第29話:死角からの刺客①
2人の見事な連携により、トレントマンは倒された。
朝香の剣撃や陽動も功を奏したが、決め手となったのは小鈴の得意とする炎魔法である。植物系のモンスターに対し、炎は効果が抜群なのだ。
その後もマンイーターや、サヴェージウルフ、フェレストゴブリンといった、森林エリア特有の敵が、進もうとする一行のゆく手をはばんだ。
これは流石に危ないな、と思った時だけ誠は少し手を貸しただけで、ほとんど2人は自分たちだけで現れる敵に対処していった。
そのたび称賛コメントが溢れる。
空中画面に現れる文字を誠は得意げな顔で見守った。
〝2人ともすげぇ!〟
〝トーマスのせいで目立たないだけで、この子たちも相当レベル高いぞ!〟
〝信じられるか? つい、ひと月前までこの子たち、コニュードの表層にいたんだぜ?〟
〝一体どんな修行をしたんだ、トーマス!? めちゃくちゃ気になる!〟
〝トーマス頼む! 俺にも修行をつけてくれ! お願いします! なんでもしますから!(迫真)〟
etc……
コメント欄は荒ぶっていた。
しかし、もちろん魔力交換のことを素直に明かすわけにはいかない。
それは単純に誠の社会的地位を守るためでももちろんあるが、そのことよりも重要なのが、この修行法がこの世界では、まだあまり認知されていないということだった。
というのも、もし強い人と身体接触をすればパワーアップが可能だなんてことが世に知れ渡ったら、それを悪用し、みだらな目的で使用する者が山ほど出るに違いない。
そこで頭のいい陽菜は適当なことを言って誤魔化してくれた。
『んとね~、おじさんの修行は厳しいよ~? 死にそうになるまで訓練して、死にかけたら回復してまた修行の繰り返し。並大抵の覚悟じゃできない。だから、みんなには無理だと思うよ~』
ナイスアシスト、と誠は思った。
〝何それ、サイヤ人の修行じゃんwww〟
〝トーマス、スパルタすぎワロタ〟
〝変異種ゴブリン3体を1人で倒せる奴にしばかれるとか、悪夢でしかないわ〟
〝よう耐えたなぁ、2人とも……〟
少女たちの頑張りに感化されたのか、いわゆる投げ銭が飛んで来た。中には一際高額な赤スパなんてのも飛んで来る。
それを見た誠は、ちょっと複雑な気持ちになった。
多分2人がいなくてもコニュード脱出配信は、ある程度伸びたろうとは思う。
ただし、あれほどのバズを見せたのは、2人の美少女を守りながら深層を出るというヒロイックな要素があったからだ。
つまり2人がいなければ、ほんのちょっとだけ伸びた配信で終わっていた可能性も考えられなくないのである。
それなのに今の取り分でいいのか? 誠はつねづね考える。
実は取り分に関しては、見直さないかと提案をしたこともあった。
だが返ったのは、こんな答え。
「お師様、何をおっしゃるのですか? こんなにみっちり稽古していただいて、魔力交換までしていただいて。その上、配信の分け前までいただけるなんて、あまりに贅沢すぎますよ」
「そうッスよ! ていうか、今の取り分でもむしろ多いくらいと思うッス!」
とまあ、こういう具合に弟子たち2人はとても謙虚であった。
やっぱり次は俺が奢ろう。
なんならサイゼではなく、もっと本格的なイタリアンとかに誘ってあげてもいいかもしれない。
なんていうことを考えながら誠は前進してゆく。
隊列は前衛に朝香、後衛に小鈴、そして中間に誠というコニュードと同じフォーメーションだ。
しばらくの間、歩き続けると、出入口から遠くなるにつれモンスターが強くなってくる。特にトレントマンが多い。1時間ほど歩いた頃には、一般ダンジョン表層のゴブリンのように頻繁に出て来るようになっていた。
流石に朝香の負担が大きい。
そう判断した誠は彼女の隣に並び、モンスターたちをワンパンしていく。
すると、それを見た視聴者たちは、さらなる盛り上がりを見せた。
〝やっぱトーマスおぢTUEEEEEE!〟
〝これやこれ! これが見たかったんや!〟
〝トレントマンとかマンイーターを一撃で倒すとか、こいつ実質Sランクだよな〟
〝そりゃそうだ。でなきゃ特級案件なんて来ない〟
〝ていうか他の2人もAランクぐらいの実力ありそうじゃね?〟
〝ぶっちゃけ、俺もそう思う。特に小鈴ちゃん。この実力でCランクとか協会はこの子を舐めすぎだ〟
コメント欄には様々な意見が現れては、上に流れて消えていく。
確かに2人のランクについては、正直、今の実力ならば見直すべきだと誠は思う。
この探索が終わったら黒沢に相談しよう。ランクアップには様々な条件が複雑に絡み合うと聞いているが、ダンジョン協会のお墨付きがあれば、多少、融通は効くだろう。
そう思っているとドローンの一機がフィィィンと下に降りて来る。
そしてチカチカと点滅した。
接触通信の合図である。
――どうした、陽菜ちゃん?
誠はドローンに触れながら、姪っ子に向けて念話を飛ばした。
――あー、えっとね。今、黒沢さんに言われたんだけど、配信はここで、いったんストップしろって。
――え、マジで? 結構、盛り上がってきてたのになぁ。
――まあ協会が言うんだから仕方ないよ。あとの収益は切り抜きで稼ごう。
陽菜からの告白を聞いた誠は、まあ、仕方ないか、と考えた。
彼が手を離すとドローンは再び頭上に浮上する。
けれど妙だな、と誠は思った。
行く手にあるのは、さっきからずっと変わらない踏み固められた一本道で、特にこれといった変化は見られない。
果たして、協会は何を隠したくて配信停止命令を出したのだろうか?
そんな時、誠ははっとした。
唐突に足を止めた彼に2人はきょとんと首を傾げる。
「どうしたんスか、誠さん?」
「……2人とも伏せて」
「なぜですか?」
「いいから、早く!」
強い口調で誠が言うと、事情を飲み込めていない2人は、しかし命令に従った。
誠は白金を構えた。
そして、きたるべき攻撃に備える。
(――ッ! 右かっ!)
彼はそちら側に剣を振るった。
すると、キィィィィィン、と音がして何かが叩き落とされる。
それは1本の矢であった。
【闘気弓矢】
飛び道具に闘気を乗せるという高等技術を持つ何者かが、突如、誠たち一行に攻撃を仕掛けてきたのである。




