第19話:寝袋バトル
ボスモンスターを倒したことで、鉄格子のロックを解除した誠たちは、それが再発動する前に外に出て次の部屋を目指した。
編成は以前と同じもの。
前衛を朝香、中衛を誠、後衛を小鈴が務める形である。
効率だけを考えるなら、誠を先頭に出した方がいい。
だが彼は深層のボスモンスターに唯一対抗できるジョーカー的な立ち位置にいた。ゆえに、なるべく温存というのがパーティの出した答えだった。
それから30分ほど歩き、一行は開けた場所に出た。
エアタブの時間表示を見た誠は「もうこんな時間か」と独りごちる。
「今日の探索はここまでにしよう。みんな食料や寝袋は持ってる?」
聞くと、2人は頷いた。
そこで一行は簡易的なテントを作り、就寝準備をすることにした。
ちなみに、このテントは小鈴のものだ。
中層以降の探索を期待して最初の頃に買ったのだそうだが、肝心のパーティが日帰りで表層巡りをするような集団だったので、今までストレージの中で埃を被っていたそうだ。
さらに、このテントには安全灯というパーツが付属しているらしい。
なんでも、それを灯すことでモンスターに気配を察知されにくくなり、仮にもしモンスターが近くに来たらブザーが鳴り響くのだという。
(やっぱ、この世界、便利だなぁ)
と、誠は思う。
そんな都合のいい道具、異世界にはもちろん存在しなかった。ダンジョンの中で寝る時は交代で見張りを立てるのが当たり前だったのだ。
テントの設営が完了すると、一行はさっそく夕食を摂った。
小鈴は探索者専用のレーション、朝香は自作したらしいおにぎり、誠はコンビニ弁当だ。
しかし、この先、どうしたものか……
誠は今まで日帰りで表層のモンスターを狩るだけだった。
つまり長期の探索のことなど考えてすらもいなかったのである。この弁当を食したらたちまち食料切れである。
「レーションでしたら、たくさんあります。お師様はそれを食べればいいです」
「いや、小鈴、流石にそれは……」
「親切で言っているのではありません。お師様という切り札がなければ我々は先に進めないのです。そんな人材が空腹では探索に支障をきたします」
確かに、それはもっともな意見だ。
この子は頭がいい子だなぁと、改めて誠は実感する。
飯を食ったら、すぐ寝ることにした。
魔力や闘気の回復には休息が一番だからである。
小鈴と朝香はストレージから、それぞれ寝袋を取り出した。
しかし誠はその辺に何も敷かずに寝そべろうとする。
「あれ、誠さん、寝袋ないんスか?」
「日帰りの予定だったからね」
「だったらウチのを貸しますよ。ウチはそのまま地べたで寝るんで」
「いや、女の子にそんなことさせられないって」
「お師様、それならわたしの寝袋をいっしょに使用しませんか?」
「え?」
「見ての通り、わたしは小柄です。そして、この寝袋は大きめなのです。抱き合って寝れば2人分くらいのスペースは確保できるかと思います」
「なっ! 小鈴ちゃん、それはなしッスよ! だったら、ウチがそれやるッス!」
「余計な脂肪が多いので、あなたの体では無理でしょう」
「~~ッ!? なんだと、コラ! もっぺん言ってみろ、このちみっこがぁぁぁぁ!」
2人はバチバチ火花を散らした。
するとドローンがフィィィンと降りてきて、そこから陽菜の声がする。
『面白いから、これ配信しようか』
「絶対にやめろ」
『ごめん、もうすでに配信してる』
なっ……と思いながらエアタブに触れると、怒涛のようにコメントが空中画面に表示される。
〝トーマス、てめえふざけんじゃねえぞ!〟
〝おっさんのくせにモテすぎだろ!〟
〝俺も美少女に取り合いされたい!〟
〝てか、俺だったら絶対手ぇ出すわ。この状況で我慢は無理〟
〝トーマス、もしやホモなのでは?〟
〝イキスギィ!〟
〝ンアッー!(≧д≦)〟
〝でも真面目な話、俺トーマスになら掘られてもいいかも〟
〝マジモンのホモが湧いてて草〟
〝トーマス、絶対手ぇ出すなよ? 痴漢者トーマスになるからな?〟
〝あったな、そんなの!〟
〝懐かしすぎるわ!〟
〝ネット老人ばっかだな、ここ〟
誠は無言で空中画面を閉じた。
そして深々と溜息をつく。
「陽菜ちゃん、頼むから配信切って」
『ごめんね、おじさん。悪ノリしすぎた』
「ちなみに同接どれぐらい?」
『さっき、一瞬9000超えた。1万人までもうすぐだよ』
姪っ子からの答えを聞き、誠は複雑な心境になった。
配信のバズは陽菜の悲願であり、彼女の大きな夢だった。
だが、それは偶然の事故によるものだ。
そして、またこの事故で多くの探索者が重症を負ったり、命を落としてしまっているはずだ。そんな中、数字を伸ばすのに、誠は少し罪悪感を覚えた。
そんな本音を陽菜に打ち明けると「んー、まあねぇ」と、彼女は答える。
『確かに事故がなかったら配信は伸びなかったかも。でも、それはぱんどらの責任なわけだし、おじさんが負い目を感じる必要はないんじゃないかな?』
「まあ、そうだね。でも俺、話すの下手くそだし、これ以上、伸びるのは厳しいかもよ?」
『いや、おじさんはそのままでいいよ。下手にバズとか狙うより、おじさんはおじさんらしくしてる方が同接は伸びていくと思う』
「そうなのかな?」
『絶対そうだよ。今のおじさんたちのパーティ、ひとりひとりがいい味出してる』
誠は後ろを振り返り、言い争っている少女たちを見た。
思えば、これはひさびさの仲間を伴う冒険である。
その時、誠は自分の中にある感情が芽生えていることに気が付いた。
それは〝楽しさ〟だ。
確かに困難な状況ではある。
しかし誠は仲間とともに、未知のダンジョンを探索することに、かつての仲間たちとの冒険を思い出さずにはいられなかった。
でも、だからこそ、仲間たちを決して失うわけにはいかない。
(今度は絶対守り切ろう。たとえ命に代えてでも)
思った誠は弁当のゴミを袋に入れて、ストレージの中に放り込むと、口論している2人の横でごろんと地面に寝っ転がった。




