表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

16――今後について


「ふーん。私が学校に行ってる間、ママとのデートをとっても楽しんだみたいですね」


 今朝駄々をこねつつもなんとか登校していった美桜さんが帰宅してきて、玄関で出迎えた私に向けての最初の一言がこれだった。言っておくが誓ってデートなどではない、だって人妻だし。

 美容室で髪を整えてもらった後、昼食を食べてからが大変だった。同じ商業施設内にある有名ブランドの子供服店に連れて行かれて、小百合さんと店員さんたちに言われるがまま何着も着せ替えさせられたのだから。


 今着ている服はそこで買ったものだけど、残念ながら私は美容室の代金や昼食代含めてまったく支払っていない。支払おうとしたら小百合さんに優しいけれど圧のある笑顔と声色で拒否されて、非常に肩身のせまい思いをした。


 何着も試着をした上で、セーラー服っぽいワンピースを買ってもらった。この服と同じようなデザインの服っておそらく量販店とかにも売っているだろうけど、代金はこちらの方が桁ひとつ違うくらいにはお高い。奢ってもらう物の値段が高ければ高いほど居心地が悪くなるというのは、社会人経験がある大人にならおそらく理解してもらえるだろう。しかし残念ながらこの部屋には元社会人の私と現役女子高生の美桜さんしかいないので、悲しいかな賛同してはもらえなさそうだ。


 それでも必死になって私の居た堪れなかった気持ちを説明していると、美桜さんが『ふふっ』と小さく笑みを浮かべた。先程からの彼女の拗ねた様子は、どうやらフリだったようだ。


「冗談ですよ、トールさん。髪、キレイに整えてもらえてよかったですね」


 手を軽く握られながらそう言われて、私がコクリと頷く前に軽くだけどいきなり手を引かれて、体が美桜さんの方に引っ張られる。バランスを崩した私は美桜さんの豊かな胸元に倒れ込んでしまい、それに気づいて私があわてて離れようとする前に、何故かぎゅうっと美桜さんに抱きしめられてしまった。


「すぅーっ、美容室のシャンプーの匂いってすごくいい香りなんですよね」


 普段から美桜さんも通っている美容室だという話を小百合さんから聞いていたので、どうやら彼女はこのシャンプーの匂いが好きなんだろうなという考えにすぐ行き着いた。

 誰かに私たちのこの体勢を見られても、おそらく女子高生と女子小学生の微笑ましいふれ合いだと思われるだろう。しかし私の中身は言うまでもなくアラフォー男性なので、どちらかというと女子高生との接触して喜んでいる変態というレッテルを貼られてしまわないかとヒヤヒヤする。

 残念ながら美桜さんに体格と探索者としてのレベルで大きく負けている私には、彼女の腕の中から抜け出す方法がない。もしもそれらで勝っていたとしても、彼女の体を押そうとして手を置いた場所が、美桜さんの胸元ということもありえない話ではない。もしもそんなことになれば、元男性社会人としては土下座して詫びるぐらいしか対処法が思いつかない。


 頭の中でいろいろと考えたが結局のところ彼女の腕の中から抜け出すのに有効な方法が浮かばず、美桜さんにされるがままとなっていた私が彼女のギューから解放されたのは、それからさらに10分ほど経った後だった。

 ちょうどいいのですごく満足した様子の美桜さんに、気になっていたことを尋ねてみる。


「そう言えば和明さんって、今日は何時ぐらいに帰宅されるんでしょう?」


「パパですか? うーん……昨日はトールさんとお話するために、急いで帰ってきたみたいだけど。いつもは大体日付が変わるぐらいらしいですよ。私はその時間にはもう寝ていることが多いので、詳しく知りたいならママに聞いた方がいいかも」


 思い出すように空中に視線を向けながら答えてから、美桜さんは私を見つめて『パパに用事?』と聞き返してきた。美桜さんに秘密にするようなことではないので、コクリと頷く。


「私の探索者資格って、もう一回取得し直さないといけないのかを聞きたかったんです。これから別の人間として生活するなら、三原徹の資格証は使えませんし」


「そっか、国がバックについているんだもんね。トールさんの新しい戸籍なんて、簡単に作れるよね」


 国が完全に私の味方してくれるって完全には信用できないけど、少なくとも和明さんは信頼できるような気がしている。内部から国に働きかけられる人がいるのといないのでは安心感が大違いだし、なるべく彼とは協力関係を長く続けられればいいなと考えている。


 しかし美桜さんが私を今後どう扱うかという国の方針を知らなかったことに、少しだけ驚いた。小百合さんはこの件ではまったくの部外者なので、和明さんが詳細を説明できなくても当然のことと納得できる。でも成り行きとはいえ美桜さんは当事者で事情を全部知ってるんだから、あらかじめ和明さんから話を聞いていても不思議じゃないのにね。

 昨日の和明さんとのお話が終わったのが夜も更けてきた頃だったから、単純にそれから美桜さんと話すには時間が足りなかったのかもしれないが。


「パパにメール送っておきますよ、気づいたら返事くれると思うので」


「あ、美桜さん。ちょっと待ってください!」


 スマホを取り出して早速メッセージを打ちはじめた美桜さんを、私は慌てて止めた。不思議そうな表情で小首を傾げながら私を見る美桜さんに、質問内容を書かずに私から相談があるという旨の文章を送ってほしいとお願いする。


