第20話:2つの道と2つのポータル
臨時パーティ結成後、3日の時が過ぎ去った。
フォーメーションは変わらない。
前衛の朝香が剣を振り、後衛の小鈴が魔法で援護。
その中心で誠が状況に合わせ、朝香をフォローしたり、小鈴への攻撃を防いだりする。
この組み合わせは、かなり相性がよかった。
正直、誠が前に出れば、より効率的に多くの敵を狩ることができるだろう。
だが、それ以上にこのフォーメーションは、朝香と小鈴にとって掛け替えのない経験値を得られるものだった。
経験値とはいうものの、この世界ではゲームのように目に見えてステータスなどが上がるわけではない。
だが、この3日間で2人の力量は目に見えて強化されているように見えた。
特に朝香の成長は驚異的だ。
恐らく、これは、いざとなったら誠がフォローに入ってくれるという安心感から、普段はあまり使わない隙が大きめの〝武技〟などを使うようになったからだろう。
小鈴は小鈴で、誠の魔法を参考にして、オリジナルの詠唱が短い魔法を開発するなど目覚ましい進歩を遂げていた。
そのことを誠はうれしく思った。
なんだか、まるで本当に2人の少女の師匠になったようだった。
探索自体はスムーズに行われた。
だが肝心な2人の仲間探しは少しも進まなかった。
ただ運が悪いだけなのか、あるいは、すでに知らないところでモンスターの餌食となったのか……
詳しいことはわからない。
ただ、なんにしても脱出するための道を探さなければならなかった。
「武技〝回転乱舞〟!」
「聖なる光の精霊よ。我に魔を討つ弓矢を授けん。【聖弓聖矢】!」
まるで炭のように真っ黒い骸骨の剣士、イビルスケトン。
朝香が剣で隙を作り、その剣と盾をパリィしたタイミングで、アンデッドモンスターの弱点である聖属性の矢がその黒い胸を貫いた。
たちまち、それは黒煙に変わり、辺りに沈黙が訪れる。
「ふぅ、なんとかやったッス」
「見事な武技の冴えでした」
「小鈴ちゃんの魔法もすごかったッスよ」
「でも、お師様にはおよびません」
「それはウチだって同じッス」
2人は互いを讃え合う。
誠が絡んだ事柄だと、何かと喧嘩が絶えない彼女たちであるが、戦闘の際は互いのことを尊重し合っているらしい。
いい兆候だと誠は思った。
たとえ単体で強くても、他人と息を合わせられないために強くなれない者は少なくない。
(ていうか、俺がそうだったよな……)
誠は過去を思い出し、ひそかに苦い顔をする。
というのも、異世界に召喚されたての頃は、自分が世界に選ばれた勇者であるということに驕りたかぶって、他人と歩調を合わせられずにいた。
そんな自分が生き残れたのは、他者との連携の重要性をその身でもって教えてくれた、かつての仲間たちのおかげである。
イビルスケルトンを倒したことで動線ができ、一行は新たな部屋へ行く。
そこには鉄格子のはまっていない2つの分岐ルートがあった。
誠と朝香、2人の視線は自然と小鈴に移る。
こういう分岐になった時、魔素の濃度に敏感な彼女の体質は非常に役に立つのである。
小鈴はすんすんと鼻を鳴らし、2つの道を比較する。
「魔素濃度が低いのは左です」
「それじゃあ、左に進もうか」
「ですが右には魔法職が残した探知魔法の痕跡があります」
「つまり誰かが右の道に進んだっていうことッスか?」
「ええ、そうです。それが誰かはわかりませんが、魔法職を含んだ複数人がこちらへ進んだ形跡があります」
誠と朝香は顔を見合わせた。
安全を取るなら左の道、他者との出会いを求めるのなら右の道。
果たして、どちらに行くべきか?
