第31話:褐色偽ロリメスガキエルフ
「ま、誠さん、容赦ないッスね……」
目の前に広がる光景を見て、やや引きぎみに朝香は言った。
「当然です。お師様を傷付けようとするような輩に対しては、これでも足りないぐらいです」
一方、むすっとした顔で、今回出番のなかった小鈴は答える。
3人の前に広がる森林……というか〝森林だったもの〟は、今や炎と煙に包まれた焦土と化していた。
そう誠は、持っていた爆弾矢をあるだけ連射したのである。
これだけ入念に破壊の限りを尽くせば、どこに隠れていようが相手は出て来るだろう。もっとも今の爆発で死んでいなければの話だが……
一行はしばらく焦土を眺めていた。
と、メラメラと燃え盛る木々の隙間から、明らかに人間と思われる影が、ふらりと這い出て来る。そいつは危機から脱すると、その場にバタンと倒れてしまった。
あいつだな、と誠は思った。
3人はそれぞれ頷き合うと、その影へ向けて小走りに駆け寄る。
そいつは全身をすっぽりと覆うフード付きのマントを被っていた。
思ったよりもかなり小さい。
その正体は小男だろうか?
誠がローブを脱がせるよう言うと、朝香がそれに従った。
すると全身があらわになる。
その顔を見た一同は、同時にはっと息を飲んだ。
「こ、これは……っ」
誠は驚く。
子供である。
謎めいた射手の正体は10~11才ぐらいの年齢に見える小さな女の子だったのだ。
それも普通の少女ではない。
その肌の色は朝香のような日に焼けた小麦色のそれではなく、生まれついてのものに見える浅黒い褐色肌だった。ツインテールに結われた髪はまるで鮮やかな銀色をしている。
ただ、それだけなら外国人だと誠は思ったかもしれない。
だが彼らの目を引いたのは、特徴的なその耳だ。それは尖った葉っぱのように細長く横に突き出ていたのである。
奇しくもそれはレヴィンと同じエルフ族の特徴だった。
小鈴が、その子のほっぺたをちっちゃな手のひらでぺちぺち叩くと、気を失っていた少女は目を覚ます。
「えっ……あっ、あっ!」
彼女は誠の顔を見て、あからさまに怯えた顔をした。
後退ろうとする少女の腕を横から朝香が、がしっと掴み、逃げられないよう確保する。
「駄目ッスよ~、おちびちゃん。なぜ誠さんを殺そうとしたのか、今すぐ理由を話すッス」
「ご、ごめんなさいっ!」
「謝るんじゃなく理由を話すッス」
朝香は少女の細腕をぎりぎり締め付け、目を吊り上げてそう言った。
「で、でもっ、だってっ! そうしろって! え、えらい人に言われたから……っ!」
少女の瞳に涙が溜まる。
流石の朝香も焦ったのか「ちょ、な、泣くのは反則ッスよ!」と、思わずその手を離してしまう。
一方、小鈴は表情を変えず、動じた様子がまるでない。
どころか彼女の胸倉を掴むと、もう片方の手を振り上げて、
「白々しい演技はやめなさい。この偽子供」
そのまま、ペシーン、とビンタした。
「ちょ、小鈴!?」と誠は焦る。
子供に対する仕打ちとしてはひどすぎるように思ったからだ。
「見た目に騙されてはいけません。彼女はわたしと同じ魔素変異者です。見たところ、これは長命種変異者ですね。このタイプの変異者は常人よりも体の成長スピードがゆっくりになります。この見た目から察するに、彼女は我々2人よりはるかに年上のはずですよ」
小鈴が無常に言い切ると、それまでべそをかいていた少女は態度を豹変させた。
彼女はペッと唾を吐き、懐から何かを取り出してみせる。
誠は最初ペンだと思った。
だが、違う。
彼女はそれを口に咥え、甘い香りの蒸気を吐き出した。
「ちっ、バレてたのかよ、つまんねぇな」
長命種変異者は低い声で言う。
恐らく、あれは水煙草だろう。成人にしか吸えないはずのそれを、あろうことか彼女は吸っていた。
(うわぁ、絵的にやばすぎる……っ!)
だが堂々とした様子を見ると、どうやら彼女は年齢的にはすでに成人済みらしい。
見た目は子供、頭脳は大人。
そんなギャップに誠は混乱する。
だが尋問はしなくてはならない。
「どうして俺を殺そうとしたんだ?」
「あんた、黒沢からなんも聞いてないの?」
「黒沢さん? ってことは協会が関係してるのか?」
聞くと「そうだよ」と少女(?)は答える。
誠を攻撃した理由については、彼女は自分がこの森の〝番人〟の1人だからだと打ち明けた。
「ここって危険なダンジョンだからさ、毎年死者とかめちゃくちゃ出るわけ。だから実力の伴わない低ランクの探索者はなるべく排除したいんだけど、この国の法律じゃ便宜上〝探索者免許を持つ者は、いかなるランクでも国内全てのダンジョンに入れる〟ってことになってるわけよ。だから、あーしらが適度に痛めつけて、行ける人らを選別するの。あーしらに勝てないような探索者じゃ、この先へ進むのは無理だかんね」
それを聞き、誠は、なるほど、と思った。
陽菜から聞いたことがある。
確か、昔の法律ではダンジョンにランク制限を設けることは違法ではなかったという。だが高難易度のダンジョンに挑むためにランクをお金で買うといった不正が横行したため、そのような法ができたらしい。
「でも明らかに殺意あったッスよね?」
「殺すつもりでやれって黒沢に言われてたかんね。あーしは命令に従っただけ」
悪びれもせずに彼女は言った。
するとドローンの一機がフィィィンと降りてきて、そこから陽菜の声がする。
『あのさ、おじさん。黒沢さんがおじさんに謝りたいってさ』
「なんて言ってる?」
『初歩的な伝達ミスだって。〝相手は伝説の勇者だから、あなたも死ぬ気でいどんでください〟って言ったのが、殺される=自分から殺しにいくって意味に拡大解釈されたみたい。黒沢さん今、土下座してる』
それを聞いた少女(?)は誤魔化すみたいに口笛吹き、誠たちから目を逸らす。
逆に、ここまで清々しいと怒る気力も失せてしまう。
「名前を聞いてなかったね。俺の名前は……」
「知ってる知ってる。フジマスマコト。世間じゃトーマスって呼ばれてる人ね」
「君の名は?」
「あーしは絵麻、須垣絵麻。よろしくの握手でも一応しとく?」
絵麻は、ぷはぁー、と煙を吐き出し、右手を誠に差し出してきた。
一体、どういう意味だろう?
誠が考えあぐねていると「ああ、そっかぁ」と彼女は言う。
「あんたら、黒沢からなんにも聞かされてなかったんだっけ。じゃあ、言うわ。あーし、あいつからこう言われてんの。もしも、あーしの試練をクリアしたら、あんたらに同行するようにって」
誠は、ぽかんと絵麻を見た。
すると彼女はクスクス笑い、シーシャの煙を吸引する。
「そんなわけだから、よろしくね。トーマスおじさん。あーし、パーティに入るから」
唐突な絵麻の告白に、誠は言葉を失った。
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