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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき


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05――巨大スライム退治と人命救助

 普通のスライムと比べると、冗談抜きで500倍ぐらいに拡大されているんじゃないかと思うぐらいの大きさだった。色は通常のスライムと同じ黄緑色だから、多分種類としてはこれまでの壁とか天井を這っていたスライムたちと同じなんだと思う。

 大きなスライムが突然変異で生まれたというよりは、長い時間を掛けて通常サイズのスライムたちが集まって合体したものが、この巨大スライムだと考える方が自然な気がする。


 周囲にスライムがいないことを確認し、いつもよりも距離を取って安全を確保する。これだけ大きいのだから、おそらく体内に溜め込んでいる酸の量もその体積に比例して多いのだろう。

 私のファイアだとスライムの体に命中したとしても、その大量の酸で魔法があっという間にかき消されてしまうかもしれない。


「ふふん、こんなこともあろうかと!」


 私は背負っていたリュックを下ろして、その中からサラダ油が入っていたプラスチック容器を取り出した。元々は1500mlの油が入っていたものだから、結構大きい。30cmぐらいの高さがあって、中には黄ばんだ油が入っている。

 その中身は実はサラダ油ではなくて、玄関にあったポリ容器の中に入っていた灯油なのだ。買ってきたばかりの灯油の色は無色透明なんだけど、放置して時間が経つと灯油が変質してこんなふうに色が付くらしい。

 どうやら2シーズン以上放置されていたようで、しっかりと変色していた。


 『もしかしたら私のファイアでは倒せない敵が出てくるかもしれない』という想定は、本格的にダンジョンを探索しはじめた頃からしていた。


Q.火力が足りない場合はどうするか?


A.もっと火力を強くしてやればいい。


 そんな脳筋思考で、油を敵に掛けてから燃やしてやればいいのではと考えたのだ。

 身近にある油といえばサラダ油とかオリーブオイルが最初に頭に思い浮かぶけど、実はこれらの油ってなかなか燃えにくいらしい。ネットで調べてみたら自然発火するのは摂氏350度以上で、火種があれば摂氏300度ぐらいで燃えるそうだ。


 さすがに私のファイアの火力では油の温度を瞬時にそこまで上げられるはずもないので、何か手頃な油はないかなと家の中を探していたら古びた灯油が入ったポリタンクをみつけたのだ。

 3分の1程度入っていたから残量が少なくて持て余したということはなさそうだし、両親が処分するのを面倒くさがって放置していたというのが正解なのかもしれないな。


「せーのっ」


 プラスチックのフタを外してから、こぼさないように慎重に頭上に持ち上げる。それから思いっきり巨大スライムに向けて容器ごと投げつけた。私の手から離れた容器が注ぎ口を上にしたまま狙い通りに飛んでいくのを眺めていると、巨大スライムが油に向かって酸を吐き出した。私がいつも倒しているスライムが吐く酸と比べるとスピードも酸の量も桁違いで、もしも私が直接攻撃されていたら跡形もなく溶けてなくなっていたかもしれない。


 プラスチック容器の底の部分をかすめて、撃たれた酸は天井を直撃して大きめの穴を空けた。落石として落ちてくるはずの天井部分の岩は酸に溶かされてしまったのか、パラパラと砂や小石が落ちてきた程度で済んだ。

 油の方は酸がかすめたせいでバランスよく真っ直ぐの状態で飛んでいたのに、底側に力が加わったからかくるくると回転し始めてうまい感じに撒き散らされた油がスライム全体に掛かる。


「ファイア!」


 指鉄砲の形にした人差し指から火の玉が飛び出して着弾し、スライムが炎に包まれた。灯油のおかげで火の勢いがかなり強く、私が立っている場所まで熱が伝わってくる。油断せずにスライムの動向を注視していると、いくつか火を消そうとして酸を吹き出して火の勢いが弱まっている場所があることに気づく。

 もうすでに灯油の効果は残ってないかもしれないけど、火を絶やさないようにすればスライムが消化のために体内の酸を消費し続けるだろう。そんな状態が続けば、しばらくすると体内の酸を使い果たしてスライムの体が縮む可能性が高い。


 勢いよく燃えている場所は灯油の効果にまかせて、私は火が小さくなりかけている場所を重点的にファイアで燃やし続けた。どれくらい時間が経ったのか、気がつくと火の勢いが弱くなると共にスライムの大きさも小さくなってきている。どうやら私の推論は正しかったみたいだ。

 スライムの核が見えてきたけど……さすがにあの大きさのスライムの核だからなのか、ものすごく大きい。もしかしたら軽自動車のタイヤと同じぐらいの大きさなのではないだろうか。


 金属バットで割れるかな、少し不安になりながらもスライムにジリジリと歩み寄る。まだ酸を撃ってくるかもしれないし、いつでもかわせるようにスライムの動きをよく見ながら、少し早足でバットが届く間合いに入った。


