にも死にそうなのだから……
誠が後退した理由。
それは相手の今の容貌があくまでも仮の姿であり、人型ではない第二形態があることを知っていたからだった。
「早く来い。本気を見せろ」
「フッ、そう急くな勇者マコト。言われなくても見せてやろう。しかし忠告しておくぞ。この模写態の変身は本家の我とは一味違う、と」
ディアブロシアは、ほくそ笑む。
こうして誠の目の前で魔王の〝変身〟が始まった。




