第23話:ダンジョン協会①
(どうしてこうなった? どうしてこうなった? どうしてこうなった?)
広々とした事務所の中で、誠はひとり頭を抱えていた。
彼と3人の少女たちは、今、とあるビルの中にいる。
豪奢なソファに豪奢なテーブル。
テーブルの上にはお茶とお菓子。
緊張でガチガチに固まっている誠とは対称的に、隣に座る少女たちは、そんな様子を微塵もみせず呑気にお菓子を食べていた。
今からおよそ30分前。
たった、それまではファミレスで、ダンジョン生還祝いを兼ねた打ち上げを行っていたはずである。
にもかかわらず、突如、現れた黒服たち――そのリーダーたる黒沢によって、誠は車に乗せられて、この場所に連れてこられたのだ。
ちなみに誠だけでなく、少女たちまでここにいる理由。
それは咄嗟に機転を利かせた小鈴が、黒沢の前に立ちはだかったからだった。
「お師様……いえ、誠さんを、一体どうするつもりですか?」
「残念ながら一般の方に詳細を語ることはできません」
「一般の方って……ウチら、誠さんのパーティメンバーッスよ?」
「それでもです。残念ながら、我々が用があるのは、ここにいる藤増さんだけなのです」
黒沢が言うと、サングラスを掛けたスーツ集団が誠を取り囲み、彼を椅子から立たせようとした。
すると果敢にも小鈴は黒沢に接近。
周りに聞こえるか聞こえないかの絶妙な音量で、彼女はこんなことを言った。
「推測します。異世界、転移、勇者、魔王、帰還……あなた方が誠さんを連れていこうとする理由、それはそのような語に関係があるのでは?」
黒沢は返事をしなかった。
代わりにサングラス越しの目で誠の顔をじっと見る。
「藤増さん。あなた、彼女たちに全て話したのですか?」
「ええ、まあ、はい。無理に隠す必要もないと思ったので」
「そうですか。それでは仕方ありません。ここにいる4人全員ともども、我々にご同行願えますか?」
などという、やりとりが交わされた末、この事務所へと連れてこられたのだ。
「な、なんだろう、怒られるのかな? 俺、またなんかやっちゃった?」
「どうだろうね?」と陽菜が言う。
なるようにしかならないでしょ、と彼女は楽観的だった。
するとコンコンとノックの後に、サングラスを外した黒沢が部屋に入って来る。
「お待たせしました。失礼します」
そう言いながら黒沢は誠たちの前のソファに座る。
体型にきちんとフィットしたビジネススーツをピシッときめている彼女は、いかにも仕事ができそうなキャリアウーマンといった感じの風貌だ。
年は誠よりやや下程度、20代後半ぐらいだろう。
顔立ちも決して悪くない。
大人の女性が好きな誠としては、正直、かなりタイプだった。こんな状況でなかったら鼻の下を伸ばしていたかもしれない。
「書類にサインをお願いします。重要な話をしますので」
そう言い、全員に配られたのは数枚の誓約書であった。
その内容を要約すると。大体こんな感じである。
――ここでの話を外へは漏らすな。
――話をしたこと自体、口にするな。
――もしも規約を破ったら法的措置を取るからな。
かなり物騒な書類であった。
だがサインしないわけにもいかないので、皆、それぞれの名前を書く。
書類を回収し終えると、黒沢はさっそく話を始めた。
「無駄話しても仕方がないので、単刀直入にお聞きします。藤増さん、あなたは異世界に〝勇者〟として召喚された人間ですね? そして、そのことを他の3人も知っている。この認識で間違いありませんか?」
「ええ、そうです。でも、なんでそれがわかったんですか?」
「配信アーカイブを見たからです。Sランカーに匹敵するほどの、あなたの異常なまでの強さ。そして何よりも異世界ペルボリアスの文字をすらすらと読めたこと、これが決め手となりました」
その発言に誠は驚いた。
ペルボリアスという世界のことを協会が知っていることに驚きを隠せなかったのだ。
と、彼の疑問に答えるように、黒沢が話の続きをする。
「我々はすでに数人の異世界帰還者を保護しています。それもあり、ペルボリアス文字の解読はほとんど終わっているのです。ですので、あなたの日本語訳が正しいことはただちに証明されました。協会が把握していない民間人で、あれを読める者がいるはずありません」
「えっと、つまり、こういうことですか? 協会は転移者の存在を知っている。でも、そのことは世間に秘密にしている。だから余計なことは言うな。勇者だったことは今後も隠せ、と?」
「有体に言えば、そういうことです。ただ、それだけであなたを呼んだわけではありません。異世界から帰還した勇者、その中でもあなたにしかできない仕事があるのです」
言うと、黒沢は端末を取り出し、空中画面を展開した。
そこには何やら採石場らしき画像が映し出されている。
「アーシオダンジョン。使われなくなった廃鉱山に突如現れたダンジョンです」
「うわ、マジか」
「え?」
「やばいよ、ここは。コニュードダンジョンとは比較にならない」
そう言ったのは陽菜である。
誠は「?」という顔をした。
「おじさん、アーシオダンジョンには〝人喰いダンジョン〟ってあだ名があるんだ」
「何か凶悪な罠とかがあるってこと?」
「それもあるかもけど、純粋に出てくるモンスターがかなり強い。この国でも屈指の難易度を誇るダンジョンなの。で、死ぬ人があまりに多いから、こう呼ばれるようになったわけ」
陽菜は苦々しげに言う。
ソファの両サイドを見渡すと、小鈴と朝香も同様に強張った顔をしているのが見えた。




