第3話:叔父と姪
「なるほどねえ。それで、いきなりC級ライセンスを手に入れちゃった、と」
「すごいのか?」
「普通、ありえない。正式な学校に通った公認ラインセンス持ちでも、最初はFランクからスタートするもん」
「でもC級ってなんか、弱そうじゃないか? B級グルメとか、B級映画とか、よく言うけど、それよりも低い等級だろ?」
「それはおじさんがネガティブなだけ。本当にすごいことだからね」
「そうなのか?」
「そうだって」
「ふーん」
「喜ばないの?」
「いや、だってさ、別にあの試験、俺がすごかったわけじゃなく、俺が持つミスリルの剣が強っただけだろ?」
場所は小森邸。
つまり陽菜の家だ。
脱ぎ捨て垂れた服などで足の踏み場もないほど散らかった部屋で、叔父と姪、誠と陽菜は真剣に話し合っていた。
適当にその辺に座ってよ、と、ベッドの上への着席を促された誠であったが、当時1才だったといえ、今は立派な女子高生に育った姪の部屋で自由にするのは、流石にちょっと抵抗があった。
男と見られていないのか?
それとも単に身内ゆえの距離の近さだろうか?
なんていうことを思う誠であったが、果たして、陽菜はそういうことを全く気にしてないようだった。
結果、立ったまま話をしている誠。
少しは部屋を片付けなさいと叔父として叱ってやるべきなのだろうか?
「でもさ、おじさん。あの剣は、その異世界ってとこでおじさんが手に入れた剣なんでしょ?」
「そりゃ、まあな。わけあって、とあるドワーフ職人に鍛えてもらったんだ」
「じゃあ、おじさんの実力の内じゃん?」
「いや、まあ多少の剣技の腕は普通の人よりあるとは思うよ。ただアダマンントを断ち切れのは、俺ではなくて材質のおかげだ。もし、あの剣をみんなに配れば誰だって傷は付けられる」
「わたしはそうは思わないけどな」
「いや、違う。俺は、少しもすごくない」
誠はあくまで謙遜した。
試験に合格できたのは剣の性能のおかげだ、と。
果たして、そこまで頑な誠に陽菜は違和感を覚えているようだった。
普通だったら「俺強ぇぇぇ」とか、もっと調子に乗るものなのではないか、と。
「ねえ、おじさん、もしかしてだけど。向こうの世界で色々あった?」
「……それ聞いちゃうか?」
「そりゃそうでしょ。ここまで来たら、おじさんの過去とかわたしもある程度、知りたいよ」
自身の掛けるモニターの前で眼鏡を掛けた姪を前に、誠は困った顔をした。
だが隠しても仕方ない。
彼は自分の〝黒歴史〟を素直に彼女に打ち明け始める。
「若い頃、十代の頃だな。本当に転移しかけの頃。俺は自分が世界から〝選ばれた〟存在なんだ。誰よりも〝特別〟な存在なんだって、ずいぶん浮かれてた気になってた」
誠は「でもな」と付け加えた。
その顔には哀愁がにじんでいた。
「そんなことは全然、なかったんだ。すごかったのは、俺の仲間たちだよ。最終的に彼らの犠牲のおかげで魔王を倒すことができた。つまり、ただ運がよかったんだ。俺が本当に強ければ、彼らが命を失うことなく世界は平和になってたはずだ」
陽菜はちらりと誠を見てから、視線をモニターに戻した。
彼女が何を思ったのかはわからない。
仲間の死という重い告白に返す言葉がなかったのかもしれない。
でも手に職を付けなきゃな。
父さんも母さんももういないんだ。
誠は心中は自分に言い聞かせた。
両親の死を知らされたのは、意識が目覚めたしばらく経ってからのことだった。
悲しくなかったかといえば嘘になる。
でも驚きはしなかった。
2人ともすでに転移の時点で重い持病を抱えていたし、異世界にいた頃から両親とは、なんとなく今生の別れになるなと予感めいたものがあったのだ。
ただ誠には心配なことが1つだけあった。
聞くところによれば陽菜はライセンスを取得していない、ダンジョンのズブの初心者らしい。戦闘力はあるはずない。言い方は悪いが「お荷物」なのだ。
そんな相手を守りながら、配信なんていう高度なことを自分がこなすことはできるのだろうか?
なんていうことを考えた矢先、誠は「はいこれ」と何かを渡される。
それは異世界の水晶玉に4枚のプロペラが取り付けられたような、いわゆる「ドローンカメラ」であった。
「わたしは、これで家からおじさんと通信する。でもって、おじさんの活躍をいい感じに切り抜いて配信する。これでおけ?」
「おっけーも何も、陽菜ちゃんは現場にいないってこと」
「そりゃそうでしょ。だって、わたしライセンス持ってないもん。そもそもダンジョンに入れないよ」
誠はほっと息をついた。
それなら話は別である。
異世界には外部との通信なんていう進んだテクノロジーは全くなかった。
だが、この世界にはそれがある。
専用の通信端末を使い、外部と連絡を取り合うことは、この世界では常識なのだ。
誠は、つくづく自分の常識が15年前で止まっているな、と感じた。
しかし今度は陽菜の方が誠に申し訳なさそうな顔をする番だった。
何かと思って顔を覗き込むと、彼女は「あのさ……」と口にする。
「おじさん、やっぱこの企画、迷惑だって思ってる?」
「いや、そんなことは全くないよ」
「本当に?」
「本当だよ。むしろ、無職の俺に何かしらの仕事をくれてありがたいとすら思ってる」
誠は正直に打ち明けた。
すると曇っていた陽菜の顔が、目に見えたように明るくなる。
「じゃ、本当に配信するよ? プライバシー捨てる覚悟はある?」
「案ずるな。そんな便利な言葉、そもそも向こうの世界じゃなかった」
誠はサムズアップした。
「ほんとだね!」
「本当だよ」
冗談めかして拳を前に出すと、その意味を理解した陽菜は立ち上がり、自らのそれをコツンとぶつけた。




