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第30話:死角からの刺客②

闘気矢オーラアロー


 それは読んで字のごとく、闘気オーラ纏わせ、放たれた矢のことである。


 闘気オーラで全身を強化した熟練の戦士職ウォリアーのタフネスはすさまじく、半端な重火器程度なら跳ね返してしまうとさえ言われている。


 ところが闘気矢オーラアローは別だ。

 それは戦士職ウォリアー闘気オーラを相殺し、無防備になった人肌に直接ダメージを与えてくるのだ。


 だが、これはかなりの難易度を誇る技術である。


 たとえば通常の戦士職ウォリアーのように、自身の体や手に持つ武器を闘気オーラで強化することは比較的容易であるとされている。だが自分の手を離れたものに闘気オーラを纏わせ、飛ばすのは、並大抵の技ではない。


 弓矢を主な武器とする野伏職レンジャーの数が、同じく遠距離攻撃を行う魔法職メイジに比べて圧倒的に少ないのは、そもそも適正のある者が限られるからといわれている。


 そんな高等な攻撃を仕掛けて来る敵の正体は一体なんだ?


 誠は剣を構えながら考える。


 武気持ちのフォレストゴブリンだろうか?


 ……いや、違う。奴らは森林に適応しただけの知能の低いゴブリンだ。


 では、その亜種のゴブリンアーチャーか?


 いや、これも違う。奴らが扱うエンチャントアローは、矢に魔力マナの加護を乗せるという別系統のものである。


「お師様、どうしますか?」


「とりあえず、小鈴は身を伏せて、ここで待機……行けるか、朝香?」


「任せてくださいッス!」


「効率は今は度外視でいいから、いつもより厚めに闘気オーラを纏え。俺は右、朝香は左から周り込め。挟み撃ちにしてあぶり出すぞ」


 誠は2人にそう指示を出した。

 彼と朝香は二手に分かれ、草木を掻き分けながら、矢が飛んで来た方向へと走る。


 だがしかし、敵は見つからなかった。

 隠密系のスキルでも使っているのか【魔力探知マナサーチ】にも引っかからない。


 直後、闘気オーラの気配がした。


 こっちに来る!


 そう直感した彼は、急所狙いだと当たりをつけて剣で胸元をガードする。


 キィィィィィィィィンという音が鳴り響いた。


 ビンゴである。矢を剣によってガードした彼は、闘気オーラの発生源に向け全速力でダッシュした。


 だが、すでに敵の姿はない。

 遅れて朝香がやって来る。


「そっちはどうだ?」


「全然、駄目ッス。姿が全く見えなかったッス」


「恐らく敵は木の上だ。斜め上から矢が飛んで来る」


 誠は木々を指差し、そう言う。

 その後も敵からの攻撃は続いた。


 誠に向けた闘気矢オーラアローは一定周期でやって来た。彼はそれらの攻撃を超人的な反射神経でパリィしたり、すんでのところで避けたりした。


 そのたびに矢が飛んで来た方向に誠と朝香は向かったが、敵は一か所に留まらなかった。


 いわゆるジリ貧状態だ。このまま攻撃を受け続けていれば、いつかガードは失敗する。矢の先端に毒でも塗られていれば、たとえ急所を外れたとしても、それは致命傷になりかねない。


 だが1つ気付いたことがある。


 それは敵からの攻撃が完全に誠を標的にしているということだった。


 彼はなぜかと考える。


 有力な説があるとすれば、このパーティのリーダーが自分であると察したからだろうか?


(いや、違う。もし仮にそれに気付いたとしても、弱い方から普通は狙う)


 それでも自分を狙ってくるのは、何か意図のようなものがあるように思われた。

 そう考えると、こんな結論に至る。


 ……人間だ。恐らく、これは人間の仕業だ。


 どこの誰がどんな目的で、自分を狙うのかはわからない。しかし相手に明確な殺意がある以上、手加減することはできなかった。


 どの道、このままでは埒が明かない。


 アレを使うか……そう、誠は思った。


 すると、遠くで闘気オーラの気配。

 誠は白金シロガネを盾にして、その攻撃をガードした。


 そのまま彼は白い剣を地面にぶすりと突き立てる。彼は空中にストレージを発生させると、そこから、あるものを取り出した。


 弓である。


 黒ずんだ古木を削り出して作られたような、一張りの長弓だった。


 その弓身は不自然なほど複雑に捻じれ、節くれ立った木肌の隙間には、夜空の光を閉じ込めたような青白い金属が埋め込まれている。握りの周囲には、何度も巻き直されたのであろう使い古しの革が残っていた。


「レヴィン、お前の形見……今ここで使わせてもらうぞ」


 そう、それは……

 かつて誠とともに旅をした勇者パーティの射手、レヴィン・アーカムのものだった。


 同時に彼は矢筒を取り出していた。

 彼は朝香を大声で呼ぶと、矢筒から出した矢を弓につがえ、きりきりとそれを引き絞る。


「誠さん、なんスか、その弓は?」


「昔の仲間の形見だよ」


「誠さん、弓も撃てるんスか? で、でも、相手がどこにいるかわからないのに、そんなもの使っても……」


 朝香の言うことはもっともだった。


 相手の位置は曖昧にしかわからない。

 そもそも誠は射手ではない。


 それなのに、これを出したのは、この弓と矢が普通のものではないからだった。


 レヴィンの弓――星弓アステリオス――は、ゴブリンアーチャーが使うものと同系統のエンチャント型の弓である。世界樹の枝を切り出して作られたそれには、エンチャントする際に使用者の魔力マナを増幅させる効果があった。


 そして矢は、先端が丸い布に覆われた、これまた特別製のもの。


 その通称は〝爆弾矢ボムアロー〟。

 使用者の魔力マナに呼応して、文字通り爆発を引き起こす特別な矢だ。


 魔力マナを高める長弓と、魔力マナに反応して爆発する矢。

 この2つを組み合わせるとどうなるか?


「耳、塞いどいた方がいいかも、朝香。今からちょっと……暴れるから」


 そう言いながら誠は爆弾矢ボムアローを、おおまかに敵がいるだろう場所に向けてピュンと撃つ。


 直後、耳をつんざく轟音とともに大爆発が巻き起こった。

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