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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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19――できること会議


 全員がテーブルに腰を落ち着けてから、幼なじみ3人組はそれぞれが一生懸命に自己紹介を交えつつ『自分は何ができるのか』を話してくれた。まだ小学生だし自分の得意なことを意識して話す機会なんて、ほとんどないのだろう。緊張ながらも考えながら話している姿は、なんとなくほほえましい。


 ただこの間受けた研修では非常に悲しいことだけど、ダンジョンではパーティ内で裏切りが発生したり、わざとパーティメンバーを囮にして魔物から逃げるみたいな事例が、それなりに起こっていることを聞かされた。


 残念ながらどんなにゲームみたいにレベルやスキルが存在していても、命はみんな等しくひとつしかない。だから『パーティメンバーであっても過度に信用せずに、自分の情報を他人に教えすぎないよう』という講師の先生の言葉には非常に納得できた。

 ダンジョン協会からの報告により、探索庁でも探索者への厳罰化や探索者による自警団の組織などを対策を行っているようだけど、効果は今ひとつのようだ。


 そんなことを考えながら氷空くんの自己紹介を聞いていたのだが、あっさりと自分のステータスや所持しているスキルの詳細を明かそうとしたので、慌てて話を止めた。

 きょとん、とした彼らには改めて自分のことを仲間であっても明かし過ぎないように説明したのだが、あまりピンとはきていないようだ。おそらく研修のときもそうだったんだろうね。なまじ3人が幼なじみで信頼し合っているため、パーティに入った私にもなんでも話して大丈夫みたいな認識でいるみたいだ。


 もちろん自分の都合の良いように彼らを利用するつもりなんてさらさらないが、信用できる材料を集めるまで誰かを観察することが探索者には必須のテクニックだ。そのための練習相手として、私を使って実体験で学んでほしいと思っている。


 根気よく説明したからか彼らも納得してくれたので、ステータスやスキル以外のことを聞き出し、おおよその人柄や特性を知ることができた。


 まず氷空くんは、男の子らしく前衛を希望した。この年頃の男子って、誰かを守るヒーローなんかに憧れる時期だよね。恥ずかしい話だけど、私にも似たような覚えがある。

 ただタンクというよりはスピードで攻撃を避けつつ、相手を引き付ける回避盾の方が向いていそうな印象を受けた。氷空くんが話してるときは静止が間に合わなくて詳しく知ってしまったんだけど、彼のスキルはフェイントと呼ばれるものらしい。


「オレ、サッカーでフォワードやってたから。サッカーでもフェイントとか使うじゃん、だからそういうスキルをもらえたんじゃないか?」


「そうかもしれないね。でも氷空くん、探索者になっちゃったからもうサッカーのプロ選手とかは目指せなくなったけど、それはいいの?」


 何も考えずに質問してから、これはする必要のない質問だったんじゃないかと口に出したことを後悔した。氷空くんがしっかりと将来のことを考えて探索者を志望したのかどうかもわからないし、もしも探索者に飽きたときには、またサッカーの道に戻ろうみたいな軽い気持ちだったならショックだよね。

 一度探索者になってしまったら、一般的なサッカーは二度とできなくなる。それは探索者ではない人間と比べると、身体能力が桁違いに強化されるからだ。レベルが上がることによって、理論上は青天井に成長していくらしいからね。


 それにレベル1でスキルを所持している人って、普段の生活でもそのスキルへの習熟度が貯まる生活習慣を送っていた人だという研究結果もあるらしい。もしそれが正しい説なのだとしたら、彼が子供なりに真剣にサッカーという競技へと取り組んでいたという証左なのは火を見るより明らかだ。


 そんな私の心配をよそに、氷空くんは何の含みもない笑顔をニカッと浮かべて『いいんだよ、サッカーよりも探索者の方が面白そうだしな』と言った。なるほど、少々言い方は軽いが、本人がちゃんと納得しているのであれば、私がゴチャゴチャ言う話でもないし。それでいいのではないだろうか。


 ちなみにフェイントというスキルは、所持している探索者もそれなりの数がいるので、そのためにスキルの詳細も知れ渡っている。攻撃と回避、どちらにも効果があるパッシブスキルである。

 ちなみにパッシブスキルとは、特に意識しなくても常時発動しているスキルのことだ。気配察知とかそういうスキルと同じ種類で、前衛を担当する人がよく覚えるらしい。


 凪咲ちゃんとさくらちゃんは、小学生の女子だから当然なのだが体力と力が低いみたいだ。凪咲ちゃんは体操教室に通っていたらしいので、氷空くんの例を考えるとそれに類したスキルを将来的に覚えるかもしれない。例えば柔軟スキルとかね。ダンジョンに行く準備をしているときに調べてみたのだが、柔軟スキルは物理攻撃を受けた際に、ダメージを軽減できるスキルらしい。

 スキルは持っているけど、攻撃スキルではないことだけはわかったので、もしかしたらもうこのスキルを持っているのかもしれない。勝ち気な性格らしい彼女が、何故攻撃スキルではなかったのかと少し不満そうに愚痴っていたのが印象的だった。


 さくらちゃんは現在進行形でピアノを習っているそうで、譜面を見て何度か練習するとその曲が弾けるようになるという特技があるそうだ。彼女の場合は、持っているとすれば器用スキルかもしれない。

 このスキルはその名のとおり、他の人よりも手先が器用な人に発現しやすいらしい。その効果としては鍵開けや罠解除みたいな細かい作業が上手になったり、弓などの飛び道具系の武器を扱う際に命中率が上がる効果がある、と研修でもらった資料に書いてあった。


