第12話:3つの分岐
ボスモンスターであるハイネスデーモンを撃破したことで、先へ進む通路が開放された。誠たちはその道を進み、ダンジョンからの脱出を目指していた。
ちなみに、ダンジョンの地面が崩落する罠は割とポピュラーなものである。
だが深層まで落とされたのは、流石の誠も初めてだった。
崩落がどの程度の規模で起こったのかはわからないが、陽菜曰く、表層にいる多くの人が落下に巻き込まれてしまったとのことだった。
配信が伸びているのは、そのためだろう。
皆、このダンジョンに落ちた者の安否が気になっているのか、あるいは純粋にエンタメとして危機的状況に追い込まれた探索者たちの冒険を楽しんでいるのか。
まあ、なんにしても〝バズ〟である。
できれば、こんな状況でそうなってほしくなかったが。
「ねえ、小鈴、指輪なんだけど……」
そんな中、通路を進む誠は、すぐ後ろにいる小鈴をちらりと見やる。
「それ別の指にはめられない? 小指とか、せめて右手の薬指とか?」
「無理です」
「なんでさ?」
「呪いです。これは呪いのアイテムなので、一度はめると二度と取れないのです」
なんていうふうに言い訳する小鈴であったが、誠の鑑定スキルによって、それが呪いの装備品でないことはすでに見抜かれている。
だが〝お師様〟にもらったそれを、小鈴は大層気に入ったようだった。多分、特別なものとして特別な指にはめているのだろう。
そういうふうに誠は解釈した。
だがコメント欄は荒れに荒れていた。
〝ロリ系猫耳美少女ゲットとかどんだけ役得やねん〟
〝羨ましすぎて毛が全部抜け落ちた〟
〝それは元からやろ〟
〝てか、こすずちゃんかわいすぎ。ぎゅって抱きしめたい〟
〝↑通報しますた〟
〝↑ロリコンはタヒ刑〟
〝いいなあ。俺も猫耳美少女連れ歩きたいなぁ〟
〝ほなダンジョン行こか〟
〝ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?〟
〝間違ってるわw〟
などと、小鈴のかわいさを愛でる者。
そんな小鈴を連れ歩く誠を羨ましがる者のコメントが空中画面に浮かんでは消えてゆく。
別にかわいいから助けたわけではないのだが……
その配信のコメント欄では、誠はすっかりロリコン扱いされていた。
近くにあると気が散るので、とりあえず空中画面を映し出すエアタブは小鈴に預けることにした。
果たして、それから道中で様々なモンスターが現れて、誠はそれと戦った。
小鈴も後ろから支援したが、誠の剣が速すぎて、大抵の場合、詠唱を終える前に彼が倒してしまうのだった。
「……誠さん、わたしお荷物ですか?」
そんな展開が何度も続くと、ついには自信をなくしてしまったらしく、小鈴は暗い顔でそう聞いてきた。
「そんなことない。俺の職業は元々、剣士……こっちでいうところの戦士職だからさ、後ろでサポートしてくれる人がいるだけでずいぶん違う。剣に集中できるんだ」
それはおべっかや慰めではなく、心の底からの本音であった。すると小鈴は顔を輝かせ指輪をはめた薬指を撫でる。
「褒めてもらえてうれしいです。いつか、わたしも無詠唱でお師様のように魔法が撃てるようになります」
「だから、その呼び方は……いや、もういいや。好きに呼んで」
こうして誠は正式に小鈴の「お師様」になったのだった。
魔法使いじゃないんだけどなぁ、と彼はちょっとだけ罪悪感を覚える。
(この世界にシルヴィアが来ていたら、彼女に弟子入りさせたんだけどな)
誠はそれを惜しく思う。
シルヴィアは好奇心の塊みたいな女性だった。
焚き火の前でも、馬車の中でも、野営地で地図を広げている時でさえ、自分の故郷についてあれこれ聞いてきた。
もしも落命していなければ、いっしょに付いて来たかもな……
そう思うと胸が苦しくなった。
だが傷心に浸る暇はない。
今はダンジョンからの脱出が第一だ。
それから二度の戦闘を経て、誠たちは新たな部屋に辿り着いた。
それは円形の空間で、目の前は三叉路になっていた。
はてさて、どこを進むべきか……
誠は一瞬、迷ったが、なんとなく右の入口に入ろうとした。
だが、そんな彼を「待ってください」と後ろの小鈴が引き留める。
「その入口は危険です。漏れ出る魔素の量が明らかに多いです」
「わかるのかい?」
「なんとなくですが。魔素変異者特有の勘のようなものです」
小鈴は青い猫耳をぴくぴくと揺らしながら言う。
と、空中画面のコメントが怒涛のように埋め尽くされる。
〝こすずちゃんかわえええええええええええ!!!!!!〟
〝猫耳少女prpr〟
〝猫耳ロリを連れ歩きたいだけの人生だった〟
〝俺がお師様だ!〟
〝いや俺だ!〟
〝やんのかコラ!〟
〝トーマス嫉妬民湧きすぎワロタ〟
コメント欄の民度は低い。
『読まなくていいからね、小鈴ちゃん』と、ドローンから陽菜がフォローする。
ちなみにトーマスとはいつの間にかつけられた誠のあだ名である。
藤増という苗字を誰かがふざけて〝とうます〟と書いたのが由来らしい。
(某、顔の付いた機関車みたいだ)
だが本名で呼ばれるよりも恥ずかしくなくていいかもしれない。
「じゃあ、魔素濃度が低いのはどれ?」
誠が聞くと、小鈴はくんくんと鼻をならし、3つの入口をそれぞれ調べた。
「……真ん中です」
「じゃあ、そこへ行こう」
かくして2人は中央の通路に入ることにした。
と右の通路の奥から低い唸り声が響いた。
そちらを見ると、黒い霧のようなものが入口からゆっくりと漏れ出している。
「……あっちに入ってたら、まずかった?」
「たぶん、深層の魔素溜まりです。普通の探索者なら数分で魔素酔いを起こします」
「助かった。小鈴がいなかったら、普通に右へ行ってた」
「えへへ。お師様に褒められました」
感情の起伏に乏しいポーカーフェイスのために表情がわかりにくい小鈴だが、彼女が微笑むのが見えた。
2人は最も安全な通路を進んでゆく。
すると、ほどなく「うおおおおおおおおおおおッス!」という、若い娘のものに思われる甲高い雄叫びが聞こえてくる。
小鈴の猫耳がピクリと動いた。
「お師様、金属の音が聞こえます」
「俺にも聞こえた。誰かが戦闘してるみたいだね」
「どうしますか?」
「行くしかない。同業者を放っておけないよ」
言うと誠は剣を構え、雄叫びのあった方向へ走ったのだった。