「右ッスね」と朝香が言った。
探している仲間が見つかるかもしれない。
そうでなくても他のパーティと合流できる可能性がある。
ゆえに彼女は魔素の濃い方へ敢えて行くべきと主張したのだろう。
「わたしは左だと思います」
一方、小鈴はそう言った。
彼女は理由を説明する。
曰く、他のパーティと合流できても、そのパーティが友好的かはわからないし、すでに倒されてしまっているかもしれない。それなら敢えてリスクを負わずに、魔素の濃度の低い方に行くべきだそうだ。
どちらの主張も一理ある。
最終的な判断はリーダーの誠に任された。
(選ぶのは苦手なんだけどなぁ……)
優柔不断を自負する彼は、どちらに進むか本気で迷う。
少しの間、考えた末、誠は朝香のプランを支持した。
日和って楽な道へ行くよりも、他のパーティと合流できるメリットの方が大きいと考えたからである。
こうして誠の選択により、右の道へ行くことが決定した。
道はそれほど長くはなかった。
10分かそこら歩いただけで誠たちは別の部屋に出る。
と、そこに、数人の人影があった。
誠と同じ年頃の筋骨隆々の男が1人。
その他、4人が固まって、ある者は【治癒】を受けていた。
「よう、あんちゃんたち。よく来たな」
筋肉質の男が言った。
彼がパーティのリーダーらしい。
「吉村だ」
「藤増です。一体、何があったんですか? 怪我してる方がいるみたいですが……」
聞くと、吉村と名乗った男は近くの地面を指差した。
そこには2つの紋章がある。
俗に縮地点と呼ばれるものだ。
1つは青白く光っている。
だが、もう1つは光っておらず不活性状態のようだった。
「これ光ってない方のやつ、多分、帰還用のポータルですよね?」
「おぅ、その通り。よくわかったな。ダンジョン歴は長いのかい?」
「まあ、それなりに」
「じゃあ、話は早い。このポータルを起動すれば、恐らく地上に戻れるはずだ。ただし条件があるらしい。ポータルの横に石碑があるだろ? これの中央のくぼみの部分に何かアイテムをはめなきゃならねえようなんだ」
果たして、男の言う通り、そのポータルの隣には未知の言語で書かれた意味深な碑文と、明らかに何かをセットできるように作られたくぼみのようなものがある。
「光ってる方はボス部屋ポータルですね」
「察しがいいな。そうさ、その通り。これの上に乗ると、でかいボス部屋に飛ばされる。でもって、そいつを倒せれば専用のアイテムが手に入るんだろう」
吉村は「ただし」と付け加えた。
「あれを倒すのは不可能だ。Aランカーの俺たちですら手も足も出ない相手だった」
「一体、どんな敵なんですか?」
「ギガントヒュドラだ。全部で8つの首があって、1つ斬り落としてもすぐに首が生えて来る。だから同時に斬り落とさなきゃならねえんだが、並の人間じゃ不可能だ。Sランカーが束になってようやく倒せる相手だろう」
吉村は肩をすくめてみせた。
幸いボス部屋ポータルは一方通行ではなかったらしく、敵を倒すのが無理だと悟った彼は、負傷した仲間を引き連れて、この部屋に戻って来たらしい。
ギガントヒュドラか……
確かに、それは厄介な相手だ。
魔王を討ち倒す直前の全盛期の勇者パーティならば、なんとかできたかもしれない。
しかし小鈴と朝香には無理だ。
異世界帰りの誠であっても、それに単騎で挑むのは無謀な挑戦だといえた。
と、誠たちの前に出た小鈴が手を挙げる。
何か発言したいらしい。
「どうした嬢ちゃん?」
「多分なのですが、この石碑に刻まれた文字の中に攻略のヒントがあるのでは?」
「そうかもな。これが日本語だったらヒントになったのかもしれねぇ。しかし、あいにく、ここに書かれてるのは〝別の世界の文字〟なんだ。そんな文字、読める奴はいねぇ」
瞬間、小鈴と朝香の視線が、ほとんど同時に誠に向いた。
「ど、どうッスか?」と問う朝香に「うん、読めるよ」と誠は答える。
「なんと書かれているのです?」
小鈴が興奮ぎみに聞く。
誠は、じいっと目を細め石碑の文字を指でなぞり、
「〝納期厳しすぎ。マジで死ぬ。俺、魔王軍辞めようかな……〟」
書かれていることを直訳した。




