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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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26――ファイアスライム戦

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。

「トールちゃん! 魔力切れ―!!」


 スライムの体全体を包んでいた炎がほとんど鎮火して、ブヨブヨっとした半透明の本体が姿を現した。その中心に大きな核を私が視認した瞬間、背後でウォーターガンを撃ち続けていたさくらちゃんが息を荒げながらもそう叫ぶ。


 凪咲ちゃんと交代でずっとスライムに水を掛けつづけてくれていたから、元々入っていた私の魔力だけでは足りず、ふたりの魔力も補充しただろうことは想像に難くない。


「MPポーションを飲んで、魔力を回復させて! 完全に回復したら、ウォーターガンに魔力を補充してそのまま待機しておいて!!」


 スライムから目を離さずに言うと、後ろから『わかったー!』と返事が返ってきた。チラリと視線を向けると、凪咲ちゃんとさくらちゃんが辛そうな表情をしながらポーションを取り出してあおり飲んでいた。


 体内の魔力が著しく減ると、めまいや倦怠感が起こる人が多いらしい。私はあの巨大スライムとの戦いでそれの軽い症状を経験したけれど、MPの量が少ない人の方が起こる頻度が高くて症状も重いという話をネットで読んだことがある。

 それが真実なのだとしたら、ふたりが今感じているしんどさは結構なものなのだろう。


 それに輪をかけてファイアスライムの炎が掛けた水魔法を蒸発させたために、湿度の高いサウナのような状態になっている。私もさっきまでちょこまかと動き回っていたから、正直なところこの息苦しさと呼吸のスピードが相まって肺がちょっと痛い。


 体に纏う炎が復活したり、通常のスライムみたいに体内の液体を吐き出したりしてくる可能性もあるので、注意深く観察しながらファイアスライムとの間合いを詰める。氷空くんもそれに合わせて、私とは逆側から棍棒で殴りかかっていた。


「中身が厚すぎだろ! 棍棒だとあんまりダメージが入ってない気がするぞ」


 普通のスライム相手なら氷空くんの棍棒でも、一撃で核を潰せるぐらいのダメージは出せている。ただ目の前のファイアスライムは、その大きさに比例してゼリー状の粘液層が厚い。緩衝材になっているのか、氷空くんの攻撃は粘液層に吸収されているのかもしれない。


 私の剣はスライムを斬り裂いているけど、傷が浅いのかすぐに復元されて元の状態に戻っている。斬らずに突きで直接核を狙った方がいいのだろうか? ただここからだと核との距離が遠いので、真正面から剣を突き出した方が刃先が届くかもしれない。


 ちなみに攻略動画では、私たちより体が大きい中学生や高校生ぐらいの人たちが撮影しているものが多かったので、剣の長さも私の物より長いしそもそも手足の長さからして違う。


「氷空くん、ちょっとの間だけ注意を引きつけてもらってもいい?」


「い、いいけど……何するつもりなんだ?」


 私の突然のお願いに、氷空くんが戸惑ったように言葉を返してきた。一か八か、リーチが足りないなら深く刺さるように勢いをつければいい。


 私からの返答がないにも関わらず、氷空くんはファイアスライムの気を引くために跳ね返されながらも何度も棍棒で攻撃してくれている。今は反撃もせず大人しくしているファイアスライムだけど、急に強い攻撃をしてくる可能性も否定できない。


 ここで確実に倒すべきだ。私はそう考えて、助走分の距離を空けるためにスライムと距離を多めに取る。両手でしっかり剣を握って、いつでも突き出せるように構えた。足をしっかりと踏ん張って、足全体に意識を集中する。


 このボス戦への挑戦において、もしかしたら必要になるかもしれないと考えて、美桜さんにとっかかりだけ教えてもらった身体強化。魔力を全身に巡らせて、強化をしたい部分に意識を集中させると普段とは比べものにならないほどの力が得られるらしい。


 力と言っても筋力だったり、瞬発力だったり、防御力だったり。それぞれ必要なものは人によって違うだろう。私がこの瞬間に欲しいのは車のような加速力と、ジェット機みたいな推進力だ。


 ぶっつけ本番なんだけど、できればこれを成功させて決着をつけたい。失敗せずに済むように丁寧に自分の中の魔力を操って、太ももから足の指の先までたっぷりと纏う。

 足の裏がビリビリと痺れのようなものを感じるけど、それが正しい反応なのかどうかもわからない。それでもしっかりと土を掴むように指に力を入れて、スニーカーで地面を踏みしめた。


「ハァッ!」


 引き絞られた弓から解き放たれた矢のように、地面を蹴った私の体が普段の何倍ものスピードでスライムへと突き進む。姿勢を保つことに必死になっていると、両手にガツンと衝撃が走った。視線を向けるとまるで狙ったかのように、スライムの核のど真ん中に剣先が刺さっていた。もっともっと奥に刺さるように、必死に腕をグッと伸ばす。


「トール、行け!」


「トールちゃん、頑張れ!」


「ぶち抜けー!!」


 3人それぞれの声援が、私の背中を押してくれている気がした。手首を返して、グリンと刃先を回す。身体強化がいつまで続くのかはわからないけど、筋力が上がっているうちに核を斬り裂こう。


「ふんぬぐぐぐ……っ!!」


 ものすごく硬い、あと水の中で動いている時のような負荷が剣にズシンと掛かっている。口から汚いうめき声が漏れてしまうのも仕方がない、本当にジリジリとしか剣が進んでいかない。


