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第40話:ムートゥーランの勇者

 むかしむかし、あるところに、ムートゥーランという村がありました。


 その村の近くの山には、巨人が住んでいました。それは邪悪な巨人でした。巨人はときどき村に降りてきては、たくさん悪さをしたのです。


 ある時、ひとりの村娘が巨人にさらわれてしまいました。そんな時、ひとりの若者が村に立ち寄ります。


 村人は彼に頼みました。

 どうか巨人をこらしめて、さらわれた娘を取り返してほしい、と。


 旅人は「わかった」と言いました。

 彼は、とても強い剣士だったのです。


 旅人が巨人の住処へ行くと、巨人はすぐに襲ってきました。しかし旅人は全くひるまず、巨人を返り討ちにしまいます。


 すると巨人は武器を捨て、こうべを垂れてこう言いました。


「|どうか、命だけは助けてください《イクイ・ドロシュ・オドフクロンク》。さらった娘は返します」


 すると旅人は剣を置き、自分の胸に手を当てました。


「今の言葉にいつわりはないな? これからは、二度と悪さをしないと誓えるか?」


 巨人は胸に手を当てこう言いました。


「この心臓にかけて誓います。もう二度と悪さはいたしません」


 そう言うと巨人は住処の門を開けました。

 そこには金銀財宝と、さらわれた村娘がいました。


 財宝を手に入れた旅人は村に戻り、その村娘をめとりました。


 こうして2人は末永く、村で幸せに暮らしたのでした。






 これは異世界における「桃太郎」のような、定番のおとぎ話である。


 題名はムートゥーランの勇者。


 かつて誠が勇者だった時、彼は立ち寄った村々でこの話を聞いていた。


 というのも、彼の仲間の魔法使いシルヴィアは子供が好きだったので、行く先々で子供たちにこの話を聞かせてやったのだ。


 だから、そう……


 異世界《ペルボリアス》の言語がわかる誠には、門番《ゲートキーパー》が何を言ったのかがわかった

  

『|どうか、命だけは助けてください《イクイ・ドロシュ・オドフクロンク》』


 これは件《くだん》の童話のセリフと、一字一句同じセリフであった。


 その時、誠は確信した。


 門番《ゲートキーパー》は門を守っているのではない。むしろ、こいつの存在こそが門を開けるための鍵なのだ、と。


 誠は朝香を下がらせた。

 そして白金《シロガネ》を地面に突き刺し、無防備なままゴーレムに近寄る。


 もしも普通のモンスターならば、こんなチャンスは逃さない。近付いて来た誠に反撃し、殺そうとしたはずである。


 だが門番《ゲートキーパー》は、そうしなかった。そいつは膝を突き、うなだれたまま彼が接近するのを許す。


 誠は胸に手を当てると、異世界の言葉でこう言った。


「〝今の言葉にいつわりはないな? これからは、二度と悪さをしないと誓えるか?〟」


 すると、そいつはコアに手を当てて、同じく異世界語でこう言った。


『〝この心臓にかけて誓います。もう二度と悪さはいたしません〟』


 果たして、誠がやったのは童話を再現することだった。もし、これがそれをモチーフとした仕掛けであれば〝巨人〟は「門」を開けるはずだ。


 しばらく待つと「門」の前に、直径7~8メートルはある魔法陣、青白く光る縮地点《ポータル》が出現した。


 ビンゴである。


 扉にはこんな文言が記されていた。

〝資格なき者はここを去れ。これより先に進める者は選ばれし勇者のみなり〟と。


 誠は、なんとなく生体認証のようなシステムで「門」が異世界帰還者を自動的に認識し、開くものだと考えていた。


 しかし実際は、そうではない。

 資格とは、つまり知識のことだ。


 ようするに、これは実際に異世界に滞在し、文化に強く触れた者だけが開けることのできる仕掛けだったのだ。


 役目を終えた門番《ゲートキーパー》は、もう、これ以上の意義がないためかコアに手を当てた状態で活動を停止した。


 誠は、そいつから離れると、少し遠くで事態を見守っていた3人の下へ近付いた。


「今のはなんだったんッスか?」


「〝勇者〟にしかできない謎解きだよ」


「何が起きたのかはわかりませんが、やはり今回も流石です、お師様」


 朝香と小鈴は尊敬の目で誠の顔を見つめてくる。彼はぽりぽりと頬を掻きながら「そうでもないさ」と呟いた。


「さて、ポータルが出たのを見ると〝勇者〟ではない君たちも中に入ることができそうだけど……どうするかい? このダンジョンの難易度から見て、相当強いラスボスが出現すると思うけど」


「今さら何を言ってんスか。ウチらは一蓮托生ッスよ」


「その通り。お師様が行く道ならば、たとえ地獄でも付いて行きます」


 2人の弟子は興奮ぎみに、ふんす、と鼻を鳴らして言った。


 次に誠は絵麻を見る。

 彼女の本来の役割は誠をここまで連れて来ることだ。それ以上のことは任されていない。


 けれど、一応聞いてみた。

 この後、どうするつもりか、と。


「残業代とか出るのかな? もし出るのなら行ってもいいけど」


「多分、出ないんじゃないかなあ? ただ働きはしないでいいよ」


「いや、冗談に決まってんじゃん。別に給料出なくても、マコトの行くところなら付いてくし」


「無理に行こうとしなくていいよ?」


「むしろ止められても、あーし行く。マコトが好きだからとか関係なしに、純粋にこの先に何があるのかがめっちゃ気になるもん」


 絵麻は「ただし」と付け加えた。


「帰ったら、マジでデートして。場所はマコトに任すから」


「オーケー、わかった。水族館でも、博物館でも、レストランでも、公園でも、好きなところに連れてってあげるよ」


「そんじゃあ、契約成立ね。約束、破ったら承知しないから」


 誠はこくりと頷いた。


 かくして「トゥルートーマス」は、絵麻を含めたフルメンバーで最後の敵に挑むことになったのだった。

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