第2話:探索者試験
果たして、それから1週間後、誠は晴れて退院となった。
その後、姪との約束通り、現代ダンジョンなるものに挑むべく、その試験へと向かったわけだが……
内心、誠は焦っていた。
自分は勇者のひとりである。
魔王を倒した経験がある。
なんていうふうに見栄を切ったはいいものの、実際、彼は他の仲間たちの中ではかなり凡庸な能力をしていた。
確かに彼は、昏睡中、異世界ペルボリアスに行っていた。魔王討伐に参加した。
これらは紛れのない事実である。
が、実を言うと、若干話を盛っていた。
というのも、勇者パーティ内における誠の役割というものは、半ば荷物持ちのようなものに近く、魔王にとどめを刺せたのだって、仲間のサポート、そして〝犠牲〟があって、おいしいところを持っていけたにすぎない。
簡単にいえば、誠はこの世界における自分の強さがいまいちわからなかったのである。
もしかすると、この世界のダンジョンは、異世界のそれに比べると格段に難易度が高いかもしれない。そんな自分に果たしてダンジョン探索者が、引いては、それの配信者なんていう立場が務まるだろうか? 彼は不安でならなかった。
で、でも、できるって言っちゃったし……
姪っ子にかっこいいところ見せたいし……
そんなこんなで誠は内心、怯えまくりながら探索者試験に挑んだのだった。
試験会場は誠たちが棲む夜使市にあるコニュードダンジョンに併設されている。
ダンジョンの前に立てられた公民館のような建物の中に入ると、なんだか、いかにも高慢そうなぽっこりお腹の中高年男性が誠を出迎えた。
そこで、まず誠はパイプ椅子に座らされた。
その隣にも同じくスーツの姿のおじさんたちがいた。
なんだか面接みたいだなあ、と、誠は思う。
「あー、ええと、お名前は、藤増誠さん? 年齢31、最終学籍は中卒。現在は無職と?」
「は、はい、そうです……」
ぽっこりお腹のおじさんはフンと鼻を鳴らしながら誠の履歴書を淡々と読み上げ始める。
なんだか、言われて思ったけれど、割とさんざんな経歴だ。
実を言うと彼、これまでの職業欄に異世界で勇者をやっていたことを書こうか迷ったのだが、姪っ子に「頭おかしいと思われるからやめときなよ」と言われ、思いとどまった経緯がある。
そこで素直に、この15年間、昏睡状態にあったことを彼は履歴書に書いたのだった。
男性は老眼鏡をクイッと上げる。
威圧的ともとれるその仕草に誠の緊張は高まった。
「失礼ですがね、藤増さん。あんた、なんらかのライセンスはお持ちですかい?」
「ら、ライセンス?」
「探索者養成校、探索者養成塾、そういった場所で交付される国家資格のこと。きょうび、それぐらい常識でしょうよ」
「い、いえ、ありません」
「じゃあ、全くの素人なの?」
「いえ、そういうわけでは。まあ、でも、現世ではそうなります」
誠はせめてもの抵抗として、異世界での実戦経験があることを言葉の中ににじませた。まあ、そんなことをしても伝わるはずがないのだが、なんとなくプライドの問題だった。
「一応、探索者資格というものはですね、義務教育を終えた国民であれば誰でも平等に取得チャンスがあります。ただね藤増さん。この経歴を見る限り、無茶と言う他ありませんよ」
「ど、どんなことをするんですか?」
「ま、形式的な面談と、あとは実務のテストだね。あそこに鎧が見えるでしょ? どんな手段を使ってもいい。あれを少しでも傷付けられたら合格」
中高年の男性は顎で隣を差した。
そこにはマネキンに備え付けられた金属製の鎧があった。
そして、その周りには剣やら斧やらハンマーやら、色々な武器が転がっている。
ぽっこりお腹のおじさんは、端から期待していないような態度で「じゃ、やってみて」と投げやりに言った。口に出すことはしないものの、どうやら他の面々も皆、同じことを思っているらしい。
誠は鎧に近付いた。
そして表面をぺたぺたと触る。
……間違いない。
この質感、アダマントだ。
誠が転移していた異世界でもっとも硬いとされている金属の1つだった。
一方、周りの剣やら斧やらは、皆、凡庸な素材。つまりは鉄でできている。
これは、いじわるな試験だと思った。
よほどの達人でもない限り、ここにある武器で、この鎧に傷を付けることは到底不可能なのである。
もしかすると他の勇者なら、あえて、ここにある武器だけという縛りを設けて鎧の突破に挑んだかもしれない。
しかし誠は「平凡な勇者」だ。
彼はそれよりももっと確実な方法で試験に挑むことにした。
「……ストレージ」
そう言うと、、誠は次元の裂け目の中から専用の武器を取り出してみせる。
異世界で手に入れた彼の装備、愛剣の〝白金〟だ。
まるで白磁のような質感のその剣は、アダマントと並び称される金属「ミスリル」でできている。
このアダマントがどれほどの純度かはわからない。
とはいえ並の硬さでは、熟練のドワーフ鍛冶屋に鍛えてもらった、この専用の剣に太刀打ちすることはできないだろう。
ミスリルの剣を初めて見たのか、スーツのおじさんたちは困惑している。
「なんだね、あれは?」
「どうせ玩具だろう」
「真面目に試験を受ける気があるんだろうか?」
おじさんたちは口々にそんなことを言う。
が、しかし、誠は決して迷わなかった。
鎧に少しでも傷を付ける。
そんな目標で腰を落とた彼は剣を振り上げて、
――シャキィィィィィィィィィィィィン
カミソリのように振り下ろした。
試験会場に硬質な金属の音が響き渡る。
遅れて、ガシャンと鈍い音がシートの敷かれた床に轟いた。
果たして、それは崩壊音。
誠の刃の一閃により、文字通りマネキンごと一刀両断されたアダマントの鎧が床を叩いた音である。
「…………あ」
と、誠は冷や汗を掻く。
どうやら鎧のアダマントは純度がそれほど高くなかったらしい。
鎧に少しの傷を付ける。
それが今回試験の趣旨のはずだ。
が、彼は力加減を間違えて、決して安くはないであろう試験用の防具を真一文字に両断してしまったのである。
うわ、どうしよう!
やばい、怒られる!
誠はそんな心配をした。
下手をすると弁償と言われるかもしれない。それだけは勘弁願いたい。
「ご、ごめんない! 俺、昔から、こういうのの加減が苦手で……」
すると、バタンと音がした。
ぽっこりお腹の中高年が、腰を抜かしてパイプ椅子から地面に転げ落ちた音だった。
流石に大げさだと思う。
たかだかアダマントの鎧を壊した程度でこんなリアクションを取るなんて……
言葉を失うおじさんたちを誠は気まずい表情で見回した。
「あの、ごめんなさい……俺、なんか変なことやっちゃいました?」
思わず、そんなセリフが出る。
そのまま棒立ちになっていると「ば、化け物だ……」と誰かが言った。