「んあぁぁっ!!」


 それでもこのままじっくり斬っていてはジリ貧だと察した私は、裂帛の気合と言うには程遠いけれども、大声を上げて全力を込めて剣を振り切った。核をくの字に斬られたファイアスライムは、その形を維持できなくなったのかバシャンと粘液を撒き散らしながら崩れ落ちた。核がゴトンと地面に落下したあと、もしかしたら第2形態があるかもしれないと喜びの声を上げた氷空くんたちを手で制する。


 しばらくすると核が消えて、大きな魔石と革製の鎧が代わりに現れた。どうやら間違いなく倒せたみたいなので、これ以上の警戒は必要なさそうだ。


「トールちゃん……もう、喜んでもいい?」


 私に一回制されて喜ぶタイミングを外されたからか、テンションが若干落ち着いているさくらちゃんがおずおずと私に尋ねてくる。邪魔しちゃって申し訳ないなと思いつつもコクリと頷くと、さくらちゃんと凪咲ちゃんが私に抱きついてきた。


「すごいよ、トールちゃん! あのすごいスピードが出てたのなに!?」


「アンタねぇ、無茶するんじゃないわよ! すごく心配したんだから!!」


 片方はテンション高く、もう片方は涙を目の端に浮かべながらの抱擁だったのだけど、私をすごく心配してくれたことが感じられてなんだかむず痒い。ただ飛び散った粘液がふたりにも付いてしまうので、ポンポンとふたりの背中を優しく叩いて離れてもらった。


 普通のスライムは体に酸を溜め込んでいるけど、ファイアスライムの粘液からはほんの少し油のような臭いがする。それぞれの特性から中の粘液の成分が違うのかもしれない。


「トール、お前いつ身体強化なんて身に付けてたんだよ?」


 近づいてきた氷空くんに聞かれてぶっつけ本番だったことを話すと、氷空くんと凪咲ちゃんにめちゃくちゃ叱られてしまった。確かに彼らが言うようにうまくできたからよかったようなものの、失敗して怪我を負っていた可能性の方が高かったかもしれない。


 別に自己犠牲とかそんな大層なことを考えていたわけではなく、ただ大人として彼ら3人を守りたかった上での行動だったのだけど、その彼らに心配を掛けてしまっては本末転倒だ。

 今後はなるべく無茶はしないということを強く約束させられて、ようやくふたりはお説教モードをやめてくれた。そんな中でさくらちゃんは、ドロップした革鎧をマジマジと観察していたようだ。


「ねぇ、この鎧はどうするの?」


 その質問に自然と前衛である私と氷空くんに、注目が集まった。うーん、第1階層のボスからドロップした防具、ということを考えると普通にお店で売られている普段着よりはきっと防御力が高いだろう。

 ただ私が現在着ている探索者専用の服と比べると、こっちの方がおそらく比べものにならないぐらい防御力が高いと思うんだよね、お値段も高いし。だったら氷空くんの守りを固める方が彼の安全も確保できるし、パーティとしても安定感が出るのではないだろうか。


「氷空くんが使っていいんじゃないかな、一番危ないポジションだし」


 私がそう言うと真っ先に凪咲ちゃんが頷いて、さくらちゃんも少し間を置いたあとでこくりと頷いた。多分彼女は私の身の安全のことも考えてくれたのだろう。たださくらちゃんの視線が私の足の先から頭のてっぺんまで一往復したところから察するに、私と同じく現在の装備の方が強力なのではという結論に至ったのだろう。


 当の氷空くんは自分の守りだけが強化されることにかなり遠慮していたけど、凪咲ちゃんに『魔物に一番近いところにいるのは氷空でしょ、いいから着る!』と強めに言われてしぶしぶ装備していた。


 黒に染まった革鎧はベスト型になっていて、丈は腰のあたりまであるタイプだ。スピードで翻弄するアタッカーと回避盾を兼ねている氷空くんには、ピッタリの防具だろう。すね当てやひざ当ても追加すれば万全の状態になるんだろうけど、それはまた追々でいいんじゃないかな。まずは氷空くんが鎧を着慣れるところからはじめないと。


 鎧といっしょにケープのように両肩に掛けるショルダーガードがついてきたのもお得な気がする。棍棒を振り上げても邪魔にならない柔らかさなので、武器が剣に変わったとしても違和感なく使えそうだ。


 ファイアスライムが立ちふさがっていた背後に、いつの間にか第2階層に続く階段が現れていた。でも今日はものすごく疲れたし、視線で3人に下りるかどうかを問いかけると揃って首を横に振っていた。


 すでにMPポーションのおかげで魔力が回復している後衛のふたりも、はじめてのボス戦の緊張感で精神的に疲れたようだ。強制的に閉められていた私たちの背後の扉も解放されているし、今日はこのまま引き返すことにしよう。


 魔物の対処は3人に任せて、私が大きな魔石をよいしょと両手で持ち上げた。とは言ってもそれほど重さは感じないので、もしかしたら今日のボス戦でまたレベルが上がったのかもしれない。


 私が少し出しゃばり過ぎてしまったのかもしれないけど、こんな感じで私たちのパーティがはじめて挑むボス戦は終了した。全員が怪我なく戻ってこれたんだから、まぁ結果オーライだと考えよう。


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