第18話:朝香とチョーカー
……これは、どういう状況だろう?
仰向けになっている誠は、あるものを枕に寝かされていた。
それは少女の太ももである。
つまり、いわゆる膝枕。
誠は小鈴の太ももに後頭部を乗せていたのである。
〝トーマスてめぇ! この野郎!〟
〝そこ代われ!〟
〝俺も猫耳美少女に膝枕されたい!〟
〝前世でどんな徳を積めばこんな僥倖を味わえるのか〟
〝誠タヒね〟
〝いや、だからネタが古いっての〟
コメント欄が荒ぶっている。
空中画面を隅にやり、誠は体を起こそうとする。
「いけません、お師様。寝ていてください。お師様はさっき敵の攻撃を受けて重症を負っているのです」
「いや、俺は全然大丈夫だよ」
「いけません。一見、大丈夫に見えたとしても、内臓にダメージが入っているかもしれません」
言うと、小鈴は誠の腹に手をかざし、呪文を詠唱し始めた。
それは誠の知らない呪文だった。
多分、この世界の回復魔法だろう。
「小鈴ちゃん、ズルいッス! ウチも介抱したいッス!」
「回復は魔法職の仕事です」
「でも太もものクッション性なら、断然ウチの方が高いッスよ」
「ボンレスハムは黙ってください」
「ぼ、ぼぼぼ、ボンレスハムっ!? 言いやがったな、このちみっこめぇぇぇ!」
一触即発の空気になりそうだったので、誠は慌てて身を起こす。
そして、まあまあ、と2人を宥めた。
とりあえず空気は弛緩する。
「にしても、さっきのはなんだったんスか? 剣が急に黒くなったッスけど」
「ああ、あれね。カオスモード。白金は元々聖剣として打ってもらったものなんだけど、魔王を斬った時にその血を吸って魔剣になってしまったんだ」
そう言った誠は、だがしかし、今が配信中であることを思い出した。
頭がおかしいと思われかねないため、異世界に関することは視聴者には秘密だ。
ゆえに慌てて弁明した。
「……って、設定のただの剣。剣が黒くなるのはなんていうか、そうなる魔法を使ったから」
なんていうふうに付け加えると、フィィィンと音を出しながらドローンが近くに降りて来る。
『おじさん、おはよう。ついに同接が8000超えたよ。あとコメントがすごいことになってる』
嬉しさを隠しきれていない陽菜の声。
ただし誠はこれ以上、コメントを読む気にはならなかった。
「ああ、そうだ。宝箱。中には何が入ってた?」
聞くと、小鈴が何かを取り出す。
それは首輪型の装飾品だった。
「簡易的な鑑定を行ったところ、呪いのアイテムではないことがわかりました。筋力上昇等の効果が見込める、戦士職の装備品のようです」
「そっか。それなら、ちょうどいい。これは朝香にあげるよ」
「い、いいんスか、本当に!?」
「俺が着けてもほとんど意味ないと思う。だから朝香が持つべきだ」
言うと、ごくりと唾を飲み、朝香は首輪を受け取った。
そして、それをなぜか誠に渡してくる。「?」という顔を彼はした。
「あの、誠さん。1つ、お願いがあるッス。自分、手先が不器用なんで、こういうのはめるの苦手ッス。誠さんがはめてくれませんか?」
「いいけど、そんなに難しくないよ」
「駄目ッスか?」
「いや、いいけど。じゃあ、とりあえず髪を掻き上げて」
誠は怪訝な表情をしたが、まあ、いっか、と割り切った。
真っ赤なポニテを掻き上げたことで、うなじをあらわにした朝香の首に誠は首輪を取りつける。
「はい、着けたよ。これでいい?」
「えへへ、やった。誠さんに首輪着けられちゃったッス。これで正式な弟子ッスね」
「え、なんのこと?」
「これは証ッス。師匠に絶対服従の絆が生まれた証ッス」
そう言って朝香は嬉しそうにはめられたばかりの首輪に触れた。
あ、いや、そういう意味じゃ……
と、言おうとしたが、朝香はまるで見せつけるように首輪付きの顔を小鈴に向け、
「てなわけで、よろしくッス。姉弟子殿」
「ぐ、ぐぬぬ……認めませんよ、こんなのはっ!」
「でも小鈴ちゃんと違って、ウチは誠さんの手で直接はめてもらったッスから」
「そのマウントは卑怯です!」
「ヒキョウもラッキョウもあるものかッス!」
またも険悪になる2人。
コメント欄には引き気味な発言が溢れかえっていた。
〝未成年に首輪付けるのはないわ……〟
〝トーマス捕まれ〟
〝通報しますた〟
〝今すぐタヒ刑〟
〝もう二度とシャバに出れないねぇ〟
「誤解だよ!」
と弁明するが、誠への非難は止まらない。
『これは責任とらなきゃねぇ』
「だから誤解だって!」
誠は叫ぶ。
かくして彼は「お師様」かつ「ご主人様」になってしまったのだった。




