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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき


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2/9

01――若返って女子になった

本日はプロローグと第01話の同時更新です。


 ある日、目が覚めたら、若返った挙げ句、少女になっていた。


 心の中で童謡のリズムっぽく無理やりな感じに歌ってはみたものの、なんらこの状況が変化することはなかった。眠りに就く前は『三原 徹(みはら とおる)』という39歳、アラフォーのおじさんだったはずなのだが。


 別の誰かに魂だけ憑依したとか実は転生して少女に生まれ変わったとか、そういう創作物によくありがちな状況ではなさそうだ。何故なら目が覚めたのは、実家の自分の部屋だったからだ。


 少し自己紹介というか、自分語りをして状況を整理しよう。

 そもそもここには自分ひとりしかいないのに自己紹介って誰にだよ、という虚しいツッコミを反射的に入れてしまった。

 ひとり暮らしをしているとひとり言が多くなるという話を聞いたことがあるかもしれないが、実は実際よくあることなのだと声を大にして言いたい。


 両親の間にひとりっ子として生まれた私は、特に困窮することもなく大学まで行かせてもらえたし、習い事などを含めて大人になるまで割と不自由なく育ててもらえたと思う。

 新卒で入った会社で働きながら、自己満足だけどほんの少しの金額を両親に仕送りしつつ、汗水を垂らして必死に働いた。入社3年目にこれまでとはまったく畑違いの部署に異動したこともあり、新しい業務に必要な資格や知識の習得にたくさんの時間を取られて実家にも帰省できず足がかなり遠のいていた。

 両親との関わりが、たまに電話で連絡するぐらいの希薄な関係になっていることに気づいたのは、働きはじめて10年ほど経ったころだったように思う。


 もちろん仕送りは続けていたし、電話でのやり取りは変わらずにあった。その度に仕送りについてお礼を言われるのはなんだかくすぐったかったけど、『また明日からも仕事頑張ろう』というモチベーションにもなっていたようにも思う。


 世の中は『ダンジョン攻略がどうだ』とか『最強の探索者は誰だ』などと賑やかだったが、私の周囲に限って言えばそんなことは遠い別世界の話だと感じるぐらいに穏やかだった。

 もちろんダンジョンが存在する日本でこうして平和に暮らせているのは、探索者である彼らの頑張りのおかげだと感謝はしている。だけど私たちが暮らす領域に魔物が姿を見せることもダンジョンから溢れ出てくることもまったくなかったので、ある意味平和ボケのような感覚になるのは仕方のないことだろう。


 そんなある日、両親が突然の交通事故で亡くなったことを、警察からの電話で知らされた。


 あまりのショックにまるで夢の中にいるかのような感覚で朦朧としながらも、ハッと気がついた時には遺体の火葬も終わって実家の居間でぼんやりと座り込んでいた。

 残念ながら親しい親戚もおらず、頼れるのは子供の頃から私たち家族のことを知っている近所の人たちだけだったのだが、どうやら私はボーッとした状態でも彼らの協力のおかげでなんとかうまくやれたようだ。


 先述した異動先の部署がIT技術系で仕事に必要な技術と資格を取得し、実務経験はすでに独立できるぐらいに蓄えられている。いつかは独立をと考えていたのだが、会社からかなり離れた実家と遺産を受け継いだ今が独立のちょうどいいきっかけなのではないかと思えた。

 実家はもう古くなり土地もそれほど広くはないが、静かな環境の中で仕事に没頭できるのはメリットだろう。元々の貯蓄と両親の遺産、そして事故の保険金を合わせれば贅沢をせず自分を律した生活をするのであれば、人生の幕が下りるまでのんびりと生きていけそうだ。


 会社を退社するための手続きや両親の遺品整理など、引っ越して生活基盤をこちらに移すのに半年ぐらいはかかったがなんとか居心地のいい空間になったと思う。ネット回線も高速なものに契約し直したので、仕事関係も何ら問題はない……後から思えば問題がないわけがないのだけど、その時の私は冷静な判断ができなかったのだろう。


