↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
34/78

第34話:長命種変異者の闇

「針の道」を選んだ誠一行は、複雑に曲がりくねった順路を進みながら、時々出て来るトレントマンやサーヴェイジウルフといった敵をことごとく排除していった。


 剣士として成熟している誠はもちろんであるが、この1カ月、みっちり稽古を付けて強くなった朝香の活躍も見逃せない。また植物系のモンスターは炎魔法に弱いという特性を利用して、小鈴もかなりの活躍をみせた。


 と、ふいにフィィィンとドローンが降りてきて、そこから陽菜の声がする。


『やばいよ、おじさん。黒沢さん、また土下座してる。〝ガイドに須垣を選んだのは失敗でした〟って、何度も何度も謝ってくる。あ、あとドローンを1機だけ絵麻ちゃんの方に向かわせたって』


「気にしてないって伝えておいて」


「ふん、いい気味ですよ。そのまま解雇されればいいのです」


 すると不機嫌な子猫のように小鈴が口を挟んでくる。

 誠は少し悩んだ後、ふいに足を止め、こう聞いた。


「なあ、小鈴。ちょっと踏み込んだこと聞いていい?」


「なんでしょう?」


「絵麻のこと。小鈴があの子を毛嫌いするのは、同じ魔素変異者だからっていうのある? いわゆる同族嫌悪的な」


 すると小鈴はしばらく黙った。

 彼女は猫耳をぴくぴくと揺らし、髪の毛をいじりながらこう答える。


「そんなことはない……と、言いたいところですが、そうですね。正直あると思います」


「それって、たとえばどんなとこ?」


「見た目の幼さを使って、お師様をあざむこうとしたことなどです。魔素変異は奇形の一種ではありますが、これは障害じゃありません。それを利用して優位に立とうとしたことに、わたしは腹を立てたのです」


 小鈴は内心を暴露した。


 誠のことを殺そうとした。

 それに対する怒りもあるが、ファーストコンタクトの段階で、彼女は絵麻に対しよくない印象を抱いていたようだ。


「認めることは癪ですが、気持ちはわかってしまうんですよ。特にわたしや彼女のように見た目が大きく変化する者は、悪意があろうとなかろうと、常に偏見の目にさらされます。なので、その……なぜ、あんなふうにひねくれたのかも、察しが付くといいますか」


「なるほどね。じゃあ、こうしよう。今、俺に対し言ったこと。素直に絵麻に言ってみようよ。どうしても合わない人はいる。〝だから何?〟って言われるかもしれない。でも本心を隠したまま、いがみ合うのもきついだろ?」


 誠がやさしい口調で言うと、小鈴はこくりと頷いた。


 と、ドローンが降りて来る。

 またしても陽菜の声がした。


『なんかドローンが絵麻ちゃんを見つけられないっぽいんだよね。何かトラブルがあったのかも』


 それを聞いた誠はくるりと向きを変え、順路を逆走し始める。


「誠さん、まさか……」


「うん、戻ろう。虫の知らせっていうのかな? それこそ、本当に勘なんだけど、よくないことが起きてる気がする」


 誠は剣を握りしめ2人の少女にそう言った。


   ◆◆◆


 気を失った絵麻が目覚めると、そこは洞窟の中だった。


 彼女は体を起こそうとした。

 しかし全く動けない。


(やられたか……)


 絵麻は「くそっ」と悪態をつく。

 彼女の体は顔だけを残し、ほぼ全身が硬質な糸に覆われていた。顔の部分が無事なのは、窒息しないようにして鮮度を保っておくためか。


 恐らく、ここは〝貯蔵庫〟だ。


 ギガンチュラは捕らえた獲物を生かしたままにし、それを自身や、自身の子供のために巣に保管する習性がある。


 しくじった、と絵麻は思う。

 まさか毒耐性を持つ変異種が存在するなんて……


 物音1つない薄闇の中で、絵麻はただ独り、糸に縛られていた。


 ただ、それは……

 今に始まったことではない。 

 彼女はこれまでの人生でも、ずうっと孤独だったのだ。


 絵麻が魔素変異を発症したのは今から15年前、彼女が5才の時だった。


 葉っぱのように尖った耳という外見的な変化はもちろんあるが、長命種型変異者《エルフチェンジャー》の一番の特徴は、肉体的な成長速度が周りよりも遅くなるということだった。


 これには2つのタイプがある。

 精神が肉体に引っ張られ見た目通り育つタイプと、肉体のみの成長が遅れ精神は年相応に育つタイプだ。


 幸か不幸かはわからない。

 だが絵麻は後者のタイプだった。


 つまり肉体は子供のままなのに、精神だけがそれを追い抜かし成熟していってしまったのである。


 絵麻にとって、それは地獄だった。

 青春という概念は彼女にはなかったと言ってもいい。


 思春期になると当然、恋もした。

 だが7~8才の見た目の子供を恋人に選ぶ者はいなかった。彼女が恋した相手の隣には、年相応の発育をした女子が常に座っていたのである。

 

 人は、子供に見える相手を勝手に守るべきものだと決めてしまう。子供扱いするなと言っても、この見た目では小さな子供が背伸びしているようにしか見えない。


 けれども時々、例外的に絵麻によくしてくれる人もいた。だが、そういった人間のほとんどは、いわゆる小児性愛者《ロリコンども》だった。


 彼らは絵麻の外見だけを見て、中身を見ようとしなかった。


 子供の殻の中に閉じ込められた大人。

 その生きづらさは当事者にしか理解しがたいものだろう。


 だが、ある程度の年齢になると、逆にこんなことを思うようになった。

 周りが子供扱いするなら、いっそのことそれを利用してしまおう、と。


 開き直ると劇的に絵麻の人生は楽になった。


 本当の自分を知ってもらおうだなんて、そんなことは考えなくてもいい。思わず守ってあげたくなるようなか弱い子供を演じれば、欲しいものはなんでも手に入った。


 だが物質的に満たされても、心がそうなることはなかった。

 そこには虚無が残ったのだ。

 自分が本当に欲しかったものは、何をどうしても手に入らなかった。


 で、その末路がこれである。


 ある意味、因果応報と言えた。

 さんざん人を弄び、利用した者の最期としては、ある意味、妥当な結末だ。


 絵麻はけらけらと笑い出した。


 かわいそうな長命種変異者《エルフチェンジャー》ではなく〝須垣絵麻〟として見てほしい。そんなシンプルな願いを叶えることもなく、こんなところで終わった自分が、あまりに滑稽だったから。


 だが、その目からは涙がこぼれた。

 嘘泣きではない本当の涙。

 それがぽろぽろと目からあふれ出し、つうっと頬を伝ったのだ。


 助けてほしい。


 ああ、誰か、誰でもいい……

 わたしをここから出してほしい……


 叶わぬ願いであることは、もちろん絵麻にもわかっていた。

 でも土壇場で本音が漏れた。

 本当はずっと昔から誰かに助けてほしかったのだ。


 このまま自分は生きたまま蜘蛛に食べられてしまうのだろうか?





「武技〝神速抜刀《シンソクバットウ》〟」





 しかし、その時、声がした。

 鋭い剣の一閃が、糸により閉鎖された洞窟に一筋の光をもたらした。


「あ、あんた……なんで、ここに?」


 絵麻は大きく目を見開いた。

 突如、現れたその男は、つい今さっき自分が見捨てた、〝勇者〟のおじさんだったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。