第11話:エターナルフォースブリザード
「よし、とどめ! 武技〝電光石化〟!」
円形にくり抜かれたリングのような空間に、誠の声が木霊する。
名前の通り白磁のような輝く放つ聖剣〝白金〟は相手の腕を斬り飛ばし、胴にも深い傷を与える。ほぼ致命傷に近いダメージだった。
「グォォォォォォォォォォォォォォォォ!?」
対する相手はハイネスデーモン。
二足歩行する獣のような輪郭にカールした角を頭部に生やしたデーモン系の上位種である。
急所を外した。
その事実を淡々と受け入れながら、誠は魔法で追い打ちをかける。
「【絶対零度大寒波】!」
魔法名を叫び、手をかざすと圧縮された冷気の塊が腕を失った敵に命中した。
敵は瞬時に凍り付く。
その隙に誠は剣を振りかざし氷像と化した敵を粉砕した。
カンカンカン、とゴングのような音が鳴り、部屋の中央にある宝箱が開く。
敵を撃破した報酬だろう。
誠は、ふぅ、と息をつく。
「やっぱ深層のモンスターは手強いな。ていうか、だいぶなまってる。前の俺なら魔法なんて使わずに剣だけで倒せたはずなのに」
誠は独り言をいった。
すると岩陰に隠れていた小鈴が、とてててて、と彼の下に駆けて来る。
「流石です、お師様!」
「だから、その呼び名はやめてくれ」
「じゃあ、流石です。誠さん!」
小鈴は無邪気に目を輝かせていた。
そんなすごいことしてないと思うけどなぁ、と誠は頬をぽりぽり掻く。
とはいえ、一見落着である。
どうやら、ここはボス部屋のようで、ボスモンスターを倒したことで次の部屋へ繋がる通路が開いたようだった。
「あの、誠さん。さっきの魔法はなんですか?」
「【絶対零度大寒波】?」
「はい、それです! あんな大規模な氷魔法は見たことがありません!」
「こっちの魔法じゃないのかも。向こうの世界にいた時にシルヴィアっていう魔法いの仲間がいたんだけど、その人の技をパクったんだ」
「では独学で?」
「言い方によっては。でも本家のに比べたら、威力も魔力効率も悪い意味で桁違いだよ」
誠はあくまで謙遜した。
大魔法使いシルヴィア・シャンタク。
彼女の魔法に比べると、誠はどうも自分の魔法が陳腐に思えてしまうのだ。
と、陽菜の操るドローンがフィィィンと近くに降りて来る。
『ねぇ、おじさん。今のハイネスデーモン、Aランクの探索者が束になってようやく倒せる超強力なボスモンスターだよ?』
「え、そうなのか? 異世界じゃ普通に出てきてたけどな」
『なにそれ。異世界こわ』
陽菜は若干、引き気味に言う。
こちらと向こうの常識は若干、乖離しているようだ。
『ね、おじさん。エアタブ持ってる?』
「あー、なんだっけ? なんか映像を空中に出すやつ」
『そう、それそれ。ダンジョン行く前に渡したやつ』
誠は空中の〝ストレージ〟の中から該当する端末を取り出した。
見た目は小型のスマートフォンだ。
が、ボタンを押すと目の前に〝空中画面〟が現れる。
〝おじさんTUEEEEEEEEEE!〟
〝ハイネスデーモン、ほぼワンパンかよ!〟
〝本当か? 精巧に似せたフェイクじゃないのか?〟
〝その辺の真偽は解析班が何度も調べて答えは出たはず〟
〝じゃあマジで、これ本当にやってんの? 化け物じゃん?〟
〝何者なんだよ、このおっさん!?〟
宙に現れた画面には、ドローンによって映し出された自分の姿と、すごい勢いで流れて来るコメントが表示されている。
『おじさん、何か一言お願い』
「ひ、一言と言われてもなぁ……」
誠は内心焦っていた。
同接は今や2000を超えて、ちょっとした祭りになっている。
「ああ、えっと……自分は藤増誠といいます。藤原の藤に増加の増、名前は誠実の誠でマコトです」
するとコメントがさらに増える。
〝ちょ、初手本名バレとか無敵の人すぎだろwww〟
〝ネットリテラシー皆無で草〟
〝本業で探索やってるの? それとも副業?〟
〝てか、あまりにも装備ボロすぎだろ。全部、中古で買ったんか?〟
「あ、いや、それは……」
と誠は口ごもる。
まさか自分が15年前に異世界に渡った転生者であり、帰還者だという情報を不特定多数に漏らすわけにはいかない。
「ひ、秘密です……」
とコメントにブーイングの嵐が流れた。
あわわ、炎上!? とビビる誠。
するとドローンからの接触回線を通し、陽菜が念話送ってきた。
――おじさん、いちいち答えなくていい。
――でも、みんなが……
――それじゃキリがない。せめて赤スパにだけ反応したげて。
――あかすぱ?
