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第22話:生還打ち上げ、サイゼにて

 さて、その後……


 ダンジョン帰還者トーマスこと藤増誠の日常は、ガラリと変わることとなった。


 コニュードダンジョンの崩落は多くの人が注目していた事件で、初の帰還を果たした誠はメディアやSNSなどで、一躍、時の人となった。


 特に誠がデバッグ用のパスキーを見つけた功績は大きく評価された。

 ラスボスをスキップできるようになったため、後に結成された救助隊が多くの人を帰還させる足掛かりとなったのだ。


 幸い、小鈴と朝香が属していたパーティのメンバーも無事に生還することができたらしい。


 ただ2人とも、救助後に話し合ったあとパーティを辞めて、誠とパーティを組むことになった。


 少女たち曰く「お師様は運命の人なので」「誠さんに一生付いていくッス!」とのこと。断る理由もなかったため、誠はそれを受け入れた。ソロの探索も悪くはないが、仲間がいた方がやっぱり楽しい。


 世論は誠の功績を讃え、彼をS級の探索者《シーカー》に任命すべきという意見が多く出た。だが、この等級に上がるためにはダンジョン協会が厳格に定める社会貢献の積み重ねが前提となるため、その判断は下されなかった。


 ただ配信のアーカイブから、どう見ても彼が尋常でない実力を持つことは明らかとなっていたため、彼は実質的な最強等級であるAランクへの昇格を果たした。


 ダンジョン脱出から数日の間は、様々なメディアが誠の下へと訪れてんやわんやの毎日だった。


 ようやく、それが落ち着いてきた頃、陽菜は誠にこう言った。「せっかくだから、2人を呼んで打ち上げパーティしようよ」と。


 さて、そんなわけで会場に選ばれたのは、本格的な〝なんちゃってイタリア料理〟を楽しめるお店――サイゼリヤである。


 料金は陽菜が払うという。

 誠としては年長者として、むしろ奢《おご》りたい気持ちがあったが「いいよ、おじさん。お金ないでしょ?」と見事に図星を突かれてしまった。


 それに今回の打ち上げは、前線で戦った3人を陽菜がねぎらうという趣旨のものであるらしい。そういうわけで、ありがたく誠は奢ってもらうことにした。


 待ち合わせは現地ですることにした。

 陽菜といっしょに家を出た誠は、先に来ていた2人の姿を店先で目にすることになる。


「やあ、おはよう。数日ぶり」


 言うと、青髪と赤髪の少女は「はい」「ウッス!」と、それぞれ返事。


 ちなみに格好はというと、小鈴は上品な白いブラウスに本革でできたローファーというお嬢様らしい風体だった。一方、朝香はデニムジャケットにカーゴパンツ、動きやすそうなスニーカーという、これまたイメージ通りの服装をしている。


「似合ってるね」と誠は言った。


「そ、そうですか?」


「やったッス! 褒めてもらえて嬉しいッス!」


 テンションを上げる少女たち。


 ちなみに、これは陽菜の入れ知恵だった。「もしちゃんとした格好で来たら、とりあえず服を褒めたげて」と、指導を受けていたのである。


 流石は現役JKだ。

 女心に精通している。


 さて、そんなわけで一行は4人席に案内されたのだが、ここでひと悶着起きた。

 どちらが誠の隣に座るかで、小鈴と朝香が揉め始めたのだ。


「一番弟子のわたしこそ、隣に座るのにふさわしいです」


「その意見には賛同しかねるッス! 同じ戦士職《ウォリアー》のウチの方が誠さんの隣に適任ッス!」


 2人はバチバチ火花を散らせた。

 いや、どっちでもいいじゃん……というのが正直な誠の心情だったが、ここでどちらかを優遇すると、面倒なことになりかねない。


「ソファーの方に座ってさ、両脇に2人ともはべらせれば?」


 と、面白そうに陽菜は言うが、そんなことをすれば社会的に死ぬ。

 そこで結局、姪である陽菜を隣に座らせたのだった。


「あれ、店員さん。呼ばないの?」


「最近はスマホでQRコードを読み取って、そこから注文するのが一般的なんだよね」


「あの猫の顔付いた機械は何?」


「あれは配膳ロボ。店員さんの代わりに料理を運んでくれるの」


 誠は「はぇ~」と感嘆した。

 15年、たったそれだけの間に、世界がドラえもんの未来みたいになっている。


 感動している誠の横で、朝香は自分のスマホを使ってメニュー表に記された料理の番号を遠慮なくぽちぽちと入力していく。


 驚いているのは、小鈴も同じようだった。

 どうやら彼女、かなりいい家のご令嬢らしく、このような店に来るのは初めてだとのことだった。


「わたしの目がおかしくなったのでしょうか? 料理の値段の桁が1つ違いませんか?」


「サイゼはそういう店ッスよ。さあ、小鈴ちゃんもスマホを出して自分の料理を頼むッス」


 朝香は、ふふん、と鼻を鳴らす。

 庶民の味方サイゼリヤは、家が裕福でない彼女にとっては、非常に来慣れた場所らしい。


 3人が注文ボタンをタップすると、ほどなく料理が運ばれて来た。ちなみに誠はスマホを持っていないので、陽菜のスマホから注文した。


 今の世の中を生きるには、スマホは必須アイテムのようだ。

 流石に買わなきゃ駄目だよなぁ、と、ガラケーにしか触れたことのない誠は今さらのように思い知らされる。


 ほどなく配膳ロボットが、コミカルな音楽を鳴らしながら料理をじゃんじゃん運んで来た。辛味チキンに、エスカルゴ、モッツレラピザ、小エビのサラダなど、シェア前提の料理が多い。朝香が頼みまくったせいだ。