 氷空くんは既にスキルを所持しているとわかったが、他の2人もレベル1なのにスキルが発現しているのだとしたら、とんでもない資質があるんだなぁと羨ましく思った。

 レベル1の時に詳しくステータスを確認していなかったけど、スキルについてはおそらく何も発現していなかったであろう自分はまごうことなく凡人なんだなぁと少ししょんぼりしてしまった。


「それで、トールは前衛なのか、それとも後衛か?」


 氷空くんにそう尋ねられて、私は少し考えを巡らせてから答える。


「後衛なのかな、一応魔法系のスキルが2つ使えるよ」


「なんでオレたちと同じレベル1なのに、トールだけスキルがふたつもあるんだよ!?」


 驚いた氷空くんが大きな声でそう叫んだので、思わず立ち上がって対面に座っている氷空くんの口を両手で塞ぐ。


「シッ、スキルとかステータスは他の人に聞かれちゃダメな個人情報だって、さっきも言ったでしょ!」


「むごっ……ふがっ……」


 声を潜めながらも強めに言うと、氷空くんは顔を赤くしながらコクコクと何度か素早くうなずいた。なんで顔が赤いのかと思ったら、口といっしょに鼻も押さえてしまっていたので息ができなかったのだろう。そこはまぁ、迂闊だった本人の自業自得だということで。


 それよりもみんなと比べてレベルが高い理由については、まだ和歌山のダンジョンの存在がトップシークレットなので正直に話すことができない。それを誤魔化すための言い訳を、あらかじめ美桜さんと小百合さんに相談していたんだよね。


 そうしたらふたりとも『紛争があった国の出身だからでいいんじゃない?』との答えが返ってきた。紛争という言葉だけで重たい話だと想像がつくし、さらに踏み込んでくる人はあまりいないだろう。

 それでも万が一に深堀りされた時のために、詳細な設定を探索庁から提供してもらっている。しかしそれはありがたいんだけど、架空の話で不幸ぶっているようで罪悪感に胸が痛むんだよね。


 けれども他に説得力のある言い訳があるわけでもないし、罪悪感に胸をチクチクと刺されながら簡単な言葉で3人に説明した。国軍とそれに対抗する民間組織、その戦いが実際に起こっている小国出身であると曖昧に説明すると、3人とも気まずそうにまるで苦いものでも食べたかのような表情を浮かべた。


「そっか、アンタも苦労しているのね……」


「トールちゃん、かわいそう。この国は戦争とかないから安心だよ。一緒にダンジョン探索、頑張ろうね」


 私を氷空くんを巡るライバルだと認識しているはずの凪咲ちゃんが優しげな笑みを浮かべつつ私の頭を無で、さくらちゃんは正面から私に抱きつきながら一生懸命にそう言った。うぅ……優しい子たちで嬉しいけど、この子たちが純粋で優しい子だと知れば知るほど、自分が汚れた大人であることを自覚してしまうね。


「まぁ、アレだ。この間会ったばっかりだけど、オレたちはお前のこと大事な仲間だと思ってるから。頼ってくれていいぜ」


 照れたように視線を逸らしつつそう言う男子小学生、別に女子になったからって男子に恋愛感情を覚えるような兆しは今のところないけど、なんだかかわいらしく思えてしまった。

 小動物を愛でるのと同じ感覚なんじゃないかな、もちろんふたりの女子たちもおなじカテゴリに入っていると思う。

 彼らが私を大事な仲間だと思ってくれている分、同じ気持ち以上のものを彼らに返していきたい。会ったばかりの私をここまで信用している警戒感の無さも心配だし、私が大人として守らなけねば。


 ちなみにヒールを覚えた理由としては、あの巨大スライムを倒した経験値がものすごく膨大だったようで、レベルがかなり上がったからだった。現在の私のレベルは15、なんとヒールの他にサンダーという初級雷魔法まで覚えてしまった。

 さすがにこの歳でスキルを3つも覚えているのはかなりおかしいし、異端だと思われそうなので所持スキルが2つあることだけを明らかにしておく。


 まぁファイアについては、探索をはじめたらすぐに使うだろうからあっという間にバレると思う。でも自分が『簡単に他人にはスキルなどを教えるな』と言った以上、率先して自分のスキルを明かしてしまったら説得力がなくなるもんね。


 ステータスの中では賢さステータスの成長が著しいので、RPGゲームに当てはめると私のジョブはやっぱり魔法使いになるのかな。でも回復魔法も使えるようになったので、どちらかというと賢者ポジションなのかもしれないが。


「しかしそうなると前衛はオレだけなんだな、魔物が1匹とか2匹ぐらいならなんとかなるだろうけど、それ以上になるとキビしそうだ」


 わんぱくな小学生男子って何も考えずに敵に突っ込んでいくイメージしかなかったのだが、それに反して氷空くんは存外冷静に考えられるようだ。そんな彼に私は不敵に笑って、首に巻いていたペンダントを外した。


「おいおい、トール。まさかそれで戦う気じゃないだろうな」


 呆れたように小さな剣のペンダントトップを見て、笑いながら言った氷空くん。そんな彼に大人気なく勝ち誇ったような笑みを返しながら、私は縮小化の解除ワードを口の中で小さくモゴモゴと呟いた。すると大きくなったショートソードが私の手に現れたので、落とさないように両手でしっかり持つ。


 大人が持つとショートソードに分類される大きさだけど、小学生女子の体躯でしかない今の私が持てばロングソードみたいになってしまう。ミスリルだから軽いんだけど、その長さに少し持ちにくさを感じてしまう。


 こういうヒーローじみたギミックは、小学生男子にとっては大好物だよね。『なんだよこれ、スゲー!』とテンションが上がった氷空くんに、呆れたような視線を向けていた凪咲ちゃんとさくらちゃんの冷めた表情が印象的だった。


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