――そっか。そっからか……
陽菜は大きく溜息をつくと、空中画面を閉じるように言った。
コメントの返信はわたしがやっとく。とりあえず、おじさんはそのまま探索を続けて、と陽菜は念話を締めくくる。
誠は言われた通りにした。
空中画面は消滅し、物言わぬ黒いタブレットだけが残る。
「お師様、お師様」
「だから、その呼び名やめろ」
「先ほどの魔法なのですが、詠唱はどんな感じです? わたしも使ってみたいです」
「え、詠唱と言われてもなあ……ほぼフィーリングでやってるし」
「しかし魔法である以上、正しい詠唱はあるはずです」
「ううん、そうだなあ……〝凍てつく氷の精霊よ。相手をめっちゃ凍らせろ〟とか?」
誠はかなり投げやりに答えた。
が、ふむふむと熱心に小鈴はメモをとり始める。
「相手をめっちゃ凍らせろ、と」
「あ、いや、今のは適当に言っただけ。多分、ちゃんとした詠唱があるはず」
「でも使用者の誠さんが言うんですから説得力はありますよ」
などと真面目に答える小鈴であったが、こんな自己流のやり方を見せて変な方向に育っても困る。
「こ、小鈴ちゃん、むしろなんだけど。さっきも言ったように俺は15年間、別の世界に行っていたから、この世界のダンジョンの構造とか魔法の原理とかよくわからないんだ。むしろ教えてもらえると助かるかな」
言うと小鈴は頷いた。
「今はこのような状況なので長い時間は取れませんが、地上に帰還したら、ぜひとも魔法の話をしましょう。あと、ちゃん付けはしなくていいです。わたし、弟子なので」
小鈴は、むふー、とご満悦。
あ、やばい。地雷だったかも……
すごい長話になりそうだ。
「めっちゃ凍らせろ……めっちゃ凍らせろ……」
小鈴はぶつぶつ言っている。
努力の方向音痴である。
ともあれ敵は倒したわけだし、戦利品をいただくことにしよう。
宝箱の前まで誠が行くと、そこには指輪が入っていた。
ごく初歩的なものではあるが彼は鑑定スキルも持っている。
彼がスキルを発動させると、呪いのアイテムではないことがわかった。
多分、魔法の威力アップとか、そういう効果をもたらすものだろう。
「はい、小鈴。これは君にあげる」
「い、いいのですか?」
「俺はいらないよ。魔法職の君が持つべきだろう」
そう言い、誠は迷わずに宝箱から取り出した指輪を小鈴に手渡した。
すると彼女は両の手で、まるで聖なるお守りを授かるみたいにそれを受け取る。
「大切にします、誠さん」
そう言いながら、躊躇なく、小鈴はそれを左手の薬指にはめようとして、
「いや、ちょっと待て。それは意味が変わってくるぞ!?」
思わず誠は突っ込んだ。
だがしかし、すでに時遅し。
小鈴はそれをはめてしまう。
『うわぁ。おじさん、ロリコンだぁ……』
「誤解だっての!」
「〝通報しますた〟ってコメントがいっぱい来てるよ?」
「いや、だから、誤解なんだって!」
ドローンに向けて誠は叫んだ。
その時、配信視聴者数は3000人に届きつつあった。