「これ、食いきれるか?」


「大丈夫ッスよ。もし余ったらウチがなんとかするッス」


「さては奢られ慣れてるな?」


「自分、後輩のプロなんで」


 どこか得意げに親指を立てる朝香。

 なんでも彼女、中学の時は陸上部に所属していたらしい。

 確かに彼女の性格なら、体育会の部活では可愛がられたに違いない。


 そんなわけで、皆で食事をした。


 見た目通り少食ぎみな小鈴と、どこにそれだけ入るんだというぐらい豪快に料理を食する朝香。2人は対照的だった。しかし流石に頼みすぎたのか、朝香が苦しそうだったので、成人男性の誠が多少無理をしてシェアする料理を片付けた。


 しかし、これだけ食べたのに値段は1万円を超えない。

 サイゼが安いことだけは15年前と変わらないんだなぁと、誠は安心感を得る。


 こうして皆が満腹になり、気持ちが緩んだところで、唐突に陽菜が「さて」と切り出した。


「今日、3人を集めたのは、打ち上げの意味もあるけれど、重要な話をしたかったからなんだ」


「どんな話ッスか?」


「配信収益の分配の話。今回、配信がバズったおかげで、正直かなり儲かったんだ。で、これからもパーティを組んでダンジョン配信を続けるなら、その取り分は曖昧にせず、決めといた方がいいと思ってね」


 陽菜はスマホを電卓モードにし、今回の配信の合計収益を打ち込んだ。

 その額を見て一同は唖然となる。

「高校生のお小遣い」からは掛け離れた額の金額が、そこには表示されていたのである。


「ひゃ、ひゃくごじゅうまん!?」


 と朝香は震える。

 陽菜曰く、それはいわゆるスパチャ、つまり投げ銭によるものが大きいらしく、深層脱出という過酷な試練に立ち向かうおじさんと少女たちを応援する人たちが予想以上に多かったそうだ。


 言葉を失う一同の前で陽菜は具体的な取り分を提案する。


 陽菜は現地には行かないが、配信アーカイブに字幕を付けたり、切り抜き動画を作ったりなど、このプロジェクトに大きく貢献している。


 また投げ銭が多かったのはリーダーである誠が活躍するシーンだ。

 

 そのため陽菜は、こう提案した。

 ドロップアイテムの売却などで得られるダンジョン資源の利益分配はひとまず隅に置くとして、とりあえず陽菜と誠が30%、小鈴と朝香が20%という割合で配信収益を分配するのはどうのか、と。


「そ、そんな大金、受け取れないッスよ!」


「わたしも同じ意見です。今回、わたしはたまたまお師様に助けられ、ほぼお師様の活躍でダンジョンからの脱出を果たしました。お金を払うとするならば、むしろわたしの方です。なにせ命を助けてもらっているのです」


「ウチもそうッスよ!」


「んー、でもねぇ、わたしは安全なところから、ただ撮影をしてただけだから。実際に命を懸けたあなたたちを差し置いて、お金を独占はできないよ」


 陽菜は冷静な口調で言った。

 確かに、それはそうである。


 とはいえ、額の大きさに朝香は驚きを隠せないようだった。

 一方、小鈴は「そうですね」と提案をすぐに受け入れる。


「これからも、わたしたちの探索をコンテンツとして続けるのなら、金銭面に関することは先に取り決めておくべきです。ただし、わたしの意見としては、我々2人の取り分が多すぎるように思えます。きっと、我々がいなくてもお師様はダンジョンを脱出したでしょうし、配信も伸びたかと思います」


「オッケー、わかった。じゃあ、わたしとおじさん35%、2人は15%とかでどう?」


「それでも多いと思いますが……わたしはそれで構いません。朝香さんはどう思いますか?」


「う、ウチも多いと思うッスけど、正直、それだけもらえるとウチとしてはかなり助かります」


「じゃ、決まりだね。当面、そういう分配でいこう。もし今後、額に不満が出たり、揉めるようなことになったなら、その時はまた話し合おう」


 陽菜はちゃっちゃと結論を出す。

 判断力がある子だなぁ、と誠は改めて感心する。


 それじゃあ、そろそろお開きに……


 そんな空気が漂い始める中、コツコツという足音を響かせ、黒いスーツをぴっしり纏った人たちがテーブルの前にやって来た。


「?」という顔で、誠が彼らを見ると、リーダーらしき1人の女性がサングラス越しに彼の顔を見る。


「あなたが藤増誠さんですか?」


「え? あ、はい。そうですけど……」


「お話しがあって、こちらに来ました。ちなみに、私はこういう者です」


 女性は名刺を取り出すと、困惑している誠にそれを渡す。

 そこには、こんなことが書かれていた。






 日本ダンジョン協会

 特別調査部・異常事案対策室

 主任調査官 黒沢景子《くろさわけいこ》

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