 ちょうどその頃に両親を車で轢いた上に逃げた男が捕まったと警察から連絡が来て、相手の保険会社と協議した結果、無事に追加の保険金が支払われた。これがかなり莫大な金額で、念のためにいくつかの銀行に預金を分けたりもした。両親の命の対価として考えるのであれば、決して高いとも思えなかったのだが。


 思い返せばその日が、私が男性でいられた最後の日だったと思う。特に苦しい思いをすることはなく、眠りが妨げられたわけでもない。いつもどおりに翌日の朝に起床すると、昨日までの自分とは似ても似つかない容姿の少女になっていた。

 しかも鏡の前に立って自分の姿を写したところ、少女の前に『美』がつくだろうことは容易に想像できるぐらいの容姿だ。


「……とりあえず、赤ちゃんや幼児まで若返らなくてよかった、のかな?」


 思わず呟いた言葉は、自分の声とは思えないくらい鈴を鳴らしたような声で再生されていた。肉声にこういう表現が合っているのかはわからないが『かわいい』とか『愛らしい』と表現しても差し障りがないように聞こえる。

 少し舌足らずなところもチャームポイントだろう。ただその声によって間違いなく自分が少女になってしまったことを否応なく自覚して、ちょっとだけ気分が落ち込んだ。しかし次の瞬間、足のふくらはぎ付近まで伸びた銀髪が目に入った。

 声や髪の長さから勝手に少女だと思い込んでいたのだが、もしかしたら声変わり前の美少年の可能性だってある。


 一縷の望みをこめて自分の股間を確認してみたが、残念ながら長年連れ添った相棒は存在せずに、なだらかな丘のような光景が目に入った。私もいい歳をしたおじさんなので、過去に複数の女性とお付き合いをして、そういう関係になった経験だってある。

 だが大人の女性には陰毛が生えていて、記憶にある女性の股間と現在の私の股間が一緒の状態なのかはパッと見では判断が難しい。


 まぁ物理的な肉体の性別は男性と女性しかおらず、男性として過ごしてきた私の子供時代の記憶と現在の私の股間は全然違う状態なのだから、女性になっていると断定してもいいのではないだろうか。稀に男性と女性の特徴を同時に持ち合わせた子供が産まれることもあるようだけど、ここではそれは横においておこう。


 このような状況だと認識しても私の中には、元のアラフォーおじさんに戻りたいという気持ちはほとんどなかった。贅沢をしなければ働かなくても死ぬまで暮らしていけるだけの金はあるし、雨風に曝されずに住める家もある。仕事は『声が出なくなった』などと理由をこじつけてメールでのやり取りのみに切り替え、成果物をネット経由で提出すればこれまで通りにこなせるのではないだろうか。

 この家まで様子を見に来られたらヤバいかもしれないが、現在付き合いのあるクライアントはついこの間まで働いていた会社のある地方に集中しているから、さすがにこんな遠いところまでは来ないと思いたい。独立時に『引き続き業務をお願いしたい』と声を掛けてくれた会社ばかりなのだから、それも当然なのだが。


 ちょうど引っ越しや諸々の行政手続きなどを理由に仕事はしばらくストップしているので、ひとまず体調不良ということでその期間を延長しようと脳内で漠然と段取りを決める。

 それよりも今は自分の身なりを整える方が大事だろう。なにせ下着はサイズが合っていないためにズリ落ちてしまっていて下半身が丸出しになっており、上半身もメンズのMサイズTシャツがぶかぶかなワンピース状態になっているのだから。こんな姿では外にも出れない、というかこの蒼みがかった銀髪で外を歩いていたら、近所のじいさんばあさんの好奇心と警戒心を激しく刺激してしまうだろう。

 ただでさえこの田舎町に住んでいる高齢者は、地元で顔を知っている人間以外を疎ましく思う傾向がある。悪い意味での仲間意識というか、身内意識みたいなものがコミュニティに根を張っているのだ。


