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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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19/25

18――渋谷ダンジョンへ


 東京にやって来たあの日、到着したその足で美桜さんと一緒に訪れた渋谷ダンジョン。今日はその場所へと私ひとりで向かっている。山手線に乗って車窓をぼんやりと眺めながら、この後の予定を思い返していた。


 研修の日に偶然仲良くなった小学生3人とお試しパーティを組むことになったので、じゃあ早速みんなで一緒に行ってみようという話になったんだよね。

 彼らは私が通う予定の小学校とは異なる学区に住んでいるらしいんだけど、渋谷ダンジョンには電車で30分ぐらいの場所だと言っていたから、方角が違うだけでダンジョンとの距離はうちのタワマンとそれほど違いはなさそうだ。


 一般人が着る普通の服と探索者がダンジョンに入るときに着る服って、どうやら素材がまったく違うらしい。酸で溶けにくいとか刃物で切られても切れないとか燃えにくいとか、そういう効果に長けているらしい。ダンジョンから産出された未知の強靭な素材によっていろいろな耐性が得られるらしく、こういう話を聞くと謎の多い素材がまだまだあるんだなぁと不思議な気持ちになる。

 物置の地下の発生したダンジョンに下りていたときは普通の服でやり過ごせていたので、私としては普段着で探索に向かおうかと考えていたのだけど、美桜さんからすごい勢いで止められてしまった。


「トールちゃん、まさか普通の服でダンジョンに行くつもりじゃないでしょうね?」


 最近の彼女は私への敬語とさん付けをやめて、お姉ちゃんぶりたいのかちゃん付けで呼んでくる。どれだけ中身が大人だと言い張っても、外見上は今の私が美桜さんより年下にしか見えないのは、覆しようがない事実だ。別にちゃん付けされるのはなんとも思わないのだが、中身がおじさんなのを知っているのだから過剰な子供扱いはやめてほしい。


「だって探索者用の服って高いじゃないですか。それだったら普通の服を使い捨てにした方がまだコスパが良いので」


「トールちゃん、普通に生活してたら使い切れないぐらいのお金を持ってるじゃん。それに命はお金で買えないし、もしもトールちゃんがダンジョンで大怪我なんてしたらお姉ちゃん泣くからね! しかも大声でギャン泣きするから、ギャン泣き!!」


 なんというか女子高生が衆人環視の中でギャン泣きしたとしても、元の私みたいな中年男性がギャン泣きするよりは、周りの人も暖かい目で見てくれるのではないだろうか。まぁこんな風に冗談めかしたことを言いながらも本気で私のことを心配してくれているのもわかるし、そもそも美桜さんを泣かせたくはないので、しぶしぶ探索者用の服や装備が売っている防具屋さんに小百合さんと美桜さんの3人で行ってきた。


 感想としてはなんていうか、コスプレみたいな服が多いお店だった。もう保護者ふたりが持ってくる服がね、ドレスアーマーみたいなヒラヒラだったり派手なものが多かったので。これでどうやってダンジョンで戦うのかと、私の想像力ではまったくわからなかった。

 試着もしてみたけど素材の伸縮性とかはすごいのだが、当然ながらこんなデザインの服は着慣れてないので動きにくく感じて仕方がない。しかもお値段がね、一着200万円ぐらいするものだから……せっかくふたりに選んでもらったのに申し訳ないが、元の場所に戻してきてもらいました。

 しかもこれで手頃な値段だと聞いて、めちゃくちゃ恐ろしい世界だと感じた。


 ダンジョン協会がダンジョン前のロビーから入れる更衣室を用意してはいるが、荷物が増えるし着替えるのが面倒なので家から着ていける服がいいと考えている。さすがにひと目で探索者だとわかるような格好では、恥ずかしくて往来を歩けないと小百合さんと美桜さんに伏してお願いした。

 最初に渋谷ダンジョンに行ったときも感じたのだが、鎧姿とかで日常の風景に混じるのってなんだか場違いで恥ずかしく思っちゃうんだよね。

 いやもちろん、他の探索者さんたちに対して恥ずかしいと悪口を言っているわけではない。ただ私自身は遠慮したいというだけなのだ。


 私としてはズボン一択なのだが、ふたりはどうしてもスカートを履かせたいらしく、持ってこられた服には一着もスボンがなかった。ジーンズとかいいと思うんだ、汚れも目立たないし丈夫だし。

 いくらそう言い募っても首を振らないふたりの強いこだわりに、私としては首を傾げることしかできなかった。なにかスカートにこだわる強い理由があるのだろうか……うーん、わからん。


 私ぐらいの外見年齢の女の子がよく着ている服、ぼんやりとした通勤電車内での記憶を呼び起こしながら考えていると、ひとつ思いつくものがあった。それは制服である。


 山のように積み重ねられている服の中から制服っぽいブラウスや、明るいブラウンを基調に白や赤のラインでチェック模様が描かれているプリーツスカートを発掘する。多分私が履くと膝より長くなるだろうけど、その方が嬉しい。だって魔物を相手に戦うための服なのだから、戦闘中に捲れて下着が周りの人に丸見えになったら困るし。


 防御力を考えるなら上着はブレザーを選ぶべきだろうけど、私はすみれ色のニットカーディガンを選んだ。タグを見ると温度調節や耐刃・耐魔法加工がされているらしいので、防御力で考えると普通のブレザーよりも比べ物にならないぐらい強いのではないだろうか。


