第21話:帰還者トーマス
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「〝納期厳しすぎ。マジで死ぬ。俺、魔王軍辞めようかな……〟」
誠が碑文を読み上げると「は?」という声が皆から上がった。
一体、何を言ってんだ? と、吉村は怪訝な顔をする。
「いや、実際にそう書いてあるんですよ。続きを読んでいきますね」
そう言い、誠は朗読を始めた。
「〝大体、魔王様はいつも気まぐれなんだ。異世界侵攻計画なんて無茶な作戦思い付いたのはいいものの、そんな兵力、残ってないし、そもそもゲートを開いたところで向こう側に行ける者は限られてるし〟」
「〝まず足がかりにダンジョンを送り付けてやろうだなんて、無策にもほどがある。でも、ほんと鶴の一声なんだ。上から命令された以上、下は命令を断れない〟」
「〝このダンジョンにしてもそうだ。やっつけで作ったにしては中々のクオリティに仕上がったと思う。でもラスボスをちょっと強くしすぎたかな。攻略できないダンジョンなんてダンジョン美学に反するから、本当はもうちょっと調整入れたいんだけど、残念ながら時間がない。ボスの能力はこのままにしよう。弱点も特になしでいいか〟」
「〝あー、でも、整備する時に、いちいちヒュドラを無力化してアイテム取るの面倒だな。よし、決めた。デバッグ用のパスキーをこの部屋のどこかに置いておこう。場所は、そうだな……マンドラゴラの鉢植えでも適当に置いといて、その下に隠すことにしよう。わざわざ、こんな場所、調べる奴いないだろ。ていうか、めっちゃぶっちゃけてるけど、どうせ向こうの人間がこっちの文字なんて読めるわけないし、別にいいよな〟」
「〝……あー、眠い。最後に寝たのいつだっけ? 覚えてないや。とにかく今日こそ家で寝る。デバッグは明日以降でいい。うん、そうしよう。おやすみなさい〟」
「〝社畜魔族、カロン・シースンゼンより〟」
部屋に沈黙が訪れた。
そんな中、とててて、と小鈴が小走りで部屋の隅に置いてある鉢植えを調べる。
「鍵っぽいものがありました」
「くぼみの上に置いてみて」
「わかりました」
小鈴は誠に言われた通り、なんの装飾もされていない真鍮でできた鍵らしきものをくぼみの中にぽんと置く。
直後、ヴォォォォォォォン、と音がした。
帰還用ポータルが青白い光を帯び、活性化した音である。
吉村含め、彼のパーティメンバーは、ぽかんと口を開けていた。
一方、空中画面はお祭り騒ぎだ。
驚愕を示すコメントが怒涛のように流れ込む。
〝ちょっと待て! マジでそれで起動すんの!?〟
〝つか、なんでトーマス文字読めたの!?〟
〝あっけなさすぎる!〟
〝てか鍵の隠し場所、雑すぎだろ! 鍵っ子の小学生か!?〟
〝もはや攻略じゃなくて草〟
〝つかダンジョンて手作りなん!? 衝撃の事実なんだけど!?〟
コメント欄が荒れる中、小鈴と朝香は目を輝かせて、異世界文字を訳した誠を讃える。
「流石です、お師様!」
「すごいッス、誠さん!」
「別に普通に直訳しただけ。大したことはしてないよ」
頬をぽりぽりと掻く誠。
吉村パーティ一行は、そんな彼らを複雑な、虚無に近い顔で眺めていた。
「俺たちの今までの苦労は一体……」
「初見殺しにも程がある……」
誠はドローンカメラを小脇に抱えた。
転移に巻き込むためである。
「それじゃあ、せえの、で足乗せよう」
「念のため手でも繋ぐのどうスか」
「それいいね。そうしよう」
かくして、誠は朝香と小鈴の手を両手で握った。
そして「せえの」と合図して、皆で同時に縮地点の上に乗る。
世界がぐるんとひっくり返り、ふいに感じる浮遊感――地面に足がとんと付いた時、同時に眩しい陽光が誠たちの目を細めさせた。
光に目が慣れてくると見えたのは、ぽっかりと口を開けたダンジョンの入口付近であった。
帰って来た……!
帰ってこれた……!
張り詰めていた緊張の糸が切れ、誠はその場に座り込みそうになる。
だが、そうはさせてもらえなかった。
誠の抱えたドローンがフィィィンと宙に舞い上がり、帰還した一行の様子を撮影し始めたからである。
『お帰り、おじさん』
「ただいま、陽菜ちゃん」
短いけれど情のある、静かな会話がかわされる。
『大変な4日間だったねぇ』
「本当だよ。当分、家でゆっくりしたい」
『どうだろう? それは無理かもしれない』
「どうしてさ?」
『おじさんの配信、最終的に同接3万超えたんだよね』
「えっ、マジで?」
『だから、こっから大変だよ。出待ちしていた人たちがすぐに押し寄せて来るんじゃないかな?』
陽菜がそう言った時だった。
「いたぞ、あそこだ!」と誰かが叫び、カメラやマイクを持った報道陣が全力でこちらに走って来る。
「帰還、おめでとうございます、藤増さん! 今のお気持ちはっ?」
「え、えっとぉ……」
「小鈴さんも朝香さんもおめでとうございます! 今のお気持ちはっ?」
「うれしいです!」
「感無量ッス!」
そう言いながら少女たちは、カメラを向ける報道陣に指輪と首輪を見せつける。
「これはお師様にいただきました。師弟の絆の証です」
「ウチも誠さんにもらったッス。しかも直接着けてもらったッス」
弟子たちの付ける装飾品をカメラがパシャパシャと撮影した。
やめて、その表現! 誤解を生むから!
誠は止めようとするが、もう遅い。
彼らのカメラは容赦なく誠一行を撮影した。
こうして彼は揉みくちゃにされ、コニュードダンジョンの未踏破深層を突破し、遭難者を連れて帰還した探索者として、翌日の新聞の一面を飾ることになったのだった。




