↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/75

第35話:救出劇(絵麻視点)

「あ、あんた……なんで、ここに?」


 絵麻は大きく目を見開いた。

 突如、現れたその男は、つい今さっき自分が見捨てた、おじさん勇者――藤増誠だったのだ。


 次いで彼の後ろから現れたのは彼の2人の弟子、小鈴と朝香であった。

 3人はそれぞれの武器を構え、洞窟に入り込んでくる。


「待って、駄目っ!」


 だが絵麻は3人を止めた。

 なぜなら、この後の展開を彼女は知っていたからだ。


 彼らが洞窟に侵入すると、侵入者の存在を探知したその主が奥からぬっと顔を出す。


 ギガンチュラ――その変異種である。


 通常の種とは明らかに異なる赤みがかった体色のそれは、全長およそ5メートル。体高だけでも2メートルはあった。


 なお悪いことにそいつは子蜘蛛と呼ばれる眷属たちを引き連れていた。

 子といいつつも、そいつらの全長は大体30センチぐらいある。それらが無数に湧いていた。虫が苦手な人からすれば、まさしく地獄絵図である。


「俺は親蜘蛛を相手する! 朝香と小鈴は子蜘蛛を頼む!」


 師である誠の指示を受け「はい!」「ウッス!」と答える2人。

 彼女たちは剣で子蜘蛛を斬り裂き、火炎魔法でそいつらを焼いた。


 その隙に誠はボスである変異ギガンチュラと対峙した。


 絵麻は、この男がSランカーに匹敵するほどの実力を持つ〝勇者〟なことは知っていた。だが、たった1本の剣で挑むには流石に相手が悪すぎる。


 恐らくひと噛みするだけでも、それは致命傷になりかねない。だがキバよりも強力な武器をこのギガンチュラは持っていた。


 変異ギガンチュラは、まるで蠍の尾のように腹部を前へと折り曲げる。

 どうやら糸を出す気らしい。

 対する誠は剣を構え攻撃に備えようとする。


「駄目、トーマスっ! そいつの糸は……っ!」


 言い終える前に蜘蛛は糸を吐き出した。 

 誠はそれを反射的に白い剣で斬り、防ごうとする。


 しかし判断ミスだった。

 粘着性のその糸は彼の剣を持ってしても斬ることができず、たやすく絡み取られてしまう。


「なるほど、物理は厳しいか」


 そう言うと彼はあっさり剣を手放して、代わりに両手を前に向ける。


「【煉獄葬送炎熱波ヘルハルマゲドンプロミネンス】! 【絶対零度大寒波エターナルフォースブリザード】!」


 そして魔法名を宣言する。


 無詠唱による超位魔法の連打。

 並のモンスターならば一瞬で消し飛ぶ巨大な火球と氷弾が同時に敵へと放たれる。


 地を揺らすほどの大爆発。

 相反する属性の魔法の同時発動によって、水蒸気のヴェールがもくもくと辺りに漂う。


「やったか?」

 

 と、誠は言った。


 それ今言ったらいけないヤツ! と心の中で絵麻は叫ぶ。


 案の定とでもいうべきか、水蒸気の霧が晴れた時、そこには無傷で鎮座するギガンチュラの姿があった。


(あの魔法でも死なないの!?)


 変異種のあまりのタフネスに絵麻は驚きを隠せない。

 しかし誠は平然としていた。


「魔法耐性? ……いや、違うな。一瞬、魔力マナの発露があった。恐らく生物由来の魔法だ。そして、この糸も魔力マナが混じってる。となると、あいつの弱点は……」


 彼はぶつぶつと内言を口にする。


 どう考えても危機的状況なのに、いっそ怖いと思えるぐらいその男は冷静沈着だった。


 剣は糸により無効化された。

 どういう原理か知らないが魔法も無力化されるらしい。


 そして、また弓も効かないだろう。

 現に毒矢は効かなかった。昨日自分が殺されかけた爆弾矢ボムアローとかいうものも、原理的には魔法の一種だ。つまり、またあれを乱射したところで防がれるのが落ちだった。


 すると誠の表情が変わる。

 いつもの冴えない雰囲気は消え失せ、覚悟を決めた顔になる。


「シルヴィ、借りるぞ……お前の形見」


 そう言うと彼はストレージに手を入れ、中から何かを引っ張り出した。

 それは1冊の魔導書グリモワだった。


 掌よりひと回り大きいそれは、古びた革表紙で綴じられている。光を吸い込むような漆黒の装丁には、銀色の細い線で複雑な紋様が刻まれていた。


 見たところ魔法職メイジが使う類のアイテムだ。しかし魔法の効かない相手に、そんなものがなんの役に立つというのか?