「えーっ、地味じゃない? それだと制服みたいになっちゃうよ」


「あんまり目立ちたくないですし、これでも私からすれば十分オシャレ着なのですが」


 洗い替えで色違いのセットをもうふたつ買って、合計3セット購入することにした。合計で約600万円也、一般人から見ると服にこの値付けは本気で暴利と思うんだけど、付与されている効果を見ると安いと感じてしまうのが逆に不条理だ。

 だってこのブラウスだけでも暴漢にナイフで襲われたとして、傷ひとつ負わないぐらいの防御性能だからね。


「靴はどうしようか、制服みたいにしたいならローファーにする?」


「動きやすさを考えると、スニーカーの方がいいかもしれないですよね。これは探索者用じゃなくて、一般的なものでも大丈夫でしょう?」


 私が美桜さんに尋ねると、ふるふると首を横に振られた。あの巨大スライムに溶かされた美桜さんの装備は全て、様々な属性に対する耐性付与がかかっていたらしい。それでも全ロストしてしまったのが、もしかしたらトラウマになっているのかもしれない。

 強く強く勧められて押し切られた私は、結局ものすごく高価な探索者用スニーカーを買うことになった。ものすごく散財したなぁ、これからどんどん成長していく予定だから、この装備を使える期間は短そうだ。中古装備を買い取ってくれるお店が存在して、少しでも手元にお金が戻ってくるからまだマシかもしれないが。


 そんな経緯で購入した装備を身に着けてこうして街を歩いても、周囲の人は誰もこれが探索者専用装備だとは思わないみたいで、いつも通りかわいい子供を愛でるような好意的な視線が向けられる。

 あの日と変わらずダンジョンの上にそびえ立つショッピングモールの中に入り、エスカレーターに乗って地下へと向かう。


 正規に発行された探索者証だから大丈夫だと確信していたけど、途中のゲートをちゃんと通過できてホッとした。巨大スライムからドロップしたショートソードは、探索者試験に合格したお祝いに和明さんが鞘と剣に縮小化の魔法をかけてくれたので、ペンダントに加工してもらって首に掛けている。大きくするときは『リターン』とキーワードを言えば、元の大きさに戻ってくれるのがすごく便利だ。


 氷空くんたち3人とは、ダンジョン入口近くの広い待機スペースで合流することになっている。約束の時間まではまだ15分ぐらいあるので、椅子に座って待っていよう。この間美桜さんと一緒に来たときに出会ったかなたんさんとちひろさんは、周囲を見回してみたけど今日はいないみたいだ。


 冷静に考えれば美桜さんの友達なんだから、同じように学校に行ってる時間帯だよね。受付カウンターにも視線を向けたけど、豊岡さんも不在のようだ。多分新しいダンジョンについてのあれこれで忙しいんだろうね。

 前に来たときと比べても受付の人数は減ってはいないみたいだから、ダンジョン協会全体がそちらに掛かりきりというわけでもなさそうだ。


「あっ……」


 突然後ろからそんな小さなつぶやきが聞こえたので振り向くと、何故か私を見て固まっている幼なじみ3人組がいた。どうしたんだろう、と内心で首を傾げつつ椅子から立ち上がって彼らに近づく。


「こんにちは、時間ピッタリだね」


 私が笑顔でそう言うと、何故か氷空くんは私をまっすぐに見ずに視線を逸らす。もしかしたら機嫌が悪いのだろうかと思って凪咲ちゃんとさくらちゃんに視線を移すと、凪咲ちゃんは『ぐぬぬ』となにやらくやしそうに私を見ていた。


 逆にさくらちゃんは硬直から解けたあとは、『トールちゃん、かわいいー』と花でも飛ばしていそうなぐらい楽しそうな笑顔で駆け寄ってきた。


「みんなも私服なんだね、一度家に帰って着替えてきたの?」


「ううん、うちの学校って制服じゃないから。ランドセルとリュックを交換するために、一度家には帰ったんだけどね」


 私が尋ねると、さくらちゃんが答えてくれた。私がはるか昔に和歌山で通っていた小学校は制服があったので、毎日服を選ばなきゃいけない私服登校は大変そうだなぁと思う。

 子供本人はいろいろな服を着れて楽しいかもしれないけど、それを用意しなきゃいけない親御さんは手間もお金も掛かりそうだなぁ。


 私とさくらちゃんが話していると、ススッと静かに凪咲ちゃんがそばに近づいてきて『悔しいけどその格好、ちょっと大人っぽくて似合ってるじゃない』と素直じゃない褒め言葉を言ってくれた。私から見ると中・高生の制服っぽい格好でしかないんだけど、私服で学校に通っている彼女たちにとっては制服=年上のお姉さんみたいな憧れを持っているのかもしれない。


 氷空くんは私の方に視線を向けては、居心地悪そうに視線を逸らすことを繰り返している。なんだろう、私のことを女の子として意識している気配が伝わってくる。凪咲ちゃんとさくらちゃんみたいなかわいい幼なじみがいて、なんで私に矢印が向くのか。もしかしたらギャップに弱いのか、この子?


 どこか浮き足立ったような空気をなんとかやり過ごして、私が座っていたテーブル席に3人を座らせた。研修で学んだようにパーティを組んでダンジョンに潜るなら、ある程度自分がどういうことができるのかをパーティメンバー内で共有しておく必要があるもんね。


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