「別にいいですけど、内容を書いた方がすぐに返事がもらえそうじゃないですか?」


「ほら、ダンジョン協会にも手柄を挙げようと考える人がいたじゃないですか。念のためというか気にしすぎだとは思うのですが、もしも和明さんの周囲にメールを盗み見るような人がいたとして、その人が和明さんの失脚を狙っている人だとしたら……そういう面倒なことが起こったら嫌なので、内容は書かない方がいいのかなぁと」


 美桜さんに私の懸念を説明しながら、杞憂にもほどがあるなと自分自身に対して呆れてしまった。フィクションの世界では、有能な人を蹴落とす同僚みたいな役回りの人が当たり前のように登場するけど、現実のエリートが失職とか降格などのリスクを背負ってまでライバルの邪魔をするかなぁと懐疑的ではある。

 実際に省庁で働いたわけではないので想像でしかないのだが、きっと出世争いみたいなものは実際にあるのだろう。エリートならなおさら優れたバランス感覚で、同僚のスマホを盗み見たり情報を外部リークするような犯罪行為に手を染めたりはしないんじゃないかな。

 ダンジョンによって国が豊かになったからか、官僚や政治家による汚職事件も今は減ってきているらしいし。


 和明さんの場合はダンジョンを発見した私と一番最初に面識を得たことに加えて、転移トラップで飛ばされるというイレギュラーに見舞われた美桜さんの父親という立場があるから、別の人が担当者に成り代わろうとしてもその後の舵取りが難しいという事情もあるのかもしれない。

 その優秀さで打てば響くように私の出した条件にも即座に応じてくれたし、例え担当者を代えてほしいと言われても、和明さんには私と探索庁をつなぐ窓口で居続けてもらいたい。

 昨日出会ったばっかりだけど、それくらいには信用している。なにより、美桜さんのお父さんだからね。娘さんに対するの信頼が彼への信用にプラスされているのは間違いない。


「なるほど。パパの足を引っ張ろうとする人が、探索庁の中にもしかしたらいるかもしれないっていうことですよね。わかりました、パパの方から都合がいい時に連絡をもらえるようにだけ書いて送っておきます」


「杞憂だとは思うんですけどね。お手数ですが、よろしくお願いします」


 私がペコリと頭を下げると、美桜さんは『そんな他人行儀な』と笑いながら早速スマホをスイスイとフリック入力してメッセージを送っていた。

 いや、間違いなく私たちは他人ですからね。内心で思わずそうツッコんでしまって、苦笑してしまった。

 あとどうでもいい話だけど、私はどうもこのフリック入力というものがうまくできなかった。どの方向に指をすべらせたらいいのかはちゃんと理解しているのに、その通りにスマホが反応してくれなくて、違う文字が入力されるのが日常茶飯事だったんだよね。

 でも若返って肌とスマホのタッチパネルの相性がよくなったのか、すんなりとフリック入力をマスターできてしまった。確かに噂通りローマ字入力するよりも、メールを打つのが早くなったのは間違いない。


 そんなことを考えていると、早速和明さんから美桜さんのスマホに電話が掛かってきた。美桜さんが電話を取って二言三言話したあと、すぐに私にスマホを渡してきた。そう言えば美桜さんのスマホはあの巨大スライムに溶かされて消滅したはずなんだけど、このスマホは一体誰のものなんだろう。そんな疑問を感じつつも、私はスマホを受け取って電話の向こうにいる和明さんに話しかけた。


 結論から先に言えば、どうやら私が資格を取った頃よりもルールなどがいろいろと変わり、覚えなければならないことがかなり増えているらしい。学生時代に探索者試験で覚えた知識はもうほとんど忘れているから、ちゃんと勉強しなおさなければいけない。


 私が『試験に合格できるのか』と不安になっていることを察してくれた和明さんが、元有資格者として合格点を基準より少しだけ甘くしてくれるようにダンジョン協会へと手を回してくれるそうだ。

 ただしその甘くした合格点に至らなかった場合は、容赦なく不合格にされると釘を刺されたのだが、それは当然のことだと思う。


「大丈夫ですよ、私がちゃんとつきっきりで教えてあげますから。そもそも小学生の子でも初級探索者資格は合格できるんですから、そこまで難しくないですよ」


「でも美桜さん。その子たちは若いから、きっと脳がスポンジみたいに知識を吸い込むんだと思うんですよね。でもこの歳になると、新しいことはなかなか頭の中に入ってこなくなるんですよ」


 私がため息をつきながら言うと、美桜さんは小さく吹き出してからクスクスと笑った。


「トールさん、その見た目でお年寄りみたいなこと言わないでよ。トールさんだって若返ってるんだから、記憶力が小学生の頃ぐらいには戻っているんじゃないですか?」


 そう指摘されて『確かに!』と目から鱗が落ちたような気がした。ただ若返って数カ月経つけど、記憶力がよくなったり頭の回転が早くなったと感じたことはほとんどないかもしれない。


 とりあえず明日にでも本屋さんに行って、美桜さんがオススメしてくれた問題集を買ってくることにした。新しい戸籍に付随する色々なことが決まらないと、私も動くに動けないからね。今の状態でもできることから、自発的に動いていかないと。


 そう心に決めて両手をぎゅっと握りしめた私に、何故か美桜さんが優しい視線を向けていたのが不思議だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