 再び変異ギガンチュラが腹部を逸らせ、糸の攻撃を仕掛けようとする。


「【神聖魔導結界ホーリマジックサンクチュアリ】!」


 と誠は魔法名を叫んだ。

 そうすると彼を覆うように、ドーム状の結界が展開される。


 間一髪、糸の攻撃は誠に当たらず、結界によって防がれる。

 だがギガンチュラは糸を放出し続けた。

 結果、セメントで固めたみたいに、結界は糸に覆われて彼は身動きが取れなくなった。


 そう、ギガンチュラの放った糸は、最初は粘性を帯びているが時間が経つと固まるのだ。


 終わった……と、絵麻は思う。


 あれでは二度と脱出できない。

 子蜘蛛の数も増えている。

 戦っている少女たちも、いずれギガンチュラの餌食となって生け捕りにされてしまうだろう。


 なぜ、自分なんか助けにきたのか……


 絵麻の胸は後悔で満たされる。





 ――そんな時だった。





 ビキッ、ビキッ、と音がする。


 最初はなんの音かと思った。

 けれど、どうやらその音は、誠を囲む結界の固まった糸から出ているらしい。


 そしてバリィィィィィンと音がした。

 誠を捕らえていた糸が内側から爆ぜ、バラバラに崩れ落ちたのだ。


 そんなはずは!? と絵麻は思う。


 一度、固まったギガンチュラの糸はダイヤモンドをも凌ぐ硬度を持つとされている。たとえ金属で叩いても壊すことはほぼ不可能なのだ。


 それを一体、どうやって中から割ったというのだろう?


「よし、できた。生体魔力の解析、完了。いやぁ、本当に危なかったなぁ。シルヴィの本がなかったら、もしかして、ここで詰んでたかも」


 何気ない誠の一言に絵麻は耳を疑った。


 生体魔力の解析とは、文字通りモンスターが持つ固有の魔力マナのパターンを調べ、それを対策するための魔法を作る作業のことだ。


 普通ならこれは数カ月、あるいは年単位の時間を要する。

 それを誠は1分ほどで、いとも簡単に成し遂げたのだ。


 もしギガンチュラに感情と呼べるようなものがあったとするなら、相当、焦ったに違いない。事実そいつは畏怖したように、巨体を数歩、後ずらせる。


 そして再び、糸を吐き出した。

 普通ならこれでどんな獲物でも確実に捕えられるはずなのだ。


「ごめんね、無駄だよ。もう解析は済んだから」


 言うと誠は手をかざす。


 すると、なんということだろう。

 彼に向けられた糸は粘度をなくし、ビニールが水を弾くかのごとく彼の体を避けていった。


 彼は糸により固まった剣を無造作に掴み、闘気オーラを注ぐ。するとバリンと音がして、固まった糸が破壊された。


「バリアの魔法は別系統か……ああ、もう解析めんどくさい。シルヴィ、ごめん。ありがとう。今日は本当に助かった」


 そう言うと彼は大切そうに、仲間の形見と言っていた黒い魔導書グリモワをストレージにしまう。


 恐らく本能的にだろう。

 変異ギガンチュラは目の前の相手が格上であると悟ったらしかった。


 そいつは8本ある足でカサカサと奥へ後ずさる。

 だが洞窟の限られたスペースに、その巨体を隠せる場所などあるはずもなく……


 誠はこきこきと肩を鳴らし、腰を落とす。


 瞬間、彼はその場から消えた。


 否、消えたのかと錯覚するほど目にも止まらぬスピードでギガンチュラに肉薄したのである。


「武技〝亜空切断アクウセツダン〟!」


 誠は剣を振り下ろした。


 直後、剣から放たれた不可視の衝撃波が敵の体を貫通し、ぽかんと口を開けたまま動けないでいる絵麻の前で、ギガンチュラはまるでまきのように一刀両断されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。