 一度地域の外に出た私が再び故郷に戻ってきても受け入れてもらえたのは、長く地域に貢献していた両親の息子だからという理由に他ならない。『田舎ここを捨てて出ていったくせに』という視線で見られることもたまにあるが、それを表立って口に出さないぐらいの情は持たれているのだろう。


「しばらくはママゾンに頼むかなぁ、服も食料も買えるし。外に出られたとしても、この体だと重たい荷物も持てないだろうから」


 ママゾンとは大手のネットショッピングサイトである。玄関先についこの間大き目の宅配ボックスを業者に頼んで取り付けてもらったので、置き配にしてそこに荷物を入れてもらい、夜中にでも回収すればご近所さんたちとは顔を合わせずに済むかもしれない。


 まずは現在の体に合いそうなサイズの子供服を調達しよう。下半身丸出しのままで行儀が悪いが、PCデスクの前に座ってノートパソコンを立ち上げる。ママゾンのサイトを開いて『子供服 女の子』と検索すると色々な服のサムネイルが出てきた。


「パステルカラーとスカートの組み合わせが多すぎるな、さすがに中身がおっさんなのにこんな派手な服を着るのは……黒のTシャツとジーンズとかでいいんだけど」


 今の私の体だとSサイズぐらいでいけるだろうか。そんなことを考えながらサイズ表記を見ると、130とか140というよくわからない数字が並んでいた。少し画面を下にスクロールすると、くわしい解説が書かれていて助かった。

 どうやら子供服はサイズを身長で表示しているらしい。当然この体になったばかりの私が自分の身長など把握しているはずもなく、スクッと立ち上がってペン立てから黒いサインペンを取り出した。


 まぁ古い家だし、柱に油性インクでちょっと目印を書くぐらいなら特に問題はないだろう。柱に背中をピッタリとくっつけて背筋を伸ばしながら立つと、苦戦しながらもなんとか印をつけることができた。ただ途中で何度かペン先が髪に当たった気がするので、もしかしたら一部黒くなっているかもしれない。まぁ誰も見ないし、大丈夫か。


 この間遺品整理をした時に見つけていた母のメジャーを持ってきて床から目印までを測ると、142.5cmだった。ええと、こういう場合は140サイズを買えばいいのかな。それとも140を超えているから150にした方がいいのか……微妙な数字だからどっちにすればいいのかまったくわからない。着丈とか見てもちんぷんかんぷんだしなぁ、とりあえず何枚か140サイズを買ってみるか。小さかったら次はもうひとつ上のものを買おう。


 一応ウエストもメジャーで測って、それに近い数値のズボンやスカートを買っておく。ただ届くのは最短で明日なので、今日をなんとかやり過ごすために縛ったり折りたたんだりしながら自分の服を着る。ブカブカだけど下半身丸出しのスースー状態で庭には出られないのだから苦肉の策だ。

 もしもそんな状態の私の姿をご近所の誰かに見られでもしたら……あまりの大惨事に想像すらしたくない。


 異常に伸びた長い髪を自分で踏んで、ブチブチと抜けてしまったらめちゃくちゃ痛そうなので、髪ゴムで適当にまとめておいた。これで一応外に出る準備はできたと思う。でもさすがにふくらはぎとか足首近くまで髪が長いのは邪魔でしかないので、後でジャキジャキと短く切ってしまおう。


 ちなみに庭には物置があって、家の中の遺品整理をした時も『どうせガラクタばかりだから後回しでいいか』なんて面倒臭がって放置していた。もしかしたらそこに私の子供時代の服とかがあるかもしれない。

 そんな一縷の望みを掛けて覗いて見たら、なんとそこにはダンジョンの入口らしきものがパカリと口を開けていた。そこから地下に伸びる石造りの階段を見た私が極度の驚きのせいで呆然としてしまい、しばらくその場に立ち尽くしてしまったのは言うまでもない。


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