第41話:門の先にて待ちたるもの
誠の行った儀式により「門」の前には巨大な縮地点が出現した。
いよいよ、最終決戦だ。
小鈴、朝香、絵麻の3人は、それぞれの腕に停止させたドローンを抱え込む。
そうして、もう片方の手を繋ぎながら、誠一行はいっせいに縮地点へ足を踏み入れた。
直後、一瞬の浮遊感――世界がぐるりと反転し、別の地点へと飛ばされる。
そうして4人が着地したのは、異界としか呼べない場所だった。
見上げるほどの高い天井。
等間隔に並ぶのは、まるで人骨を削って作ったかのような不気味な色合いの柱。そこには蒼炎を灯した松明が薄闇を照らすように配置されていた。
そう、それは……道だった。
気の遠くなりそうなほど長い道には豪奢な赤いカーペットが敷かれている。最果てにある巨大な扉は、しかし、あまりに遠いため豆粒ほどの大きさに見えた。
誠以外の3人は、ぽかん、と口を開けている。
しかし誠は驚き、目を見開いた。
彼はごくりと唾を飲んだ後、独りごちるようにこう言った。
「魔王城だ……」
すると3人が彼を見る。
「魔王城って、あの魔王城ッスか?」
「ああ、そうだよ。かつて魔王ディアブロシアと戦った場所にそっくりだ」
「それでは、相手は魔王ですか?」
「いや、そんなはずはないと思う。ディアブロシアは確かに俺がこの手で討ったはずだから」
「ま、どっちみち、進むしかなくない? ここまで来たら引き返せないし」
「ああ、そうだね。その通りだ。怖気付いても仕方ない」
誠がそんなふうに答えると、一行は慎重に赤い道を進んで行った。
途中、モンスターは出なかった。
あくまで、この道は前座であり、真の敵はあの扉の奥に鎮座しているということだろうか?
10分、あるいは15分以上、一行はその道を進んで行った。
そうして、ついに扉を開けると、その奥には、祭壇のように高くまつり上げられた玉座がどんと置いてある。
そこに掛けている者を見て、誠は言葉を失った。
「お、女?」
と、朝香が呟く。
そう、そこにいたのは若い〝女〟であった。
ただし人間とは違う。
魔族特有の青白い肌に、長く伸ばされた蒼い髪。
頭には、まるで山羊のような立派な角が生えている。
胸元、腰、肩、脚部に金色の縁取りのある装甲があり、露出の多いその格好は、創作などでおなじみの、いわゆるビキニアーマーのようにも見えた。
「〝……魔王ディアブロシア、どうしてお前がここにいる?〟」
誠は異世界語で言った。
「〝そう急かすでない、資格ある者よ。我は、たった今目覚めたばかりなのだからな〟」
すると同じく魔王の方も異世界語で、そんな軽口を返してくる。
「〝さて、しかし……お前がここに来たということは、我の本体は死んだということか〟」
「〝本体だと? つまり、お前は本物の魔王じゃないのか?〟」
「〝然り。我は本体の呪力が生み出した分身、いわば記憶の残滓に過ぎぬ。勇者どもの帰還が始まった際、我はその門を利用して、この城の主となったのだ〟」
それを聞き、誠は納得する。
確か黒沢の話によれば、異世界帰還者たちが目を覚まし始めたのは、その話を聞いた時点で半年ほど前とされていた。このダンジョンに異変が起きたのも、その時期だ。
つまり彼女の言うことは、恐らく事実なのだろう。
「〝勇者よ。名前を名乗るがいい〟」
「〝マコト・フジマスだ〟」
「〝ふむ、そうか。念のために聞くが勇者マコト、我を討ったのは貴様で間違いないな?〟」
「〝ああ、そうだ。けれど、俺だけじゃない。ランディ、シルヴィア、アリオス、レヴィン……みんなでお前を討ったんだ。魔王ディアブロシア、率直に聞く。お前の目的は一体なんだ? なぜ、なんのために、勇者しか入れない仕掛けを作り、俺たちを中に引き入れたんだ?〟」
「〝ふむ、そうだな……強いていうならば、意趣返し。復讐だな。我を討った者がのうのうと故郷で平和に暮らすのは許しがたいと思ったからだ。しかし意外にも、ここにいる我はお前のことを憎くは思わぬ。むしろ、どのように討ったのか聞きたいぐらいだ〟」
彼女は「〝しかし〟」と付け加えた。
「〝我と貴様の語らいに、そこにいる小娘たちは邪魔だ。とりあえず、消えてもらおうか〟」
そう言い、魔王は指パッチン。
すると、今まで横にいたはずの3人がドローンもろとも消えてしまう。
「〝――っ!? 魔王! みんなをどこへやった!?〟」
「〝案ずるな。殺してはおらぬ。だが戯れに別の場所で我のペットの相手をさせようと思うてな〟」
言うと、魔王は立ち上がる。
背中を覆っていた漆黒のマントを彼女はばさりと脱ぎ捨てて、
「〝さて、邪魔者も消えたことだ。かの日の続きをしようではないか。我を討ったのが本当に貴様か、この目で確かめさせてもらうぞ〟」
魔王は自身のストレージから、黒い魔剣を取り出した。
同時に誠も本気モードとなる。
彼は魔剣に闘気を送り、白磁の剣を漆黒の剣、カオスモードへと変化させる。
「〝ククク、勇者よ。奇しくも我が剣と同じ色だな〟」
「〝どこかの誰かさんのおかげでね。元々、聖剣だったのに本体の血を吸って魔剣になっちゃったんだよ〟」
「〝ほう、面白い。では、その剣には我の怨念がこもっているのか〟」
「〝御託はいいから、さっさとやるぞ〟」
「〝フッ、面白い。では、かかってこい。我を倒したその剣で、再び我を討ってみよ〟」
そう言うと魔王ディアブロシアは、祭壇のような玉座から、髪をなびかせ飛び降りた。