 思いっきり振り上げて核めがけてバットを振り下ろすと、核には当たったんだけどいつものスライムよりも内部にあるゼリー状のものが厚いのか、割れるまでには至らない。それでも何度もバットで殴り続けると、10回目ぐらいの攻撃でようやく核が割れて飛び散ったスライムの残骸もろとも消滅した。

 少しの間を置いて現れたのは核と同じぐらいの大きさの魔石と、装飾もほとんどない見た感じ普通のショートソードだった。ショートとは言っても、今の私の体だとロングソードよりも長いぐらいなんだけどね。


「おお、これは金属バット卒業のタイミングかもしれない」


 でもスライム相手だったら、このままバットで撲殺した方がいいような気がする。剣だと刃が通らなかったり、酸で溶かされてボロボロになりそうだし。

 しかし鞘までおまけで付いてくるとか、ダンジョンさんって気前がいいね。ショートソードを鞘に収めて、リュックに差し込んで背負い直した。もちろんリュックの中に剣が全部入るわけがないので、持ち手部分と鞘の3分の1ぐらいがバッグから出ているのでちょっと不格好かもしれない。


 タイヤと同じサイズの魔石なので、抱えるようにしないと持って帰れないのがつらいところだ。今日は大物との戦闘もあったし、これぐらいで切り上げようかと思っているとスライムが立ちふさがっていたところの奥には、さらにその先に続く道があるのが見えた。


 行き止まりかと思っていたんだけど、この先へ行くのは今度かなぁ。そんな風に考えていたら奥へと伸びる道の途中には大きな横穴が空いていて、穴の中から肌色の何かがはみ出ているのが見える。


 なんだろう、もしかして人が倒れている? グロ耐性はないので、死体とかは絶対に見たくない。胸中で必死にそう繰り返して願いながらも、ソロリソロリと近づいていく。だってうちの敷地内にあるダンジョンの中に、万が一死体が転がっているとか絶対にイヤじゃん。腐敗したら病気とかも発生するかもしれないし、さすがに我が家の敷地内でパンデミック発生は勘弁してほしい。


 亡くなっているなら穴を掘って埋葬してあげた方がいいだろうし、もしも息があるならなんとかして助けてあげたい。横穴に近づいて覗き込むと、さきほど想像したとおりに人間が倒れていた。もちろんどこの誰だかはわからない、少なくともまったく面識がない人だった。


 抱えている魔石を地面に置いてから、倒れている人のすぐそばまで恐る恐る近づいた。もしかしたら罠の可能性もあるし、警戒し過ぎて足りないということはないだろう。

 遠目にも胸がかすかに上下しているのがわかって、生きているのだと確信が持ててホッとした。少なくとも死んでいないのなら、回復する可能性だってあるだろうし……というか何故全裸なのか、胸の膨らみや股間を見るにほぼ間違いなく女性だ。

 肌が泥と血で汚れているのを見るに、もしかしたらさっきのスライムの間合いに不意に入ってしまって攻撃されてしまったのかもしれない。


 とりあえずさっき背負ったばかりのリュックを地面に下ろして、ファスナーを開けた。中から500mlのペットボトルぐらいのサイズのビンを取り出した。もしもの時を考えて念のための備えとして、探索者用の通販サイトで買った中級ポーションである。

 中身は薄いピンク色で台所洗剤みたいだけど、その回復効果はなかなかのものだとレビューには書かれていた。


 体に掛けても効果はあるらしいが、飲ませるのが一番回復量が多いらしい。口元に瓶を近づけて口内に少しだけ注ぎ込んでみたが、飲み込んでくれずに口の端からこぼれ出てしまう。


……仕方がない。見た目は少女でも中身がアラフォーおじさんな自分が、若い女性にこんなことをするのはすごく抵抗がある。しかし彼女の命には代えられないだろう。緊急救命措置だと割り切って、グイッと瓶に口を付けて中身をあおる。


 反射的に飲み込まないように気をつけながら、彼女の顎を上向きにして気道を確保してから、彼女の唇に自分のものを重ねる。自分の舌で彼女の舌を軽く抑えながら、喉の奥に口内のポーションを少しずつ流し込んだ。


 少しずつというのがよかったのか、コクリと小さく彼女の喉が動いて飲み込んでいるのがわかる。全部飲み終わったのを確認してから、呼吸するのを忘れていたことに気付いて、空気を大きく吸い込んだ。たった2分足らずのことだったけど、息を止めるのって苦しいよね。


 ポーションが効いて、ちゃんと目を覚ましてくれればいいな。さすがにレベルが上がって同じぐらいの年頃の女子に比べたらかなり力持ちになったとはいえ、この女性みたいな10代後半から20代前半の大人を担いで、あの階段を上り切れるとは思えない。


 しかしなんで全裸で倒れていたのか、そのあたりも気になる。通常なら見目のいい女性の全裸なんて見たら下心関係なくドキドキするものなのだが、残念ながらキレイだとは思うがそういう性的な感情は一切沸かなかった。体だけではなく精神的にも男だったころの自分とは違うことを自覚して、ちょっと凹んだのはここだけの話。


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